2025 年 9 巻 1 号 p. 29-51
AI技術は急速な進歩を遂げており、国の産業力強化ならびに国民生活の向上に資するものとして注目を集めている。そして、AI技術の利便性が高まる一方、特に生成AIの普及によって、AIに起因する様々なリスクが顕在化し、それに対する対処が喫緊の課題となっている。AIの技術的リスクに関する研究は、AI研究の黎明期から豊富な蓄積があるものの、AIの社会リスクに関する研究はその範囲が広く、また十分な研究蓄積があるとは国内外ともに言えない。特に、AIに対する経済学をはじめとする社会科学からのアプローチが現在社会から求められているものの、これらに関する実証分析(特に、AIサービスの利用者視点からのAIの社会リスク等に関する実証分析)の蓄積は国内外ともに少なく、萌芽状態にある。この種の研究を進めていく上で、近年、コグニティブ・セキュリティと呼ばれる学際的な研究分野でのアプローチや知見が有用であることが指摘されている。本稿では、筆者がこれまで行ったAIサービスに内在するリスクやそのサービス利用のメカニズムやAIに対してのトラスト等に関する実証分析を紹介する。その中で、AIサービスが抱えるリスクは、技術的な側面だけでなく、人間の認知特性や社会構造に起因するリスクとして捉えるべきであること、AIサービスが普及するためには、価格戦略や技術的リスクの低減に加えて、利用者の主観的なリスク許容度を考慮した多角的なアプローチが不可欠であること、AIサービスの受容プロセスは、そのサービス内容によって異なるため、ケース依存で考えなければいけないこと等をまとめている。そして、コグニティブ・セキュリティでも指摘されているように、本稿では、AIサービスの設計と社会実装において、技術的な安全性に加えて、人間の心理的・社会的な側面を深く理解することの重要性を強調している。
AI technology is rapidly advancing, attracting attention for its potential to strengthen national industry and improve citizens' lives. However, the increasing utility of AI, particularly Generative AI, has highlighted various risks, making urgent countermeasures essential. While extensive research exists on technical AI risks since the dawn of AI, studies on AI's societal risks—especially empirical analyses from the perspective of AI service users—are limited both domestically and internationally, constituting an emerging field. Social science approaches, particularly from economics, are highly sought after but remain underdeveloped in this area. Recently, the interdisciplinary field of Cognitive Security has been pointed out as a useful framework for advancing this type of research. This paper introduces the author's empirical analyses on risks inherent in AI services, user utilization mechanisms, and trust in AI. The findings underscore several key points: at first, AI service risks must be viewed not only from a technical standpoint but also as risks rooted in human cognitive characteristics and social structures. Second, the widespread adoption of AI services requires a multifaceted approach that considers users' subjective risk tolerance, in addition to pricing strategies and the reduction of technical risks. Third, the acceptance process for AI services is case-dependent and varies according to the specific service content. As also emphasized in Cognitive Security, this paper highlights the critical importance of deeply understanding human psychological and social aspects alongside technical safety in the design and social implementation of AI services.
AI技術は急速な進歩を遂げており、国の産業力強化ならびに国民生活の向上に資するものとして注目を集めている。日本においてもその社会実装と普及に向けた取組みが推進されている。2021年3月26日に閣議決定された「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021年度~2025年度)2では、「人間中心のSociety 5.0」の実現を目標に、AIが今後の社会基盤を担う不可欠な技術であることが明確に示された。この基本計画において、早急に取り組むべきAIに関する課題として、1) 研究開発の強化と産業化、2) 人材育成と流動性の向上、3) 社会的課題への対応とガバナンスの確立、等が挙げられている。また、科学技術振興機構・研究開発戦略センター (2025)では、AI研究開発の最新動向がまとめられ、基盤モデル・生成AIのブレークスルーが技術発展と社会実装を急速に加速させていることが指摘されている。2025年8月1日には、内閣府は科学技術・イノベーション推進事務局に「人工知能政策推進室」を設置した。これにより、それまで各省庁に分散していた日本のAI政策を総合的かつ横断的に推進することが可能となり、政策立案から実行までのプロセスが効率化され、日本のAI戦略がより迅速かつ効果的に進められることが期待されている。
