情報通信政策研究
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特集号: 情報通信政策研究
5 巻, 1 号
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特別寄稿
  • 大屋 雄裕
    2021 年5 巻1 号 p. 1-14
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    我が国が今後実現すべき社会像として位置付けられているSociety5.0について、その中核をなすサイバー空間とフィジカル空間(物理空間)の融合という概念を中心に検討する。まず、現在までに存在すると想定されている工業社会(Society 3.0)・情報社会(Society 4.0)それぞれの性質について、物理空間におけるモノの生産・流通の効率化とモノへの化体を経ない純粋な情報財流通の実現と要約できることを指摘する。その上で、現在の社会ではモノと情報の空間が分断されていること、両者が緊密に結び付くことを阻害している人間という結節点に注目し、IoT・AI・ロボティクスといったICT技術を活用することによりその問題を解消して、自己決定的な行為主体でなく観測の客体としての人間が重要な位置を占める「人格なき統治」を実現するところにその中心的な意義があると指摘する。また、そのような形で社会のスマート化を進めることが資源利用の効率化を通じたSDGsの実現に貢献すること、ICT利活用により主体としての人の動作や接触に依存せず社会機能が維持できるwith/afterコロナ時代のレジリエントな社会構築につながり得ることを主張する。その一方、嘘・手加減・不服従といった一見ネガティブに捉えられる要素が、法を通じて行為主体たる人間の行動をコーディネートすることを意図してきた従来の統治においては一定の正当性を担い、人間的な価値の実現に貢献するものと位置付けられてきたことを踏まえ、「人格なき統治」が社会内部における規律訓練や法規範の自動的な実現・執行までを対象とする場合にはそのような要素を利活用する可能性が消滅すること、だからこそSociety 5.0において人間的価値・人間中心主義が強調されざるを得ないという論理的関係にあることを指摘する。

  • ―社会アプリケーションの普及と活用における課題
    三友 仁志
    2021 年5 巻1 号 p. 15-31
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    2020年6月19日に提供が開始されたわが国の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)は、陽性者との接触を利用者に通知することにより、利用者の行動変容を促し、感染症対策の一端を担うことが期待された。プライバシーに配慮するため、GoogleとAppleが開発したAPI(アプリ相互のやりとりに必要な接続仕様)を採用し、スマートフォンのBluetooth機能を利用して個人情報を収集しない形で接触確認する仕組みが採用された。多くのスマートフォン利用者がアプリをダウンロードすることにより、感染拡大の防止に貢献するという社会的メリットを政府は強調した。しかし、実際には2021年9月半ば時点で、延べ3千万ダウンロードにとどまっており、陽性登録率に関しては全陽性者の2.3%に過ぎない。

    本稿では、新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAに関して、①厚生労働省が発表するデータに基づき、普及の状況とその要因解明の可能性について分析し、②中国の接触確認アプリ「健康コード」および韓国の感染者移動経路管理と比較するとともに、③2021年3月に独自に研究室で実施したCOCOAに関するアンケート調査に基づき、COCOAのダウンロードが感染の拡大状況に感応的でないこと、および信用の欠如がアプリの導入や陽性登録に大きな影響を与えている実態を把握する。社会的便益を強調しても、導入のインセンティブとはならず、個人がアプリから知覚する便益は低く、期待される社会的便益の形成とは大きく乖離していることが効果の発現を妨げていると言える。デジタル技術の活用の恩恵を社会が受けるためには、技術だけでなく、社会にどのように浸透させるかに関する戦略が不可欠であることをCOCOAは示唆している。

  • ―COVID-19 の経験から
    村井 純, 長 健二朗
    2021 年5 巻1 号 p. 33-47
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    新型コロナウィルス感染拡大で予想もしなかった環境変化が起こり、あらゆる人と組織があらゆるレベルで対応を余儀なくされた。その中で社会が直面した問題は、激変する環境にも迅速かつ柔軟に対応できるように、社会システムを再構築することである。本稿では、その実現にはまずデジタル社会の価値観を社会全体で共有する必要があるとし、自由と創造を育み変化に強いデジタルの仕組みを、インターネット発展におけるアーキテクチャとインターネット文化の役割から解説し、デジタル社会に向けてデジタルのメリットを如何に社会に組み込んで行くべきかを考察する。With/After コロナ時代におけるデジタル技術のもっとも大切な役割は日本の社会が健全に発展する基盤を提供することである。

