日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報
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総説
唾液腺癌に対する新たな薬物療法
多田 雄一郎
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2023 年 126 巻 2 号 p. 88-99

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抄録

 唾液腺癌において全身薬物治療は, 遠隔転移・再発病変に対して施行される. その適応は, 背景, 治療の目標, 臓器機能, 症状の有無, そして, 病理腫瘍型によって検討する必要がある. 肺転移のみの腺様嚢胞癌では進行が緩やかであることが多く, この場合, 無治療で経過観察される症例が多い. 一方, 唾液腺導管癌や腺癌 NOS, あるいは, 肺・肝・骨などの複数臓器に転移を生じている腺様嚢胞癌などでは, 早期に全身治療が導入される症例が多い.

 比較試験によって確立された標準的薬物治療はないため, 薬剤の選択は, 本邦においては, 主に頭頸部扁平上皮癌の承認薬が用いられる. プラチナ製剤とタキサン系抗癌剤の併用療法で比較的高い治療効果が報告されている. 一方, 近年はバイオマーカーに基づくさまざまな治療開発がなされている. 米国のガイドラインでは, アンドロゲン受容体 (AR) 陽性例にはリュープリンとビカルタミド, NTRK 融合遺伝子陽性例にはラロトレクチニブまたはエヌトレクチニブ, HER2 陽性例にはトラスツズマブ, トラスツズマブ + ペルツズマブ, トラスツズマブエムタンシン, トラスツズマブ + ドセタキセルまたはトラスツズマブデルクステカン, 腫瘍遺伝子変異量 (TMB) 高値症例にはペムブロリズマブが, それぞれ推奨されている. 本邦においても, トラスツズマブ, ラロトレクチニブ, エヌトレクチニブ, ペムブロリズマブによる保険診療が可能となっている.

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