AI技術の利便性が高まる一方、特に生成AIの普及によって、AIに起因する様々なリスク(以下、「AIによるリスク」と称す)が顕在化している3。AIによるリスクは、大きく「技術的リスク」と「社会的リスク」に分類される。前者は、誤判断、ハルシネーション、安全性、セキュリティ等でAIシステム特有のものである。また、後者は、プライバシー権や財産権の侵害、誤用・悪用、認知負荷、バイアス、法的リスク、レピュテーションリスク等に関わるもので、既存のリスクがAIにおいても発生するとともに、AIによって増幅するといった特徴を有しているものである。これらのAIによるリスクは、経済・社会活動および人々の生活基盤を揺るがす潜在的な可能性を内包している。例えば、市場分析に用いられるAIシステムがハルシネーションや誤判断を起こした場合、関連企業の信用失墜や投資の失敗等、直接的な経済的損害をもたらす可能性がある。また、企業のAIシステムがサイバー攻撃の標的となったり、AIを悪用した高度なサイバー犯罪が増加したりすることで、企業の機密情報や顧客データが漏洩することが考えられる。これは単なる経済的損失にとどまらず、企業に法的な責任問題も引き起こすことになる。
内閣府AI戦略会議・AI制度研究会が、2025年2月に発表した「AI戦略中間とりまとめ」4において、倫理的・法的・社会的な基準の整備とともに、AIの安全性と信頼性を確保し、安全なAIシステムの普及を促すためのAIガバナンスの枠組み構築の必要性が指摘されている5。その中で、AIによるリスクへの対応とAIガバナンスの確立に向けて1) 「法令の適用とソフトローの活用」、2) 「役割と責任の明確化」、3) 「国民の不安への対応」の戦略的アプローチを提示している。これらは、順に、1) 技術の進歩に迅速かつ柔軟に対応するため、既存の法令の適用に加えて、ガイドライン等の非拘束的なソフトローを積極的に活用していくこと、2) AIの開発者、提供者、利用者を含む全てのステークホルダーの役割と責任を明確化し、連携を強化していくこと、3) AIに対する国民の不安や懸念を払拭するため、具体的な対策を講じて、信頼性を構築すること、をそれぞれ表している。
AIの技術的リスクに関する研究は、AI研究の黎明期から豊富な蓄積があり、AIが社会に実装されるにつれて、その重要性は一層増している。これらの研究は、AIの安全性、堅牢性、信頼性を根本から高めるための体系的な研究分野として確立し、例えばAIがハルシネーションを起こす原因の特定や、敵対的攻撃への防御策といった多岐にわたるテーマが深く掘り下げられている。他方で、AIの社会的リスクに関する研究は、倫理や社会的影響に関する理論的な議論は活発に行われているものの、実証研究は国内外ともに依然として少ないのが現状である6。AIの社会的リスクが実際にどのような形で現れ、どの程度の深刻さを持つのかを正確に把握することは、理論的な考察だけでは困難である。社会全体でAIをより安全かつ倫理的に利用するための基盤を構築するためには、具体的なデータに基づくリスクの理解と、効果的な解決策の導出を目的とした実証研究が必要不可欠である。近年、AIの社会リスクに関する研究は、抽象的な議論からデータに基づいた具体的なリスクの解明へと変化している。例えば、AIバイアス、AIによる偽情報、AIの透明性と説明可能性等に関する研究が行われている。なお、これらの実証研究の動向は、Kelly et al. (2023)等のレビュー論文で包括的にまとめられているので、参照されたい。
AIによるリスクが顕在化する中で、コグニティブ・セキュリティが(AI、人間行動、社会科学を統合した)学際的な研究分野として注目を集めている。この概念は、認知(AIの認知能力や人間の認知心理)とセキュリティ(サイバーセキュリティ)を統合したものであり、セキュリティ・エコノミクスと同様に、人間をサイバーセキュリティにおける最も脆弱な要素と捉え、その人間の認知的な脆弱性に対処することを目的としている。具体的には、人間行動や認知心理学の知見に基づき、脅威に対する人間の非合理的な行動や心理的バイアスを分析する。そして、その結果は、利用者の行動と認知プロセスを深く理解し、より安全なシステムの設計や、効果的なセキュリティ教育プログラムの開発に活用される。コグニティブ・セキュリティの研究動向は、AIの急速な進化とサイバー攻撃の複雑化に対応するため、従来の技術的防御から人間中心の防御へとシフトしている(科学技術振興機構・研究開発戦略センター, 2023)。
本稿では、筆者がこれまで行ってきた研究(竹村他, 2023a,2023b, 2025)を基に、AIの社会受容性の醸成に必要なことと課題について考察する。AIサービスとして、利用目的やリスクの異なる「片付け掃除ロボットサービス」と「スマートスピーカーによるオンラインショッピング」、「ロボアドバイザー」の3つを取り上げ、それぞれの受容性に対する異なるアプローチの実証分析を紹介する。これらのサービスは、その内容(目的や動作)が異なるだけでなく、利用者が直面する金銭的リスクの大きさもそれぞれ異なるという特徴を持つ。
AI搭載の家事製品やサービス(以下、「AI搭載家事サービス」と称す)は、その利用者の家事の負担を軽減し、生活を豊かにする大きな価値を持っている。例えば、1日に20分掃除をするとした場合、AI搭載家事サービスを利用することで20分×365日=121.7時間の節約になり。これを賃金換算すれば年間約16万円(時給1,300円で試算)の額になる。他の家事でもこれらを利用することで、その(金銭換算した)利用価値は十分に大きいものになることがわかる。また、家事労働を軽減できるだけでなく、仕事や趣味にチャレンジする時間的余裕(機会)が生まれるため、生活の幅を広げることにつながる。他方、AI搭載家事サービスにはいくつかの課題がある。例えば、利用者の期待とAIの実際の動作が一致しないことが挙げられる。これは、AIが学習した一般的なデータと、個々の家庭の特殊な状況や個人の習慣が異なるために起こることである。また、AI技術自体にも課題がある。具体的には、AIの認識や判断の精度が完璧ではないことや、サービスの提供後に不十分なデータしか集まらなかったり、誤ってデータが利用されたりする問題である。これらの課題は、今後の技術進展によって改善される可能性はあるものの、完全にゼロにすることは困難であり、AI搭載家事サービスは常に誤作動のリスクを抱えることとなる。AI搭載家事サービス市場で受け入れられるためには、利用者がこうしたリスクをある程度許容することが求められることになる。
本節では、AI搭載家事サービスの誤判断の頻度を一定期間に発生する確率として捉えたコンジョイント分析を行い、利用者がどの程度の誤判断リスクを許容するのか、そしてその許容度が他のどのようなサービス属性(価格、機能、ブランド等)とトレードオフの関係にあるのかを明らかにしていく。また、AIサービスを使いやすくするために「AIサービスのリスクを保険でカバーする」という考え方があり、この点についての考察も合わせて行う。
2.1.2.コンジョイント分析独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)は、2022年3月に、何らかの個人向けのAIサービスを利用したことのある個人を対象として、AIに関する知識やイメージ、またリスク認知等の現状を把握するとともに、AIの意識や行動モデル等の検証するためのWEBアンケート調査(以下、「調査1」と称す)を実施した(回答者数は1,000人である)。「調査1」には、AI誤判断の価値を測るためのコンジョイント分析を行うための質問等も含まれている。なお、「調査1」の集計結果については、島他 (2022)を参照されたい。
「調査1」では、(架空のサービスとして)AI搭載家事サービス(片付け掃除ロボットサービス)を想定して、月額利用料や2種類のAIの誤判断(比較的深刻度の低い「置き場所の間違い」と比較的深刻度の高い「ゴミとして捨てる」)、保険の有無をもとにしたシナリオを作成している(図1).
