日本耳鼻咽喉科学会会報
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74 巻, 8 号
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  • 荒牧 昌子
    1971 年 74 巻 8 号 p. 1221-1225
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的真珠腫性中耳炎の診断法の一つとしてコレステリン結晶の耳漏内検出があり,従来一般光学顕微鏡によるコレステリン結晶の検出が行なわれているが,実際には検出困難な場合が多い,そこで(1)偏光顕微鏡,(2)光学顕微鏡,(3)電子顕微鏡,(4)X線回折により真珠腫性中耳炎患者より手術時に摘出したMatrix内のコレステリン結晶を観察し,臨床的応用について検討したので報告する.
    2. 方法材料は真珠腫性中耳炎13耳より摘出した真珠腫のコレステリン結晶を用いた.採取部位は固有鼓室4例,上鼓室3例,乳突洞4例,乳突蜂巣2例,である.観察方法は(1)偏光顕微鏡による方法:偏光装置付顕微鏡を使用し,100倍~400倍で観察,(2)光学顕微鏡による方法:真珠腫を,(a)無染色,(b)H.E.染色,(c)脂肪染色,(d)Masson Trichrom染色,を行った後観察した.(3)電子顕微鏡による方法:採取した真珠腫の標本をリン酸緩衝液で洗浄した後,0.1%オスミツク酸で固定,次にアルコールにより脱水,QY1に通し,EPN812で包埋,ウルトラミクロトームを使用し,ガラスナイフにて超薄切片を作り鉛染色をほどこし,JEM-T5型電子顕微鏡で10,000倍で観察,撮影した.なお対照実験として1%ゼラチン包埋したコレステリン結晶を同方法により観察した.(4)X線回折法:採取した真珠腫と純粋なコレステリン結晶のX線回折を行ない比較した.
    成績:偏光検鏡した13例すべてに大小種々の板状薙形ないし菱形のあざやかな青色および橙色の結晶が認められた.しかしコレステリン結晶の大きさは一定せず,あるいは配列の層状のものや,散在性のものなどがあつたが採取部位による結晶の形態上のちがいは認められなかつた.次に偏光顕微鏡によりコレステリン結晶の存在を確認してから種々の染色染光学顕微鏡により観察した.しかしこの方法ではコレステリン結晶を認めることが出来なかつた.次に電子顕微鏡では角化層,顆粒層,有棘層に黒い斑点像を認めた、そしてゼラチン内に包埋したコレステリン結晶の同観察法においても岡じ黒斑像が得られた.X線回折においては真珠腫のコレステリン結晶と純粋コレステリン結晶とも一致するX線回折曲線を得た.
    3. 結論(1)偏光顕微鏡によればコレステリン結晶は青色および橙色の矩形ないし菱彩の結晶として容易にみとめられる.この方法は操作の容易さと高い検出率から臨床的方法として充分利用する価値がある.(2)染色法による組織標本の光学顕微鏡検査はコレスリテン結晶検出法としては不適であると考えられる.(3)電子顕微鏡によればコレステリン結晶は黒斑像として写しだされるものと考えられる.(4)電子顕微鏡およびX線回折法は真珠腫性中耳炎の微量のコレステリン結晶の検出に,また組織学的研究に利用すべき方法と考える.
  • 大島 昭夫
    1971 年 74 巻 8 号 p. 1226-1234
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的オトマイクロサージャリーの進歩により奇形耳の聴力改善が可能となつたが,手術の適応決定,手術方法の選択にあたり胎生学的知識が要求される.
    聴器発生の組織形態発的研究は多いが,著者は聴器発生,特に聴器骨化過程をX線学的に観察した.
    方法使用X線装置はSoftexCMB型を用いた.材料は本邦健康妊婦より娠妊中絶によつてえられた胎生4ヶ月より10ヶ月までの胎児30胎を用いた.10%ホルマリン固定後.頭部を正中半截して,4方向よりX線撮影を行なつた.その後側頭部を剔出しAlizarin redによる骨染色をほどこし,ついでotomicro-scope下に局所解剖しX線像と比較検討した.