調査研究ノート(査読付)
  • -政策の観点から
    木下 翔太郎
    2021 年5 巻1 号 p. 49-67
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    ICT技術の発展に伴い、テレビ電話などを用いて遠隔地の患者を診察するDoctor to Patientの遠隔医療が登場した。当初は僻地や離島などの限られた状況において使われ始めたが、ICT機器の普及に伴い、地域を問わず使用されるようになっていった。しかし、遠隔医療に関しては法規制の強弱などがその普及に影響を大きく及ぼす。我が国では規制や診療報酬上の評価が普及の障害となっており、情報通信政策や規制改革の文脈で推進の動きも見られていたが、大きな改善にはつながっていなかった。諸外国では我が国よりも積極的な活用もみられてはいたが、2019年末時点までは、世界的に見ても、遠隔医療が医療全体の中で占める役割は決して大きいとは言えない状況であった。

    2020年から本格化したCOVID-19パンデミックは、世界中で猛威を振るい、社会の様相を大きく変えた。医療現場においても、COVID-19患者対応や感染対策による外来の縮小や停止、治験の中断などの様々な影響が現れた。そうした中で、医療の継続、感染対策の観点から遠隔医療に注目が集まり、世界中で利用が拡大した。それまで法規制が普及の障害となっていた国々においても、臨時的・特例的な規制緩和が行われ、遠隔医療活用の道がひらけた。比較的遠隔医療の規制が厳しく普及が進んでいなかった我が国でも、対象疾患の拡大、初診の実施可能、診療報酬の改善などの規制緩和が行われ、利用が増加した。

    今後、遠隔医療の普及が持続していくかどうかはCOVID-19パンデミック期における規制緩和や促進策が一時的なもので終わらないかどうかという点が焦点となる。また、我が国のように規制緩和を経ても診療報酬などの点で制約が多い国においては、これらの改善がなされない限り今以上の普及は難しいと考えられる。遠隔医療特有のメリットを活かし、患者の様々なニーズに応えられるような新しい医療の形を目指すためにも、適切な普及のための政策が求められる。

    本稿では、諸外国の動向も踏まえつつ、我が国における遠隔医療の普及やCOVID-19パンデミック前後の変化について診療報酬などの政策動向を中心に整理し、今後に向けた課題の整理を行う。

寄稿論文
  • ―EU法及びドイツ法を中心とした考察
    栗田 昌裕
    2021 年5 巻1 号 p. 69-96
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    著作権法は、著作物の流通をコントロールする権利として、頒布権(同法26条)、譲渡権(同法26条の2)及び貸与権(同法26条の3)を認めている。ただし、一方では商品の自由な流通を確保する必要があり、他方では著作者には第一譲渡に際して代償を確保する機会が保障されていれば十分であるため、著作物の原作品又は複製物の適法な第一譲渡があれば譲渡権は消尽し、その後の譲渡には権利を行使できないものとされている(同法26条の2第1項)。同様に、判例は「頒布権のうち譲渡する権利」についても解釈によって消尽を認めている。ところが、消尽は、「原作品」又は「複製物」という有体物の適法な第一譲渡を要件としているため、文言を素直に読む限りでは、情報の送受信によって提供されるデジタルコンテンツには適用の余地がないように思われる。しかし、複製物と同等の対価を支払ってデジタルコンテンツの永続的な私的利用の許諾を得たにもかかわらず、その再販売が認められないのは不当であるとして、この場合にも消尽を認めるべきとの主張がある。これをデジタル消尽という。欧州司法裁判所は、適用されるEU指令が異なることなどから、コンピュータプログラムについては限定的にデジタル消尽を認める判断を下しながら(UsedSoft事件)、電子書籍についてはこれを否定した(Tom Kabinet事件)。また、両先決裁定を受けて、ドイツ法では、デジタル消尽の一般化の適否が論じられるとともに、仮にこれを認めても権利者はプラットフォームのアーキテクチャの設計と利用許諾契約によってその適用を回避できることが指摘され、デジタルコンテンツを提供するプラットフォーム事業者とエンドユーザーとの法律関係の規律へと議論は展開しつつある。この両者の法律関係が契約法、消費者法及び競争法による規制を受けることはもちろんであるが、著作者、利用者及び公共の利益を調整するという著作権法の役割も重要であるとして、一部では、エンドユーザーの法的地位を役権(制限人役権)に相当する物権的権利と位置づけるなどの多様な視角からの検討が行われている。そこで、本稿では、デジタルコンテンツの流通形態を整理して現行法の解決を示したうえで、欧州司法裁判所の両先決裁定とこれを受けたドイツ法の展開を紹介し、日本法への示唆を得るとともに、将来に向けての検討の方向性を提示する。