消費者庁が2020年に刊行した「AI利活用ハンドブック~AIをかしこく使いこなすために~」(消費者庁, 2020a)では、自動運転の掃除機が家財を壊してしまわないために、取扱説明書等に記載されている使用方法やメーカが保証する動作の記載等の内容を十分に理解し、利用者自身も安全な利用に努めるように求めている。しかしながら、利用者にこれらの記載内容を十分に理解することを求めることは容易ではない。この点を踏まえて、本シナリオでは保険の有無を導入している。なお、AIの誤判断の評価に焦点を当てるため、本シナリオでは利便性に関する属性は入れていない。

「調査1」では、コンジョイント分析に用いるプロファイルの属性と水準を表1のように設定した。AIサービスの価格は、月額サブスクリプションとして4つの水準を設けた。また、AIの誤判断については、深刻度の異なる2種類を考慮した。一つは比較的深刻度が低い「置き場所の間違い」、もう一つは比較的深刻度が高い「ゴミとして捨てる」である。これらの誤判断の頻度は、回答者が確率を正確に評価することが困難であるとの判断に基づき、「週1回程度」「月1回程度」「半年に1回程度」という3つの水準で提示した。さらに、AI搭載家事サービスに内在するリスクを補償する「保険」も属性の一つとして設定した。
| 属性 | 水準 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| サービス価格 | 500円 | 1,000円 | 1,500円 | 2,000円 | ||
| 場所の戻し間違い | 週1回程度 | 月1回程度 | 半年に1回程度 | |||
| ゴミと間違えて捨てる | 週1回程度 | 月1回程度 | 半年に1回程度 | |||
| 保険 | あり | なし | ||||
合崎・西村 (2007)のコンジョイント分析の手順に倣い、表1で示したプロファイルの組み合わせを用いて調査を実施した。回答者には、片付け掃除ロボットサービスの内容と属性について説明を行った後、表2に示すような質問(30問)から、最も好ましいものを1つ選択する形式で回答を求めた。
| サービス1 | サービス1を利用したい | どちらも利用したくない | サービス2を利用したい | サービス2 |
|---|---|---|---|---|
| 価格:月額1.000円 | □ | □ | □ | 価格:月額1.500円 |
| 場所の戻し間違い:週1回程度 | 場所の戻し間違い:月1回程度 | |||
| ゴミと間違えて捨てる:週1回程度 | ゴミと間違えて捨てる:月1回程度 | |||
| 保険:なし | 保険:あり |
「調査1」によって収集されたデータは、確率効用理論という個人の意思決定モデルを理論的基礎とした離散選択モデルによって分析される。本節では、選択型ロジットモデルを採用している。なお、これらの設定の詳細については竹村他 (2023a)を参照されたい。
2.1.3.分析結果表3はコンジョイント分析の結果を示している。表中の推定係数は、「サービスの価格」、「場所の戻し間違い」の頻度、「ゴミと間違えて捨てる」の頻度、および「保険」という各属性の効用値を表している。ASC(選択肢固有定数)は、回答者が提示されたサービス(サービス1または2)を選択した場合に1、「どちらも利用したくない」と回答した場合に0が付与されるものである。また、表3にあるLikelihood ratio test(尤度比検定)は推定されたすべての係数値がゼロであるという帰無仮説を統計的検定するためのものである。
| coef | se(coef) | z | Pr(>|z|) | |
|---|---|---|---|---|
| ASC(b0) | 9.13E-02 | 3.46E-02 | 2.639 | 0.008 ** |
| サービス価格(b1) | -1.08E-03 | 2.40E-05 | -44.856 | 2e-16 *** |
| 場所の戻し間違い(b2) | -5.40E-03 | 2.04E-03 | -2.653 | 0.008 ** |
| ゴミと間違えて捨てる(b3) | -2.10E-02 | 2.14E-03 | -9.833 | 2e-16 *** |
| 保険(b4) | 7.62E-01 | 2.55E-02 | 29.924 | 2e-16 *** |
Likelihood ratio test= 6429 on 5 df, p=<2e-16
n=60000, number of events= 20000Pr
表3のp値から、すべての変数が1%水準で統計的に有意であることが確認された。推定された係数の符号を見ると、「保険」とASCが正の値、その他の属性が負の値となっている。この結果は、理論的に想定される符号と一致している。例えば、AI誤判断の頻度を示す「場所の戻し間違い」や「ゴミと間違えて捨てる」の係数が負であることは、これらの誤判断の確率が高まるほど、利用者の効用(評価)が低下することを意味している。一方で、「保険」の係数が正であることから、保険の付加が利用者のサービス評価を向上させることがわかる。
次に、表3の分析結果を用いて、非金銭的属性の限界支払意思額(属性の価格評価)を試算する。限界支払意思額は、非金銭的属性が1単位変化した際の金銭的価値の変化として定義される。本分析のように線形モデルを想定した場合、非金銭的属性の係数を金銭的属性の係数で除すことで算出できる。この計算結果が表4である。
| 限界支払意思額 | |
|---|---|
| 場所の戻し間違い | -5.03円 |
| ゴミと間違えて捨てる | -19.57円 |
| 保険 | 708.90円 |
表4を見ると、「場所の戻し間違い」と「ゴミと間違えて捨てる」の限界支払意思額はそれぞれ-5.03円と-19.57円となっている。この結果は、AIの誤判断の確率が1%増加すると、前者の場合はサービスの金銭的価値を5.03円、後者の場合は19.57円引き下げることを示している。このことから、AIの誤判断の深刻度の違いが、利用者の金銭的評価に大きく影響することが確認できる。
一方で、「保険」の限界支払意思額は708.90円であり、保険を付加することでサービスの金銭的価値が約709円高まることがわかる。これは、AIの誤判断というリスクに対して、保険が有効な補償手段となり得ることを示唆している。
2.1.4.シミュレーション表3で得られた分析結果を用いて、式(1)により、特定の(属性に水準を与えた)サービスの選択確率Probを求めることができる。
| ・・・ (1) |
ここで、 xはサービス価格、yは場所の戻し間違いの確率、zはゴミと間違えて捨てる確率、tは保険の有無(t=0のときは保険なし、t=1のときは保険あり)を表す。
(1) サービス価格と選択確率の関係式(1)において、価格を除く属性に特定の水準を与えることで、この式は価格xと(属性に特定の水準を与えた)サービスの選択確率Probの関係を表す関数となる。