    成績1) 本邦人胎児聴器骨化は,胎生4ヶ月はじめにおいて,Tympanic ringおよびツチ骨前突起に認められた.
    2) ツチ骨前突起は,骨化過程から耳小骨の他の部分とことなり,むしろTympanic ringと同類であると考えられた.そして胎生期のツチ骨前突起は成人のそれに比し大きかつた.
    3) 三耳小骨は,ツチ骨前突起をのぞいて胎生4ヶ月はじめには軟骨性であつた.胎生5ヶ月はじめにツチ骨,キヌタ骨の骨化がはじまり,胎生5ヶ月末にはアブミ骨にも骨化がはじまっていた.4) キヌタ•アブミ関節部の骨化は最もおくれ,胎生7ヶ月にいたつていた.
    顔面神経管水平部鼓室側の骨化はキヌタ•アブミ開節部の骨化と期を一にした.
    5) Otic capsule,耳小骨は,ツチ骨前突起をのぞき,骨化がはじまつた時点においてすでに成入の大きさに達していた.
  • 桂 万寿美
    1971 年 74 巻 8 号 p. 1235-1244
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    〔目的〕メニル病の成因については自律神経異常との関係が考えられているにもかかわらず,この関係を裏付ける自律神経機能検査成績の報告は少ない.
    そこで,その発作後の経過をめまいの自覚の程度またはENGによる眼振出現の程度によつて3つに分け,それぞれの時期における自律神経機能検査の成績を比較するという方法を用いて自律神経異常とメニエール病との関係を調べた.
    〔方法〕検査は,不定愁訴症状群において臨床経過とよく一致した検査結果を示したと報告されているメコリール試験によつて行なつた.判定方法は数量的に検査結果がでてくる阿部法を選び,SNPの型の分類を行なうと同時に,同一患者についてはメコリール係数の2回ないしは3回検査における変動幅を検討した.
    〔結果〕メニエール病におけるメコリール試験の異常率(S型またはP型を示す場合)はその検査の時期によつて変化し,発作に近い時期には著しく高くなり,逆にめまいまたは眼振の消失した時期には減少することが判つた.
    また同一患者におけるメコリール係数の著しい変動によつてもこの傾向を知ることができた.
    このような自律神経機能状態の著しい変動がメニエール病における特徴といえそうであるが,この所見とメニエール病の成因との関係についてはメニエール病の発作時におこる迷路障害の結果,前庭自律神経反射を介してこれがおこると解釈することもできる.
    そこで,自律神経異常が予め存在する可能性は少なくて,手術時の迷路障害のためにめまいがおこつた慢性中耳炎手術例について同様の検査を行なつてみた.その検査成績はメニエール病の場合と異なり,めまいの経過に伴う異常率の変化は像とんどなく,メコリール係数はその変動も少なく,かつメニエール病に較べてS型寄りに分布する傾向を示した.したがつて,メコリール試験によつて明らかとなつためまい発作期の自律神経機能異常はめまい発作の結果としておこつたものではなく,その発症の原因に関係したものであることがわかつた.
    また,原因不明の耳性眩暈例におけるメコリール検査成績はメニエール病に類似の傾向を示したことから,自律神経異常による同様の成因からおこるものと考えた.