  • 西内 康人
    2021 年5 巻1 号 p. 97-111
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    電気通信により情報を伝達する契約は、民商法の教科書類で取り上げられることもあったものの、特別法や約款で規律されてきたこともあり記述的考察が中心であった。しかし、いくつかの点から民事的に規範的考察を加える必要がある。その一つは、強行法規の有無である。このほかに、定型約款の規制や消費者契約法10条の規制を考えるベースラインとしてそうした契約を規律する任意法規を考える必要がある。そこで、本稿では、現行の規律とのアナロジー、原理の活用や、目的論的解釈を通じて、こうした規範的考察、特に債務不履行に関する責任設定基準の内容についての考察を行うことを目的とする。具体的には、①こうした契約が典型契約のいずれに整合するかという問題と、②こうした契約に関係した有償・無償の区別に関する問題を扱う。①については、電気通信が信書に近いものであるとすれば、商法上は運送、民法上は請負に区分されうることを前提にする。その上で、民法上の区分は請負とした方がよいのか、それとも、データの「保管」的作用をとらえて寄託に区分した方がよいか、あるいは、役務提供契約の受け皿的規定である準委任に区分した方がよいか、こうした点を考察する。また、商法上の運送の規律はこうした契約にどこまで及ぶべきか、問題となる商法の規定が民法の特則を定めている理由の分析を行い、そこから目的論的解釈として、商法の規定の射程を考察する。その後、②については、まず、有償・無償という区分が民事的規律にとっていかなる意味を持つかをまとめる。特に、無償とされた場合の債務不履行に関する責任設定基準への影響をまとめる。その上で、有償・無償を区分する主観的基準・客観的基準が民事上どのように考えられているのかに照らして、本稿で問題とする契約ではどのような点が有償性認定への支障となりうるのかをまとめる。すなわち、主観的基準としては役務利用者と利益提供者がズレてしまう可能性、また、客観的基準としてはデータの取得が対価給付に該当しうるかを考察する。②ではこれらに引き続いて、無償契約としたままでも、有償契約と同様の責任設定基準を設定できるかどうか、法の経済分析も用いつつ検討する。

  • 武田 英明
    2021 年5 巻1 号 p. 113-129
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    本稿では、高度情報化社会における人のあり方として分人型社会システムを提案し、議論を行った。個人(individual)を分割不可分な一つの存在とみなすのではなく、個別の関係性によって生じる人の部分的な存在として分人(dividual)を導入し、この分人が社会を構成すると考えるのが分人型社会システムである。まず、分人という概念の出自について、文化人類学、作家平野啓一郎、心理学・社会学、哲学者ドゥルーズにおける分人のあり方を紹介する。このような分人を巡る議論の中から、本稿では、特にプラットフォーム/制度に紐づいた存在を分人と定義する。このような形で分人を定義することで、社会の活力の増大、個人の新たな幸福への機会創出、デジタル技術と融合した社会の発展が期待される。ただ、このような分人に基づいた社会、分人型社会システムの実現には多くの課題がある。これをレッシグの4つの規制の枠組みで分析した。分人で構成される分人間社会ではアーキテクチャの安定性や内部のルールと実社会の法律との関係性が課題になる。分人を前提とした実社会では、分人の社会的認知や分人の法的位置付けが課題となる。こういった課題を克服し分人型社会システムを構築することによって、人々がSociety 5.0に代表される高度な情報化社会において十二分に活躍できるようになる。

  • ―偉人アンドロイド・作家AIと肖像権、著作権、尊厳―
    福井 健策
    2021 年5 巻1 号 p. 131-144
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    故人を人工知能(AI)やヒト型ロボット(アンドロイド)技術で蘇らせようという試みが止まらない。古くはバッハ風の曲を自動作曲した1980年代のプログラム「エミー」から、レンブラント、手塚治虫、ビートルズのAI、更にアンドロイドや3D映像で蘇った夏目漱石、美空ひばりまで。こうした故人の再生は、あるいは仏壇や遺影の姿を変え、あるいはスター達やカリスマ的な経営者・指導者の「バーチャル延命」など、単なるビジネスチャンスを超えて、我々の生活や死生観をも変えて行く潜在力を有している。

    法的には、こうした「故人の再生」はそのタイプによって肖像権、パブリシティ権、著作権などの処理を必要とする。現在の法ルールや通説に従えば、ある程度までの再生は権利処理不要でおこなえると解釈できそうだが、現実には少なくとも遺族の同意のもとに進められるケースが大半だろう。

