日本耳鼻咽喉科学会会報
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形状記憶合金の耳鼻咽喉科領域への応用
絞断線および鼻鏡の試作
藤岡 正勝三輪 敬之平出 文久
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キーワード: 形状記憶合金, 係蹄,
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1984 年 87 巻 4 号 p. 461-467

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抄録

形状記憶合金の耳鼻咽喉科領域への応用についての研究は,いまだ報告されていないので,ここでは,Ti-Ni形状記憶合金wireを使用した扁桃摘出術用,鼻ポリープ摘出術用係蹄,および短鼻鏡の開大バネへの利用について報告した.
1) Ti-Ni形状記憶合金wireを形状記憶熱処理して作製した係蹄は,再使用の際,熱風,熱湯,電気凝固用ピンセットによる通電などで容易にもとの滑らかな形の係蹄に戻り繰り返し同一絞断線を使用することが出来る.
2) 臨床使用例は数例とまだ少数であるが,鼻ポリープ摘出術では,鼻ポリープを均等に絞り込んで切除することなしに引きぬくことも可能であった.これは,この合金wireが熱弾性マルテンサイトのため,巨大変形が容易であり,鋼線より全体的に絞り込むのに適しているように思われる.扁桃摘出術用の係蹄として使用した場合,扁桃を十分剥離して切除するのに問題ないが,Krause型絞断器使用の場合は,wireの取り付け箇所の切れこみを1mm程深くすると良い.なお,扁桃摘出術のシゴキの点は細かい配慮を要する.
3) Ti-Ni合金wireは105回の屈曲に堪えられるといわれているが,極端な屈曲では永久歪みが起こることがある.しかし,係蹄の形状では,それほど問題にならない.絞断力は鋼線と変わらず,耐摩性,耐食性に優れている.滅菌の際は,既に記憶された形状になっているから,記憶ボケの心配はない.
4) 超弾性の性質を持つTi-Ni合金wireを鼻鏡の開大バネに利用した.これは,ゴム金属といわれるごとく超弾性挙動を有するので,これを使用すると鼻鏡を開く力が一定となり,鼻孔の大小による力のかかり方の変化が少ない.小児に使用したところ,不快感もなく,装着出来,また,多少の方向の変更が出来る.両手が自由につかえ,器具も軽く簡便であった.

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