日本耳鼻咽喉科学会会報
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回転刺激に対応するoptic-vestibular coordinationの発現と頸部深部受容器
項筋電気刺激による回転中眼振,回転後眼振の変動を指標とする観察
小池 聰之
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1971 年 74 巻 9 号 p. 1363-1382

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抄録

回転刺激に対する視器―迷路の協応(optic-vestibular coordination)の出現に頸筋深部受容器の活動性の変化がどの様な影響を及ぼすかを明かにするため次の実験を行った.
実験A:黒眼成熟ウサギを両眼視の条件で回転椅子にのせ,1.0°/sec2の割合で加速し,回転速度が180°/sec達した際に急停止する.次いで深層項筋電気刺激(10msec,矩形波,1V90",5V90",15V90")を加えたのち,上述の回転を行う.この二つの条件の回転で得られる回転中眼振,回転後眼振を計測し深層項筋電気刺激の回転眼振に対する影響を観察した.
実験B:黒眼成熟ウサギの片眼を覆い,上述の回転刺激を加え回転中眼振と回転後眼振を計測した.この際椅子の回転は開眼側→遮眼側(この際外界に遮眼側→開眼側に仮性運動をおこす筈)に向けて行った.また深層項筋への電気刺激は1V90"であつた.
実験A及び実験Bより次の成綴が得られた.
(i)1V90"の深層項筋電気刺激は,回転中眼振の出現を促進するが.15V90"のそれは回転中眼振を抑制する傾向を示した.5V90"の深層項筋電気刺激の場合は回転中眼振の促進と抑灘が略相半ばした.なお,回転中眼振の出現が促進される場合は,回転中眼振を最も効果的に発境させる回転椅子の速度の上限(至適回転速度)が上昇する傾向を示した.この逆に,回転中賑振の出現が抑制される場合は,この回転速度の下降を来す傾向を認めた.
(ii)実験Aでみられる回転後眼振の変動を回転中眼振のそれと組合せ観察したところ次の事実がわかつた.即ち,回転中眼振促進一回転後眼振抑制の組合せは,1V90"の深層項筋電気刺激の場合に最も多く,次いで5V90",15V90V"の電気刺激の順であつた.また,回転中眼振抑制一回転後眠振抑制の組合せは,1V90"の深層項電気刺激の場合にはなく,5V90",15V90"のそれではそれぞれ実験例の半数に出現した.
(iii)片眼視ウサギでの1V90"の深層項筋電気刺激は,両眼視ウサギの同じ電気刺激と比して,回転刺激適応性向上(回転中眼振の打数の増大,回転中眼振発現に対する至適回転速度の上昇,回転中眼振促進一回転後眼振抑制の組合せの出現など)を来す率が少なかつた.そして10羽中2羽では,この項筋電気刺激で却つて回転中眼振の抑制がみられ,そのうち1羽は回転中眼振の錯倒現象をみとめた.
以上の成績より,深層項筋への適量の電気刺激は,個体の回転刺激適応性を向上する傾向を示し,過剰な深層項筋電気刺激はそれを低下させる傾向を示すことが判つた.この事実は,頸筋深部受容器の平衡機能上の役割の1つは,回転に際して視器一迷路の協応(optic-vestibular coordination)を促進し,回転後眼振(迷路性平衡失調)を抑制し,それを通じて個体の回転刺激適応性を向上させる点にあると結論した.

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