表5は、「場所の戻し間違い」「ゴミと間違えて捨てる」「保険」の各属性に具体的な水準を与えた複数のケースをまとめたものである。これらのケースにおけるサービス価格とサービス選択確率の関係を、図2に示した。なお、図中のCase1、Case3、Case5、Case7は「保険あり」、残りのケースは「保険なし」のサービスを想定している。また、Case7とCase8は、AI誤判断の確率がともにゼロである理想的なケースを想定したものである。
図2から、以下の2点が確認できる。
| 属性 | |||
|---|---|---|---|
| ケース | 場所の戻し 間違い |
ゴミと間違えて 捨てる |
保険 |
| Case 1 Case 2 Case 3 Case 4 Case 5 Case 6 |
週1回程度 週1回程度 月1回程度 月1回程度 半年に1回程度 半年に1回程度 |
週1回程度 週1回程度 月1回程度 月1回程度 半年に1回程度 半年に1回程度 |
あり なし あり なし あり なし |
| Case 7 Case 8 |
間違えない 間違えない |
間違えない 間違えない |
あり なし |

しかしながら、例えサービスの価格を無料にしたとしても、サービス選択確率の上限は約70%(Case7の70.12%)にとどまる。この結果は、AIの誤判断リスクをゼロにしても、サービスの普及には限界がある可能性を示している。
また、表5に示したケースのサービスにおける受け入れられる価格とサービスの普及率の関係をまとめたものが表6である。Case 7のサービスがいずれのタイプにおいても最も高い価格をつけているが、Case 5と比較すると最大で100円程度の差に収まっている。なお、Case 2とCase 4は無料になったとしても(累積)選択確率は50%に到達しない。サービスにおける保険の価値(表4参照)が708.90円であると考えると、(それぞれのAIの誤判断の確率が3.3%を超える)Case 1からCase4のようなサービスの普及率は50%が頭打ちとなることがわかる。
| (累積)選択確率 | ||
|---|---|---|
| ケース | 16.0% | 50.0% |
| Case 1 Case 2 Case 3 Case 4 Case 5 Case 6 |
2,000円 1,300円 2,200円 1,500円 2,300円 1,600円 |
400円 0円 600円 0円 700円 0円 |
| Case 7 Case 8 |
2,300 1,600円 |
800円 100円 |
式(1)を用いて、サービスの価格とAI誤判断確率が選択確率に与える影響を分析する。
表7は、本シミュレーションで用いる属性の水準をまとめたものである。ここでは、サービスの価格を1,000円と3,000円の2水準に設定した。AIの誤判断については、「場所の戻し間違い」または「ゴミと間違えて捨てる」の頻度と、保険の有無を考慮している。なお、誤判断の確率がゼロになるケースは含めていない。
| 属性 | ||||
|---|---|---|---|---|
| (1) | (2) | |||
| ケース | ゴミと間違えて 捨てる |
保険 | 場所の戻し 間違い |
保険 |
| Case 1 Case 2 Case 3 Case 4 Case 5 Case 6 |
週1回程度 週1回程度 月1回程度 月1回程度 半年に1回程度 半年に1回程度 |
あり なし あり なし あり なし |
週1回程度 週1回程度 月1回程度 月1回程度 半年に1回程度 半年に1回程度 |
あり なし あり なし あり なし |
表7の(1)に示した水準に基づき、図3では「場所の戻し間違い」の確率とサービス選択確率の関係を図示した。これらの図は、サービス価格が1,000円の場合と3,000円の場合を表している。

図2と同様に、図3のいずれのケースにおいても、保険付きサービスが保険なしサービスよりも選択確率が高い(グラフが右側に位置している)ことが確認できる。また、「ゴミと間違えて捨てる」の確率が小さくなるほど、選択確率は向上している。特筆すべき点としては、いずれのケースでもグラフの傾きが急であること、すなわち硬直的(非弾力的)となっていることが挙げられる。これは、「場所の戻し間違い」の確率を下げたとしても、サービスの選択確率が大きく向上するわけではないことを示唆している。
図3の横軸(サービス選択確率)の範囲は、サービス価格によって大きく異なることがわかる。「場所の戻し間違い」の確率がゼロの場合、価格が1,000円であれば選択確率の上限は約44.5%(Case5)に達する。一方、価格が3,000円の場合、選択確率は約8.5%にとどまる(Case5)。さらに、価格が1,000円であれば、Case1の「場所の戻し間違い」の確率が約69%、その他のケースで「場所の戻し間違い」の確率が100%であったとしても、サービスの選択確率は16%の壁を超えることが確認できる7。しかしながら、価格が3,000円になると、いずれのケースでも16%の壁を超えることはない。
「ゴミと間違えて捨てる」確率と選択確率の関係表7の(2)に示した水準に基づき、図4では「ゴミと間違えて捨てる」の確率とサービス選択確率の関係を図示している。図3と同様に、図4も同様の傾向を示しているが、いくつか重要な違いがある。「ゴミと間違えて捨てる」の確率が低いエリアでは、グラフの傾きが比較的緩やかになっている。これは、確率を下げていくことでサービスの選択確率を大きく向上させられることを意味する。しかしながら、確率が高すぎると、サービスの選択確率は低いままで、ほとんど変化しない(グラフが硬直的となる)。この結果は、「ゴミと間違えて捨てる」のような深刻度の高い誤判断は、その確率が一定水準以下に抑えられれば、普及率を大きく引き上げる要因となり得ることを示唆している。

また、価格が1,000円の場合、AIが「ゴミと間違えて捨てる」確率が比較的高い水準であっても16%の壁を超えることが可能となる。具体的には、保険があるケース(Case1、Case3、Case5)では64%~68%の確率まで許容されるのに対して、保険がないケースでは28%~32%にとどまる。しかしながら、価格が3,000円になると、いずれのケースでも16%の壁を超えることはない。この結果は、AIの誤判断という深刻なリスクがあっても、低価格と保険の組み合わせによって初期の市場普及が促されることを示唆している。一方で、価格が一定水準を超えると、AIの誤判断確率の大小にかかわらず、普及は困難になることがわかる。
2.1.5.考察本分析は、片付け掃除ロボットサービスの市場普及について、価格とAIの誤判断リスクが消費者の受容性に与える影響を分析したものである。