    しかし、例えばAI美空ひばりが「冒涜だ」といった批判を招くなど、(遺族の了承の有無に関わらず)人々は故人の再生に、倫理的・感情的な違和感を抱くことも少なくない。それは通常のアンドロイドでも見られる「不気味の谷」の問題を超えて(あるいは根本において同じ原因を抱えつつ)、恐らく「死者をよみがえらせる」という行為そのものの突きつける重大な問いかけであろう。

    では、故人の再生はどのような準則に従って行われるべきか。世界的なAI・ロボット開発をめぐる議論の中で取り上げられることは少ないが、もうその議論を始めるべき時が来ているように思われる。

論文(査読付)
  • -EU法と日本法の比較を通じて
    鈴木 康平
    2021 年5 巻1 号 p. 145-166
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    本稿では、EU法(一般データ保護規則(GDPR)、オンライン仲介サービスの公正性・透明性の促進に関する規則、デジタルサービス法案)と日本法(個人情報保護法、デジタルプラットフォーム取引透明化法(透明化法))との比較を通じて、デジタルプラットフォーム(DPF)規制について、透明性という観点から検討を行った。EU法と日本法とを比較し、論点として、①個人情報保護法における透明性に関する基本原則と一般的なルールの不在、②アルゴリズムによる自動処理の透明性、③透明性レポートを挙げた。

    第1の論点は、個人情報保護法における透明性に関する基本原則と一般的なルールの不在である。GDPRの透明性に関する一般的なルールにおいて、個人データの利用目的の適法化根拠を明確にすべきとされており、GDPRの適法化根拠の一つに「同意」がある。GDPRにおいて同意は、透明性の原則に則った厳格な要件を満たしたもののみが有効であるとされている。個人情報保護法において適法化根拠の代表として同意が用いられていることからすると、GDPR以上に同意の有効性に関する明確なルールが必要と考える。また、GDPRが透明性の原則から有効な同意の要件を導き出していることからすると、個人情報保護法にも透明性に関する基本原則や一般的なルールを定めることが必要と考える。

    第2の論点は、DPFで利用されるアルゴリズムによる自動処理の透明性である。EU法では、アルゴリズムによる自動処理に関して、決定を左右する主なパラメータや相対的に重要である理由の開示が義務づけられている一方、個人情報保護法にはそのような開示義務自体がなく、透明化法には主なパラメータの開示義務はあるものの、その理由の開示義務はみられない。個人情報保護法、透明化法ともに主なパラメータやその理由の開示を強化する必要がある。また、開示されたパラメータが本当に重要なものなのかを判断するために、必要な場合には、個人情報保護委員会や経済産業省に対してアルゴリズムを開示することをDPF提供者に義務づけることを、営業秘密とのバランスも加味して今後検討すべきである。

    第3の論点は、透明性レポートである。透明性レポートの提出が義務づけられる対象について、DSAは規模の大小にかかわらずすべてのDPF提供者が対象であるところ、透明化法は対象となるDPFを政令で定めることとしており、透明性の確保と競争促進のバランスを保ちやすいと考えられる。一方、報告事項については、DSAはDPFの規模等に応じて強弱をつけているのに対し、透明化法は一律となっており、透明化法が規制対象を広げる場合には、透明化法に関する指針を用いて報告事項の強弱を設けることが望ましい。

海外政策動向分析
  • ―支配的プラットフォーム規制アプローチ―
    佐々木 勉
    2021 年5 巻1 号 p. 167-198
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    現代の情報通信経済は、GAFAやBATHといったオンライン・プラットフォームにより牽引されている。そうしたオンライン・プラットフォームについて政府がどのように関与していくかは、長年の課題だった。2020年12月、欧州連合は、電気通信分野における支配的事業者規制を範としたデジタル市場法案を発表した。

    本稿は、欧州連合のアプローチを取り上げ、米国のアプローチを補足する。まず欧州連合のデジタル市場法案に至る背景として、これまでの競争法に基づく反トラスト調査の経緯、そしてオンライン・プラットフォーム市場で起きている問題点、さらにオンライン・プラットフォーム市場の経済的特性を整理する。そして同法案の内容について、支配的事業者に相当する「ゲートキーパー」とは何か、どのような基準で選定し、どのように規制するか、またその規制のためにどのような執行ツールを設けているのか、そして義務等の不履行に対してどのような罰則を科すのかを探る。

    欧州連合のデジタル市場法案発表から半年たった2021年6月、米国も下院司法委員会の議論を踏まえ、議員立法によるオンライン・プラットフォーム規制5法案が発表された。欧州連合の法案の特徴を明確化するため、本稿後半では、米国の法案を取り上げて対比させる。