  • 制癌剤動注及び放射線療法を中心として
    鈴木 安恒, 三宅 浩郷, 犬山 征夫, 野村 公寿, 松川 純一, 永倉 健次, 藤井 一省
    1971 年 74 巻 8 号 p. 1245-1251
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    いわゆる進行性壊疽性鼻炎は近年の医学の進歩にもかかわらず,尚その本態は不明であり,死亡率も80~90%におよぶとされている.当教室においては昭和29年6月より,昭和45年6月迄の過去16年間にいわゆる進行性壊疽性鼻炎16例の治療をおこなつた.このうち昭和39年以降の症例に対しては,制癌剤動注,又はCo60,Linacによる照射,更にこれらの併用療法をおこない若干の知見を得た.遠隔成績は3年生存率3/13,23%,5年生存率2/1315%であつた.病型別にみるとWaitonの分類におけるClassial malignant granulomaでは3年生存率3/10 30%,5年生存率2/10 20%であるのに対し,Wegener'sgranulomatosis では3年,5年生存率共に0/3 0%と成績が悪い.長期生存例は2例あり,1例は17年,他の1例は8年2ヵ月生存している.治療適応についてはWaltonの分類におけるClassical malignantgranuloma.細網肉腫に対しては制癌剤動注と放射線療法との併用をfirstchoiceと考えている.Wegener'sgranulomatosisはやはりステロイド療法をfirstchoiceとし,その他,自家ワクチン療法,抗生剤投与抗プラスミン剤投与をおこなう.病型のはつきりしない症例では網癌剤動注と放射線との併用療法をfirst choiceとしておこない動注10回,又は放射線2000R照射の時,点で効果を判定し,効果がみとめられれば,そのまま治療を継続し,無効の場合はステロイド投与等他の治療法にきりかえる.
  • 粟田口 省吾, 井上 哲
    1971 年 74 巻 8 号 p. 1252-1262
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    研究目的口蓋扁桃に原発する悪性腫瘍はかならずしも稀なものではなく,本邦に於ても諸外国に於ても数々の報告が見られる.
    われわれは本腫瘍について,その発生頻度,組織学的所見,転移,治療法,及び予後等につき,現在までに発裏された諸家の報告と比較検討するために,総括的調査研究を行なつた.
    研究方法昭和26年より45年までの20年間に,弘前大学陵学部附属病院耳鼻咽喉科に於て診療した口蓋扁桃悪性腫瘍32例を資料とし,これら32例の性別年令別頻度,発病より初診までの期間,初発症状,初診時所見,転移,治療法,及びその予後について調査した.次いで,生検による組織のバラフィン包埋標本より新たに組織標本を作製し,ヘマトキシリン•エオジン,ギムザ,PAS,鍍銀(PAP)などの染色を行い,病理組織学的研究を行なつた.
    結果1) 32例のうち,上皮性のものは王2例,非上皮性のものは19例,悪性混合腫が1例であつた.
    2) 32例の年令分布は24才から84才にわたり,男子19例,女子13例であった.
    3) 発病から初診時までの期間は,大多数1カ月から5カ月までで,初発症状は咽頭痛や嚥下困難が多く,遠隔転移巣に由来する症状が初発症状となつたものはなかつた.
    4) 初診時の局所所見としては,主として扁桃の発赤腫脹が見られ,20例はさらに軟口蓋の腫脹や潰瘍形成が認められた.
    5) 初診時すでに頸部リンパ節に転移を認めたものは24例(75%)であり,遠隔転移ほ2例であった.
    6) これら32例の組織学的分類と臨床進度は,上皮性悪性腫瘍生2例,うち扁平上皮癌7(StageI 1例,StageII 5例,StageI 5例),リンパ上皮腫5例(StageI 1例,StageII 3例,StageIV 1例),非上皮性悪性腫瘍19例,うち細網肉16例(StageI5例,StageII 7例,StageIII 2例,StageI V2例),リンパ肉腫1例(StageII),ホヂキン氏病1例(StageII),形質緬胞腫1例(StageII), 悪性混合腫1例であつた.
    7) 治療法は大多数は放射線療法単独であり19例に行われた.その他は放射線と化学療法の併用(8例),もしくは外科的療法と放射線の併用(3例)であつた.
