日本耳鼻咽喉科学会会報
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74 巻, 9 号
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  • 藤 義孝
    1971 年 74 巻 9 号 p. 1325-1334
    発行日: 1971/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    (目的及び実験方法)
    化学療法の発達に伴い,急性中耳炎から慢性中耳炎に移行する頻度は減少の傾向がみられるが,しかし経過の遷延する症例も多い.これは,起炎菌の毒力や感染力,同一抗原によるアレルギー性炎症の再燃による以外に,宿主の代謝異常の結果にもよると考えられる.そこで,Arthus反応におけるnaturalmediatorの一つとして最近問題になつているArthusproteaseを家兎皮膚より抽出し,(i)家兎中耳腔にプロテアーゼを注入した.(ii)プロアーゼ注入後,St.aureus及びPs.aerugincsaを注入した(iii)プロテアーゼを注入し炎症性反応消退後,炎症局所の代謝の変化を支配すると想像される還元型グルタチオンを注入した.これらの家兎中耳粘膜の変化を形態学的に観察し,急性中耳炎における慢性化の機序に検討を加えた.
    (結果)
    1.Arthuspr pteaseを中耳腔に注入すると,中耳腔に滲出液の貯溜を認め,中耳粘膜にはArthur反応類似の組織変化が認められた.
    2.Arthur proteaseで炎症性変化を起した中耳粘膜には,細菌が定着,増殖しやすかつた.
    3.Arthus proteaseによる中耳の炎症性変化が消退した時期に還元型グルタチオンが増量すると.炎症性変化の再燃が起つた.
  • 原田 康夫
    1971 年 74 巻 9 号 p. 1335-1339
    発行日: 1971/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    蛙の三つの半規管をTyrcde液内で摘出し,夫々の半規管膨大部枝より電位を誘導した.はじめに後半規管のcanalendに膨大部内の液をampullofugal,ampullopetal流を起す事の出来る装置と接続したmicropigetを挿入し剃激した.後半規管ではampullopetal流の時,神経放電の数が増加しampullopetal流の時にはresponseがみられなかつた.同様の刺激の際,(1)CAmplifierで観察すると,ampullofugal流刺激で正の立ち上りのよいslowpotentialが認められ,その電位の上にspikeの増加がみられ,ampullopetal流では負のslow potentialがみられ,その電位の上の神経放電の数はむしろ減少した.
    次に前半規と水平半規管を摘出し,この2つ畔規管がcrus cmmuneにて結合している部よりmicropipetを挿入し,液の注入,吸引刺激をすると,前半規管では液の注入刺激(ampullofugal流)の際に神経放電の増加がみられ,これに反し,水平半規管膨大部枝からは自発放電の減少がみられた.液の吸引による刺激(ampullopetal流)の場合には,水平帯規管において神経放電の頻度の増加がみられ,前半規管では自発放電の減少がみられた.即ち,CritScommuneからのampullofugal,ampullopetal流は,前半規管,水平半規管に交互にresponseを起せしめ,これらの成績より,摘出した三つの半規管はEwaldの第2法則に従う事を証明し得た.
  • 塚本 嘉一
    1971 年 74 巻 9 号 p. 1340-1352
    発行日: 1971/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    目的:
    最近,顔面神経損傷部位,程度,診断法,手術法の発展に伴い,顔面神経麻痺に対する外科的療法が積極的に行われるようになつて来た.著者は動物実験によつて,実際臨床で行つている手術法と同様の術式で,禅経縫合,神経移植を行つて,術後の神経の経時豹観察と数量的検索を行い,予後の判定,徳後治療の進歩の一助とする.
  • 立木 孝, 本間 利美, 村井 盛子
    1971 年 74 巻 9 号 p. 1353-1357
    発行日: 1971/09/20
    公開日: 2008/07/31
    ジャーナル フリー
    幼児期よりの右高度難聴を訴える55才の女性について検索した成績をのべた.機能検査の成績では右側ほほ緩ろうであり,温度性眼振は誘発されなかった.ステソベルス法による内耳の単純レ線像及び3方向の内耳断層レ線像によつて,右側骨迷路の位置に一致して存在する一つの大きな空洞様構造をみとめた.外及び上半規管,並びに蝸牛は存在せず,内耳道は著明に狭窄を示した.左側はほぼ正常であつた.
    胎生期の内耳の発育の様式から考えて,この奇形は聴小嚢の発育が停止したものであると推測された.その意〓でこの「内耳空洞様奇形」ほ一つの疾患単位をなすものと理解することが可能である.この型の内耳奇形は,内耳の断層レ線像によるまでもなく,通常のステソベルス法によつて,特に外半規管の形態に注目することによつて臨床的に診断され得ると考えられた.それにもかかわらず本症の報告例が少ないことは,実際に本症が稀な疾患であることもさることながら,内耳奇形の診断に対して一般的な関心がもたれ難かつた点にもその一つの理由があると思われた.
    上記の観点から,〓後この種の症例がより積極的に検索,報告されることを期待して,これを「先天性内耳空洞奇形」又は「先天性内耳空洞症」と呼ぶことを提唱した.
  • 飯泉 修, 森 豊
    1971 年 74 巻 9 号 p. 1358-1362
    発行日: 1971/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
  • 項筋電気刺激による回転中眼振,回転後眼振の変動を指標とする観察
    小池 聰之
    1971 年 74 巻 9 号 p. 1363-1382
    発行日: 1971/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    回転刺激に対する視器―迷路の協応(optic-vestibular coordination)の出現に頸筋深部受容器の活動性の変化がどの様な影響を及ぼすかを明かにするため次の実験を行った.
