抄録
新規医薬品の開発を主な事業とする創薬系バイオベンチャー(以下、「創薬系BV」)は、通常、基礎研究段階で起業するため、創業時には利益を生み出す商品(すなわち、医薬品)が存在しない。一方、製薬業界では1 つのパイプラインがスタートして医薬品が上市されるまでに、最低でも約10 年はかかるといわれるように、医薬品の開発には長期間を要する。したがって、創薬系BV の事業は、利益の出ない状態(いわゆる死の谷)が創業時から長期間にわたって続くという特徴を有する。また、医薬品の研究・開発には莫大な費用がかかるため、創薬系BV が単独でそれらの費用を賄うことはほぼ不可能であることから、大手製薬企業とアライアンスを組み、ある時点から開発は大手製薬企業に任せることが必要になる。
製薬企業が医薬品開発に要した莫大な費用を医薬品の上市後に回収し、かつ利益を上げるためには、医薬品候補化合物が特許権により保護されていることが不可欠である。その点、他の産業分野と比較して、特許の重要性が極めて高いことも製薬業界の事業の特徴の一つである。有望な医薬品候補化合物については日本のみならず米・欧の主要国を始め、その他多数の諸外国においても特許出願することが多く、必然的にこのような特許の取得および維持には多額の費用がかかる。一方、創薬系BV にとって、特許出願は、まだ利益の出ていない段階から行わなければならないことから、特許出願にかかる費用(コスト)は大きな財政的負担となり、創薬系BV の経営を逼迫させ得る。
そこで本稿では、このような避けることのできない特許出願のコストの問題に対して、創薬系BV が取り得る方策を、典型的な創薬系BV の収益モデルを前提に提案する。特に、特許出願のタイミングを大手製薬企業とのアライアンスの可否によって調節することによって、上記問題に対処することを提案する。