表6で見たように、価格を1,300円程度まで下げることで、AIの誤判断が一定水準を超えても、イノベータ理論における普及率16%の壁は超えられることが示唆された。これは、低価格が初期の普及を促進する重要な要因であることを意味する。
しかしながら、価格を下げただけでは普及率が50%を超えるのは困難であり、この水準の普及にはAIの誤判断確率を大幅に低減する必要がある。また、オプションとして保険を導入することで、サービスの評価が高まり、価格を約700円引き上げても利用者の受容性は維持されることがわかった。ただし、保険の内容は抽象的な設定であるため、実用化には詳細な検討が求められる。
さらに、コンジョイント分析の結果から、AIの誤判断の種類によって利用者の金銭的評価が大きく異なることが明らかになった。特に、価格が1,000円の場合、「場所の戻し間違い」(低深刻度)と「ゴミと間違えて捨てる」(高深刻度)の確率に対する普及率の感応度が異なっている。具体的には、「場所の戻し間違い」の確率に対する普及率のグラフは急な傾きを示す一方で、「ゴミと間違えて捨てる」の確率に対するグラフの傾きは比較的緩やかだった。このことから、誤判断の確率低減は普及に貢献するものの、その効果は誤判断の深刻度によって異なり、単に確率を下げただけで急激な普及拡大には繋がらない可能性が示された。普及を加速させるには、誤判断リスクの低減だけでなく、他の付加価値や信頼性の構築が不可欠である。
2.2. AIサービスの利用意図に関する要因分析~2つのAIサービスの比較~ 2.2.1.2つのAIサービス前節では、AI搭載家事サービスの一つとして片付け掃除ロボットサービスを取り上げた。本節では、この種のサービスを個人(消費者)に受け入れられる要因を分析し、その普及プロセスを予測する。また、AIサービスはその内容により、個人に受け入れられ方が変わる可能性がある。そこで、本節では、片付け掃除ロボットサービスとともに、(スマートスピーカーによる)オンラインショッピングを取り上げて、このプロセス等について見ていく。このサービスは、音声による商品の検索、注文、購入手続きの自動化がAIによって行われ、生活の質の向上に資するものであると考えられる。そして、両サービスを比較することで、異なるタイプのAIサービスが個人に受け入れられるプロセス等について考察を行う。
2.2.2.技術受容モデル(TAM:Technology Acceptance Model)技術受容モデル(TAM)は、元来、情報システムを利用する人間の行動モデルとして提唱されたものである(Davis, 1989; Davis, et al., 1989)。現在では、新しいサービスの利用を促すためにどのような要因を刺激すればよいか等を議論する際に用いられようになった人間の意思決定を描写した汎用的なモデルの一つとして用いられる。
TAMでは、「(知覚された)使いやすさ(Perceived Ease of Use)」と「(知覚された)有用性(Perceived Usefulness)」の2つの概念が「実際のサービス利用(Actual Use)」を説明する上で、重要な要因としてモデルの中で据えられている。なお、これらの要因は直接的にこの行動を説明するのではなく、「(利用への)態度(Attitude toward Use)」と「利用意図(Behavioral Intention to Use)」を介して間接的に影響を与えるという構造的な特徴を持っている。また、直接的・間接的に利用行動に影響を与えるそれ以外の様々な要因は、「外部変数」としてまとめられてモデルに組み込まれるのが一般的である。
最もシンプルな利用行動に影響を与える4つの要因からなるTAMにおいて、「有用性」は「使いやすさ」は「態度」を規定すると仮定され、いずれも正の影響を与えると考えられている。また、「態度」と「有用性」は「利用意図」に正の影響を与えるとされている。そして、「実際のサービス利用」は、「利用意図」によって一意的に決定される。言い換えると、あるサービスの利用に際して、身体的・精神的な努力を必ずしも要しなくても(簡単に)利用方法を習得できると考えたならば、それは利用者に対して肯定的な感情を生じさせると同時に、サービスの利用が自らの生活等の利便性を感じることにつながる。また、サービスを利用することから感じる利便性等のメリットもサービスを利用しようとする肯定的な感情を生じさせることになる。そして、この肯定的・否定的な感情はそのサービスを利用してみようという利用意図につながり、利用意図を持つことで個人がそのサービスを利用するという実際の行動を起こすと考えるのがTAMの基本的な理念である。一方で、別視点で見れば、サービス提供者は、個人に肯定的な感情を抱かせることは必ずしも容易ではないものの、利用者が有用性や使いやすさをより感じられるように、サービスの機能やインターフェース等をはじめとする技術的な改善や工夫を図ることは可能である。そうすることで、提供するサービスが普及することにつながっていくことが期待される。
本節では、TAMの基本的な要因間の関係(図5における赤い点線で囲んだ部分)に加えて、「(知覚された)不安(Perceived Anxiousness)」と「誤判断リスクの受容(Acceptance of Misjudgment Risk)」の新たな要因を組み込んだモデルを考える。図5におけるパスに付された( )内に2つの要因間の影響の符号を表している。なお、この提案モデルの詳細については竹村他 (2023b)を参照されたい。

本節で提案するモデルにおける「不安」は、サービス利用に伴う漠然とした脅威や不確実性に対する感情と定義される。この感情は、一般的にサービスへの否定的な態度を引き起こしやすい。一方、「誤判断リスクの受容」とは、AIの誤判断によって生じるリスクを許容できる程度を表す。一方で、「誤判断リスクの受容」はAIで生じる誤判断によって生じるリスクが発生した際、それを受忍することができるかという程度を表す。図5では「不安」は「利用意図」と「態度」に負の影響を与えると仮定している。これは、サービス利用に関する不安が高まれば、そのサービスの利用に対するネガティブな感情を引き起こすとともに、「有用性」が「利用意図」に直接的な影響を与えるのと同様に、サービスに対する不安の存在が総合的な評価を超えて影響を与えることにつながると考えることを表している。
「誤判断リスクの受容」は「利用意図」「態度」「使いやすさ」「有用性」に対して正の影響を与えると仮定する。これは、一人ひとりの誤判断リスクの許容の程度は異なるものの、誤判断リスクの存在を認めることは直接的・間接的に利用意図を高めることにつながるということを意味している。なお、「不安」に対する影響の符号は正の場合も負の場合もあり得ると考える。誤判断リスクを受容したことで不安を払拭することにつながる(負の影響を与える)一方で、受容したがゆえにそれが不安を高めることにもつながる(正の影響を与える)こともありうるためである。
