情報通信政策研究
Online ISSN : 2432-9177
Print ISSN : 2433-6254
ISSN-L : 2432-9177
特別寄稿
AIネットワークと製造物責任-設計上の欠陥を中心に
平野 晋
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 2 巻 1 号 p. 45-71

詳細
抄録

AIがネットワークを通じて製造物と繋がり合うことにより生じる「サイバーフィジカル」な状態には、製造物責任の適用が懸念される。そこで、総務省「AIネットワーク社会推進会議」が検討・公表してきた「AI開発ガイドライン案」から想起される製造物責任法上の主な論点を、部分的には「AI利活用原則案」の考察も加えつつ紹介し、もって関係者による製造物責任法上の問題の理解を深めることを、本稿の目的としている。紹介の対象としては、製造物責任法に於ける主な3つの欠陥概念である、〈製造上の欠陥〉、<設計上の欠陥>、及び〈指示警告上の欠陥〉の中で最も重要かつ中心的な概念である<設計上の欠陥>を主に取り上げて、その日米に於ける学説・判例法理を主に「AI開発ガイドライン案」に当てはめながら例示的に紹介する。

紹介の具体的内容としては、「連携の原則」、「透明性の原則」、「制御可能性の原則」、及び「安全の原則」等から想起される諸論点を例示的に紹介する。例えば、先ず「連携の原則」から想起される、AIが製造物と〈繋がる〉ことによるサイバーフィジカルな製造物責任について説き起こす。続いて、AIを用いた製造物の製造業者等がAI供給者に〈求償〉請求する際の障害問題を次のように指摘する。すなわちAIに責任原因があることが不透明性等の為に立証できないゆえに、製造物責任を課された製造物(端末等)の製造業者等がAI供給者から求償できない場合には、不公正であるばかりか、真に非難されるべきAI供給者に費用が内部化されずに望ましくない上に、製造物責任や不法行為法の重要な目的・機能である〈抑止〉も機能不全に陥ってしまい、製造業者等による望ましい活動自体が萎縮するおそれもあると指摘する。更に、「透明性の原則」に関しては、たとえAIの不透明性ゆえに具体的な欠陥・因果関係を直接的に立証できない場合であっても、「誤作動法理」が適用されれば製造業者等には製造物責任が課され得ることを紹介する。さらに「制御可能性の原則」に関しては、設計上の欠陥基準である「RADラッド」(reasonable alternative design: 理に適った代替的設計案)を用いた費用便益分析も紹介。「安全の原則」に関しては、製造物責任法が決して絶対責任を課していない点を、「双方的危険」や「危険極少化最適者」の概念を用いながら解説する。

著者関連情報
© 2018 総務省情報通信政策研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top