    8) 口蓋扁桃の悪性腫瘍は従来,外科療法,照射療法および化学療法が行われてきたが,最近では照射療法および化学療法のみによっても,その治癒率は比較的高く,照射療法を主としたわれわれの例では,5年以上経過を追うことの出来た24例中の5年生存例は10例(41.7%)であり,そのうち8例は放射線単独療法であった.なお,上皮性悪性腫瘍の5年生存率は37.5%であり,非上皮性悪性腫瘍は46.7%であつた.
  • 村上 泰
    1971 年 74 巻 8 号 p. 1263-1271
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    反射性声門閉鎖は異物の侵入を阻止して下気道を保護するための大切な営みである.内外喉頭筋群が協力して作用するもので,内喉頭筋では内筋を中心に閉鎖筋群が主役であり,開大筋である後筋むしろ抑制されて閉鎖を助けるものと考えられてきた.
    猫による著者等の実験成績によると,この結論は必ずしも正しいものではなく,後筋にも反射収縮を起す線維が含まれていて筋電図あるいは神経記録によつて反射波が証明され後筋全体が抑制弛緩するのではないことが見出された.今回の研究の目的は後筋反射について更に詳細に分析し,声帯に及ぼす効果を調べ,その生理的意義を追求することにある.実験動物は猫を用い,反射波の記録は筋電図及び神経記録の両者により,特に単一神経記録によつて反射の駐質を分析した,声帯位に及ぼす影響はシネフィルムから計測し,声門閉鎖の重要な因子である声帯のtensionについては圧記録の方法で,全筋intactな場合と後筋だけdenervateした時とを比較し,常に前者において緊張の強いことを観察した.
    その結果,後筋が今日まで云われてきた様に単なる開大筋ではなく,声帯緊張筋としての作用も併せ持つことが実験的に証明された.
  • 田中 美郷
    1971 年 74 巻 8 号 p. 1271-1303
    発行日: 1971/08/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は難聴や精薄,小児精神病,および脳性麻痺のごとき中枢神経傷害の認められないにかかわらず言語発達の遅れた一群のいわゆる「言語発達遅滞」の実態を明らかにすることにある
    まず原因を明らかにするために,昭和35年から45年の間に扱つた言語障害児1166名のうち,比較的例数の多かつた難聴児600名,精神発達遅滞児241名,脳性麻痺59名,言語発達遅滞児162名,および対照として正常3歳児500名について,家族歴,既往歴,発達歴を詳細に調べ,比較検討した.その結果言語遅滞には遺伝の関与するもののあることが推測されること,女に比して男に約26倍多いこと,妊娠中および分娩周辺期の原因は難聴,精神発達遅滞,脳性麻痺のそれと共通していて言語発達遅滞に特有なものはないこと,等がわかつた.このことからすると,あるNoxeが妊娠中ないし分娩周辺期の胎児または新生児の感覚器や神経系に作用した場合,その作用する部位や範囲,程度等によつて難聴,精神発逹遅滞,脳性麻痺または言語達遅滞が単独で生ずるか,またはいろいろな組合せによる合併疲として生ずるであろうという仮説をたてた
    また,症状のうち特に運動機能について検討を加え,言語発達遅滞は運動麻痺がないにかかわらず処女歩行の年令の遅れるものが正常児に比して多く,かつ随意運動の発達障害を有するものが多いことを認めた
    さらに,初診時言語発逹遅滞ない聴唖と診断され,現在就学中の62名について追跡調査したところ,誤診例として進行性筋萎縮症1例,難聴3例,精薄7例があう,またこれらを除いた51例についてみると依然として何らかの形の言語障害および随意運動障害を有するものの多いことを知つた.この事実は言語遅滞には就学後も特別な配慮の要するものが少なくないことを意味する
    最後に,誤診例を中心に精薄を合併した聴唖,協同運動障害および行為障害を伴う言語発達遅滞,進行性筋萎縮盤,聴覚失認を疑がわせた難聴例,発達性語聾およびその類似例について言語達経過を述べた.
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