図5に示した構造を持つモデルを検証する方法として構造方程式モデリング(SEM: Structural Equation Modeling)が一般的に用いられる。
本節の分析においても「調査1」を用いる。「調査1」には、前節で見た片付け掃除ロボットサービスだけでなく、スマートスピーカーによるオンラインショッピングに対する考え方等を測定するための質問項目も組み込まれている(これらの質問項目の前に図6のようなシナリオを提示している)。

図5の提案モデルにおける各要因は、一般的に単一の質問ではなく、複数の質問項目で測定される。本分析で用いた「調査1」の質問項目は、TAMを用いた先行研究のものを参考に作成している。なお、特に「誤判断リスクの受容」については、(スマートスピーカーによる)オンラインショッピングに関しては「あなたは、シナリオのサービスで音声が誤って認識されて注文されてしまうことを許容できますか」と「あなたは、シナリオのサービスで発注確認メールを見逃すと誤発注されてしまうことを許容できますか」の2つの質問項目、片付け掃除ロボットサービスに関しては「あなたは、シナリオのお掃除ロボットが、モノを誤って認識したり認識できなかったりして、モノにぶつかったりコードを引っ掛けたりしてしまうことを許容できますか」と「あなたは、シナリオのお掃除ロボットが、モノを壊してしまっても補償されないことを許容できますか」という質問項目(いずれも5段階のリッカード尺度で測っている)でもって作成している8。本節の分析で用いるいずれの要因も(算出された)数値が大きくなればなるほど、その要因の程度が高くなることを表すものとなっている。
まず、SEMを行う前に、図5で示したモデルの適合度について確認を行った結果が表8である。一般的に、この結果を総合的に評価することになるが、表8を見てわかるように、いずれの適合度指標も非常に良好な範囲もしくは良好な範囲に入っており、概ね良好であると判断できる。
次に、図5で示したモデルにおけるそれぞれの要因間のパス係数の有意性の検証の結果をまとめたものが表9である。表9にあるパス係数は標準化されているため、有意となったパス係数は比較することができる。
表9を見ると、片付け掃除ロボットサービスの場合は「不安⇒利用意図」と「誤判断リスクの受容⇒不安」の標準化パス係数は統計的に有意となっていないものの、それ以外の標準化パス係数は1%もしくは5%水準で統計的に有意となっている.また、オンラインショッピングの場合は「有用性⇒利用意図」と「不安⇒利用意図」の標準化パス係数は統計的に有意となっていないものの、それ以外の標準化パス係数は統計的に有意となっている。
| 片付け掃除ロボット サービス |
オンライン ショッピング |
非常に 良好な範囲 |
悪い範囲 | |
|---|---|---|---|---|
| RMSEA | 0.074 | 0.061 | 0.05未満 | 0.10以上 |
| CFI | 0.952 | 0.965 | 0.95以上 | 0.90未満 |
| TLI | 0.944 | 0.959 | 0.95以上 | 0.90未満 |
| AIC | 46549.121 | 46153.803 | ||
| BIC | 46931.92 | 46536.608 |
| 片付け掃除ロボットサービス | オンラインショッピング | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 標準化 係数 |
標準誤差 | z値 | p値 | 標準化 係数 |
標準誤差 | z値 | p値 | |
| 態度 ⇒ 利用意図 | 0.879 | 0.057 | 15.420 | 0.000*** | 0.846 | 0.080 | 10.540 | 0.000*** |
| 有用性 ⇒ 利用意図 | -0.169 | 0.058 | -2.920 | 0.003*** | -0.057 | 0.083 | -0.690 | 0.488 |
| 使いやすさ ⇒ 態度 | 0.167 | 0.033 | 5.130 | 0.000*** | 0.059 | 0.036 | 1.630 | 0.102* |
| 有用性 ⇒ 態度 | 0.685 | 0.027 | 25.170 | 0.000*** | 0.848 | 0.026 | 32.140 | 0.000*** |
| 使いやすさ ⇒ 有用性 | 0.648 | 0.026 | 25.250 | 0.000*** | 0.696 | 0.022 | 31.130 | 0.000*** |
| 不安 ⇒ 利用意図 | 0.023 | 0.019 | 1.210 | 0.226 | -0.001 | 0.019 | -0.040 | 0.968 |
| 不安 ⇒ 態度 | 0.040 | 0.017 | 2.380 | 0.018** | -0.033 | 0.017 | -1.980 | 0.047** |
| 誤判断リスクの受容 ⇒ 利用意図 | 0.211 | 0.027 | 7.840 | 0.000*** | 0.166 | 0.023 | 7.150 | 0.000*** |
| 誤判断リスクの受容 ⇒ 態度 | 0.153 | 0.023 | 6.540 | 0.000*** | 0.087 | 0.021 | 4.150 | 0.000*** |
| 誤判断リスクの受容 ⇒ 使いやすさ | 0.571 | 0.025 | 22.730 | 0.000*** | 0.476 | 0.028 | 17.250 | 0.000*** |
| 誤判断リスクの受容 ⇒ 有用性 | 0.197 | 0.031 | 6.370 | 0.000*** | 0.158 | 0.028 | 5.630 | 0.000*** |
| 誤判断リスクの受容 ⇒ 不安 | 0.000 | 0.036 | 0.010 | 0.996 | -0.149 | 0.035 | -4.280 | 0.000*** |
***:1%水準,**:5%水準,*:10%水準
表9の分析結果(薄い緑色の部分)は、技術受容モデル(TAM)の基本的な要因間の関係を示している。「有用性 ⇒ 利用意図」の関係は、片付け掃除ロボットサービスでは負の値、オンラインショッピングでは統計的に有意でない(標準化パス係数がゼロ)という、理論と異なる結果が得られた。このことは、少なくともこれら2つのサービスにおいては、有用性を高めても直接的に利用意図を向上させる効果は限定的であることを意味する。しかしながら、間接的には利用意図を高めることに寄与すると考えられる。その他の要因間(「使いやすさ ⇒ 態度」など)の関係は、両サービスともTAMの理論と整合的であった。このことから、片付け掃除ロボットサービスとオンラインショッピングのTAMにおける基本的な構造に決定的な違いはないと判断できる。