    欧州連合でも米国でも、まだ法案段階である。すなわち、今回取り上げる法律内容は最終的な条文ではない。しかし、本稿は、こうしたオンライン・プラットフォーム分野における新しい規制アプローチが提案され、新たな時代に踏み込もうとしている現状を明らかにすることで、我が国の政策作り、研究あるいは企業戦略に資すことを目指す。

立案担当者解説
  • 田中 隆浩, 加藤 彰浩
    2021 年5 巻1 号 p. 199-204
    発行日: 2021/07/21
    公開日: 2021/12/10
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    第204回通常国会において成立した「国立研究開発法人情報通信研究機構法の一部を改正する法律」は、将来における我が国の経済社会の発展の基盤となる、次世代の通信インフラであるBeyond 5G(いわゆる6G)の実現に不可欠な革新的な情報通信技術の創出を推進するため、国立研究開発法人情報通信研究機構について、高度通信・放送研究開発に係る助成金交付業務の対象を拡大するとともに、当該業務並びに情報の電磁的流通及び電波の利用に関する技術の研究及び開発に関する業務のうち一定の要件を満たすものに要する費用に充てるための基金を設ける等の所要の措置を講ずるものである。

  • 中山 康一郎, 大澤 一雄, 伊藤 愉理子
    2021 年5 巻1 号 p. 205-217
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    第204回通常国会において成立した特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が増加する中で、発信者情報の開示請求についてその事案の実情に即した迅速かつ適正な解決を図るため、①発信者情報の開示請求に係る新たな裁判手続を創設するとともに、②開示請求を行うことができる範囲を見直す等の措置を講ずるものである。

    ①については、近年、SNSの普及等により、法制定時と比べて、誹謗中傷等の権利侵害が増加・深刻化する傾向にあること等を踏まえ、現在、発信者の特定には2回の裁判手続を別々に経る必要があるのを、「一つの裁判手続」により行うことを可能にするとともに、書面審理等を適切に活用することにより、裁判所の迅速な判断を可能とする仕組みを設けるものである。

    ②については、近年普及している大手SNSには、そのシステム上、実際に投稿を行った際の通信記録の保存は行わず、アカウントにログイン等したときの記録のみを保存している「ログイン型サービス」が多いこと等を踏まえ、開示請求の相手方として、「ログイン型サービス」のアカウントにログイン等したときの通信を媒介等した者を追加すること等により、被害者救済をより一層円滑ならしめるものである。

  • 小杉 裕二, 渡部 祐太
    2021 年5 巻1 号 p. 219-222
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
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    令和2年5月22日に公布された「電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律」では、外国法人等が電気通信事業を営む場合の規定の整備等が行われ、当該整備に係る改正ついては、令和3年4月1日に施行された。

    総務省では、改正法の施行に当たり、関係省令を改正するとともに「外国法人等が電気通信事業を営む場合における電気通信事業法の適用に関する考え方」を策定・公表した。

    「外国法人等が電気通信事業を営む場合における電気通信事業法の適用に関する考え方」では、①外国法人等が、日本国内において電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合、②外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合に適用されるとしているほか、登録・届出の手続及び国内代表者等の指定その他の電気通信事業法の規律の適用について明らかにしている。

  • 丸山 和子, 伊藤 愉理子, 呂 佳叡
    2021 年5 巻1 号 p. 223-231
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー HTML

    「プラットフォームサービスに関する研究会」の最終報告書(令和2年2月)において、電気通信事業法第29条第1項第1号に基づく業務改善命令の発動に際する一定の基準や事例を法執行に係る指針を策定・公表することが適当である、とされたとともに、有効な同意の取得やその際の説明の在り方について、さらに検討を深めることが必要であるとされたことを踏まえ、「通信の秘密の確保に支障があるときの業務の改善命令の発動に係る指針」及び「同意取得の在り方に関する参照文書」を令和3年2月25日に策定・公表した。

    同指針においては、電気通信事業者、業務の方法、通信の秘密の確保に支障があるとき等の考え方を示すともに、通信の秘密の確保に支障があるときとして想定されるケースを類型化した上で例示している。

    同文書においては、通信の秘密における同意取得の意味、利用者の有効な同意のために必要とされる同意取得の在り方、個別具体的かつ明確な同意等について説明した上で、通信の秘密の侵害を防止する観点からのリスク分析についても触れつつ、個別ケースの検討を行っている。

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