    実験A:黒眼成熟ウサギを両眼視の条件で回転椅子にのせ,1.0°/sec2の割合で加速し,回転速度が180°/sec達した際に急停止する.次いで深層項筋電気刺激(10msec,矩形波,1V90",5V90",15V90")を加えたのち,上述の回転を行う.この二つの条件の回転で得られる回転中眼振,回転後眼振を計測し深層項筋電気刺激の回転眼振に対する影響を観察した.
    実験B:黒眼成熟ウサギの片眼を覆い,上述の回転刺激を加え回転中眼振と回転後眼振を計測した.この際椅子の回転は開眼側→遮眼側(この際外界に遮眼側→開眼側に仮性運動をおこす筈)に向けて行った.また深層項筋への電気刺激は1V90"であつた.
    実験A及び実験Bより次の成綴が得られた.
    (i)1V90"の深層項筋電気刺激は,回転中眼振の出現を促進するが.15V90"のそれは回転中眼振を抑制する傾向を示した.5V90"の深層項筋電気刺激の場合は回転中眼振の促進と抑灘が略相半ばした.なお,回転中眼振の出現が促進される場合は,回転中眼振を最も効果的に発境させる回転椅子の速度の上限(至適回転速度)が上昇する傾向を示した.この逆に,回転中賑振の出現が抑制される場合は,この回転速度の下降を来す傾向を認めた.
    (ii)実験Aでみられる回転後眼振の変動を回転中眼振のそれと組合せ観察したところ次の事実がわかつた.即ち,回転中眼振促進一回転後眼振抑制の組合せは,1V90"の深層項筋電気刺激の場合に最も多く,次いで5V90",15V90V"の電気刺激の順であつた.また,回転中眼振抑制一回転後眠振抑制の組合せは,1V90"の深層項電気刺激の場合にはなく,5V90",15V90"のそれではそれぞれ実験例の半数に出現した.
    (iii)片眼視ウサギでの1V90"の深層項筋電気刺激は,両眼視ウサギの同じ電気刺激と比して,回転刺激適応性向上(回転中眼振の打数の増大,回転中眼振発現に対する至適回転速度の上昇,回転中眼振促進一回転後眼振抑制の組合せの出現など)を来す率が少なかつた.そして10羽中2羽では,この項筋電気刺激で却つて回転中眼振の抑制がみられ,そのうち1羽は回転中眼振の錯倒現象をみとめた.
    以上の成績より,深層項筋への適量の電気刺激は,個体の回転刺激適応性を向上する傾向を示し,過剰な深層項筋電気刺激はそれを低下させる傾向を示すことが判つた.この事実は,頸筋深部受容器の平衡機能上の役割の1つは,回転に際して視器一迷路の協応(optic-vestibular coordination)を促進し,回転後眼振(迷路性平衡失調)を抑制し,それを通じて個体の回転刺激適応性を向上させる点にあると結論した.
  • 桜井 槙士
    1971 年 74 巻 9 号 p. 1383-1390
    発行日: 1971/09/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    Transferrinとは鉄と結合能を有する*-globulinのひとつで,生体における鉄の代謝に関連する糖蛋白である.生物学的機能としては,鉄の輸送と,不飽和Transferrinの細菌発青抑制作用などがあり,炎症と深い関係があるといわれ,また,鼻汁中には番種の血清蛋白がみられるが,ことYcTrans-ferrinは,顕蓍に出現するともいわれている.
    そこで,Transferrinの動態と炎症との関係を明らかにするため,Dis電気泳動法により,慢性副鼻腔炎患者鼻汁中のTransferrinの定量をおこなつた.
    対照として,鼻アレルギー患者鼻汁を用いた.さらに,螢光抗体法を用いて,慢性副鼻腔炎の上顎洞粘膜におけるTransferrinの分布を観察した.
    1)慢性副鼻腔炎鼻汁のnasal washing lml中の平均総蛋白量はv.1314mg,Transferrinは7.8%(0.00946mg)で,鼻アレルギーでは,平均総蛋白墨0.0411mgでTransferrinは4.4%(0.001808mg)であつた.両者を比較すると慢性副鼻腔炎では鼻アレルギーに比べて,総蛋白量とTransferrin量の増加がみられた.その増加の割合は,Transferrinのほうが著名であり,Transferrinの選択的増加を思わせた.
    2)慢性副鼻腔炎上顎洞粘膜におけるTransferrinの螢光陽性部位は,浸潤細胞であるリンパ球,ないしは,形質細胞の細胞質であり,ヒ皮層,血管周囲,腺腔周囲などにはみられなかつた.螢光院性部位の同定には,ヘマトキシリン•エオジン重染色をおこなつて対比した.以上のことから,慢性副鼻腔炎鼻汁中に,Transferrinが選択的に増加しているということは,単に,
    血管壁を介しての物理的透過というものではなくて,リンパ球系の細胞が重要な役割を果していることが想像された,しかし,これらの細胞が,Transferrinをa.R成しているのか,単なる運び手であるのか,現在のところ明らかではないが,Transferrinの合成が肝組織や,網内系組織(リンパ節,牌臓,骨髄)でおこなわれているという,過去の業績を参照するとぎ,炎症局所におけるTransferrinの動態は,密接にこれらの細胞と関連があり,炎症に対する防禦機構の一翼をになつているものと思われる.
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