次に、提案モデルに加えた「不安」と「誤判断リスクの受容」が他の要因に与える影響についての分析から以下のようなことがわかった。一点目として、いずれのサービスにおいても「不安 ⇒ 利用意図」の標準化パス係数は統計的に有意でなかった。したがって、プライバシーやセキュリティ等に対する不安を軽減しても、必ずしも利用意図が高まるわけではないことが示唆される。一方、「不安 ⇒ 態度」の関係は両サービスで異なる結果となった。オンラインショッピングでは不安が態度に負の影響を与えている(不安が減ると態度が向上する)のに対し、片付け掃除ロボットサービスでは有意な関係が確認できなかった。この違いは、片付け掃除ロボットサービスのプライバシーやセキュリティに関する不安が、オンラインショッピングに比べて低かったためと考えられる。二点目として、「誤判断リスクの受容」が「利用意図」、「態度」、「使いやすさ」、「有用性」に与える影響の程度は異なるものの、いずれのサービスも、仮説通りに正の関係があることを確認できた。この結果は、ユーザが誤判断リスクを許容するようになれば、直接的および間接的に利用意図が高まることを示している。三点目として、「誤判断リスクの受容 ⇒ 不安」の関係は、オンラインショッピングでは負の関係(誤判断リスクの受容が進むと不安が低減する)が統計的に有意であったが、片付け掃除ロボットサービスでは有意な関係が見られなかった。このことから、オンラインショッピングでは、誤判断リスクの受容が不安を低減し、最終的に利用意図を高めるという連鎖的な効果が確認されたが、片付け掃除ロボットサービスではそのような効果は見られないことが確認された。これは、AIの受容プロセスはサービス内容によって異なることを示唆するものである。
表10は、統計的に有意な標準化パス係数を用いて、「態度」、「使いやすさ」、「有用性」、「不安」、「誤判断リスクの受容」が「利用意図」に与える影響をまとめたものである。直接効果とは「利用意図」に直接的に影響を及ぼすもの(「利用意図」に直接存在するパス係数の大きさで測られる)であり、また間接効果は他の要因を経由して影響を及ぼすもの(複数の要因を経由して「利用意図」に間接的に存在するパス係数の大きさを掛け合わせたもので測られる)である。そして、総合効果は直接効果と間接効果を足し合わせたものであり、その要因が「利用意図」に最終的に与える大きさを表すものである。
| 片付け掃除ロボットサービス | オンラインショッピング | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 直接効果 | 間接効果 | 総合効果 | 直接効果 | 間接効果 | 総合効果 | |
| 態度 | 0.879 | - | 0.879 | 0.846 | - | 0.846 |
| 有用性 | -0.169 | 0.602 | 0.433 | 0.000 | 0.717 | 0.717 |
| 使いやすさ | - | 0.427 | 0.427 | - | 0.548 | 0.548 |
| 不安 | 0.000 | 0.035 | 0.035 | 0.000 | -0.028 | -0.028 |
| 誤判断リスクの受容 | 0.211 | 0.464 | 0.675 | 0.166 | 0.451 | 0.618 |
表10の総合効果を見ると、いずれのサービスにおいても「態度」が「利用意図」に与える影響が最も大きいことがわかる。片付け掃除ロボットサービスの場合、「態度」に次いで「誤判断リスクの受容」、「有用性」、「使いやすさ」、「不安」の順で影響が大きかった。一方、オンラインショッピングでは、「態度」に続いて「有用性」、「誤判断リスクの受容」、「使いやすさ」、「不安」の順であった。特に、「有用性」の総合効果の大きさは、両サービス間で大きく異なり、片付け掃除ロボットサービスが0.433であるのに対して、オンラインショッピングは0.717と顕著な差が見られた。また、「不安」の総合効果は、他の要因と比較して両サービスともに小さいことがわかった。
これらの結果から、AIサービスの利用に関する構造や各要因の影響は、サービス内容によって異なりうることが示唆される。AIサービスの利用促進を考える場合、不安の払拭も重要ではあるが、それ以上に誤判断リスクを利用者が許容できるような仕組みを構築していくことが、より優先的に考慮されるべきであると考えられる。
2.3. AIサービスの選択に関する要因分析 2.3.1. ロボアドバイザー近年、証券会社などがAIを活用した資産運用サービス、いわゆる「ロボアドバイザー」を提供して、金融業界に大きな変化をもたらしている。ロボアドバイザーは、資産運用市場の活性化に貢献すると期待されており、その背景には、これまでの専門家による手続きをAIが代替することで、金融機関と利用者の双方のコストを削減できる利点がある。また、少額から手軽に資産運用を始められる点も、注目を集める要因となっている。しかしながら、ロボアドバイザーには法的課題も多く、現在、その規制のあり方について議論が続いている(消費者庁, 2020b; 木村, 2021; 首藤, 2023)。さらに、AIやITによる自動化された判断を過度に信用してしまう「自動化バイアス」の危険性も指摘されており、金融リテラシーに加え、AIリテラシーを高める教育の必要性も高まっている。
資産運用サービスは、ユーザの資産に直接影響を与えるため、認知的負荷とリスクの深刻度が極めて高いものである。本節では、2.2節とは異なるアプローチをとり、一任型の資産運用サービスを想定して、このサービスを(主として)専門家とAIのどちらに任せるかという選択問題に焦点を当てた分析・考察を行う。これにより、主観的な認知要因を測定し、ロボアドバイザー(AI一任型資産運用サービス)の今後の普及に必要な施策を探る。また、本節の分析は、近年注目されているAIに対する「信頼性(Trustworthiness)」や「社会受容性」に関する議論の一助となる情報を提供することを目指している。
2.3.2. 一任型の資産運用サービスの選択問題 (1) 資産運用サービス一般的に、金融機関等の資産運用会社等が提供する資産運用サービスには、以下のような4つの手続きが含まれている(竹村他, 2024)9。
資産運用サービスには「一任型」と「アドバイス型」のタイプがある。一任型の資産運用サービスは、投資一任契約に基づくサービスの総称で、金融機関などの運用会社が個人(投資家)の要望を確認しながら投資プランを個別に検討し、そのプランにしたがって個人に代わって資産運用を行うサービスである。他方で、アドバイス型の資産運用サービスは、(個人のリスク許容度を診断し、それに基づき)個人に対して最適な資産配分などについて「助言」だけを行うタイプのサービスであり、この助言された資産配分を実行するために必要な金融商品の買い付け等は自身で行う必要がある。両者の大きな違いは、(2)~(4)のような手順において誰が実際に運用するか(誰が最終的な意思決定を行うのか)にある。上述した通り、後者はあくまで助言にとどまり、最終的な意思決定は個人が行わなければならないのに対して、前者は全てを資産運用会社が代理で行ってくれる。それゆえに、「アドバイス型」を利用する場合、自身で資産運用するための金融等に関する知識やリテラシーが必須となる。一方で、「一任型」を利用する場合、必ずしも金融知識やリテラシーが求められるわけではない。ゆえに、アドバイスを踏まえて自分自身で運用できるアドバイス型は資産運用経験者向け、アドバイスに加えて、運用も任せることができる一任型の資産運用サービスは資産運用未経験者・初心者向けであると言われている10。
(2) 資産運用の専門家もしくはAIに任せるか、自分自身で資産運用を行うか本節では、資産運用の4つの手続きを誰に任せたいかという選択に影響を与える要因を探索する。そのために、2024年3月に、自立した収入源を持つ20歳以上の個人(1,000人)を対象としたWEBアンケート調査(以下「調査2」と称す)を実施した11。「調査2」は、個人の金融行動や意識、金融・AIリテラシー、および行動経済学の指標に関する質問等を含んでいる。
「調査2」には、資産運用サービスにおける4つの手続きを任せたいとすれば、「AIに任せたい」「どちらかといえばAIに任せたい」「どちらとも言えない」「どちらかといえば人(資産運用の専門家)に任せたい」「人(資産運用の専門家)に任せたい」「自分自身で行いたい」のいずれかを選んでもらう質問がある(表11)。
| AIに任せたい | どちらかといえばAIに任せたい | AIか人(資産運用の専門家)のいずれかを選ぶことができない | どちらかといえば人(資産運用の専門家)に任せたい | 人(資産運用の専門家)に任せたい | 自分自身で行いたい | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 資産運用の銘柄の選定等 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 資産運用中の銘柄の見直し | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 資産運用する銘柄の売買 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 損失が膨らまないための銘柄の売却 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
この質問から4つのタイプの選択肢(「専門家一任型」「AI 一任型」「自分自身で行う」「その他(手続きごとにAI と人を使い分ける/どちらも選べない)」)を作成した。なお、図7は4つのタイプの回答者の分布を示している。図7から、AI一任型の資産運用サービスよりも専門家一任型のそれを選んでいる回答者の割合は6%程度上回っていることが確認できる。そして、この選択肢に影響を与える要因として、竹村他 (2025)では「株式等の保有」「投資に対する考え方」「時間割引率」「金融知識・AIに関する知識」「金融に対するイメージ・AIに対するイメージ」「主体別の損失の許容度」を考えている。これらの要因に関する仮説については竹村他 (2025)を参照されたい。

これら4つのタイプの選択肢は順序性をもたないため、本節の分析では、多項ロジット回帰分析を用いる(「金融に対するイメージ・AIに対するイメージ」はさらに因子分析を行い、金融ならびにAIに対してポジティブイメージとネガティブイメージといった因子をそれぞれ2つずつ作成している)。
2.3.3. 分析結果本分析は、多項ロジット回帰分析を用いて、資産運用サービスの利用者が「自分自身で運用」、「専門家(一任型)」、「AI(一任型)」、または「その他」の4つのタイプから選択する要因を分析した。被説明変数にはこれらの4つの選択肢を、説明変数には投資経験、金融知識、AIに関する知識、イメージ、年齢等を設定した。分析では「自分自身」をベースアウトカムとして、各選択肢との関係を調べている。
表12は分析結果をまとめたものであり、要点をまとめると以下の通りである。
これらの結果から、各利用者の属性や意識がどのタイプのサービスを選択するかに複雑に影響していることが明らかになった。特に、専門家(一任型)の選択においてAIへのポジティブイメージが有意な要因となっている点は、興味深い結果である。
| ベースアウトカム:自分自身 | |||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 専門家(一任型) | AI(一任型) | その他 | |||||||
| Frequencies of alternatives | 18.7% | 13.5% | 39.6% | ||||||
| Estimate | z-value | Estimate | z-value | Estimate | z-value | ||||
| 切片 | 1.049 | 0.914 | -2.725 | -1.981 | * | -0.168 | -0.171 | ||
| 投資経験の有無 | -0.649 | -2.805 | ** | -0.374 | -1.458 | -0.050 | -0.265 | ||
| 投資の考え方(リスク許容度) | -0.138 | -1.605 | -0.303 | -2.865 | ** | -0.086 | -1.203 | ||
| 時間割引率 | -0.053 | -1.965 | * | -0.058 | -1.827 | . | -0.091 | -3.901 | *** |
| 金融ポジティブイメージ | -0.099 | -0.801 | -0.020 | -0.142 | -0.211 | -2.036 | * | ||
| 金融ネガティブイメージ | 0.415 | 2.753 | ** | 0.620 | 3.832 | *** | 0.568 | 4.526 | *** |
| AIポジティブイメージ | 0.362 | 2.911 | ** | 1.139 | 7.409 | *** | 0.420 | 4.041 | *** |
| AIネガティブイメージ | -0.014 | -0.117 | 0.083 | 0.579 | -0.037 | -0.371 | |||
| 金融知識 | -0.064 | -1.411 | 0.057 | 1.077 | -0.037 | -0.965 | |||
| AI知識 | -0.002 | -0.045 | -0.088 | -2.011 | * | 0.053 | 1.678 | . | |
| 自身の損失への許容度 | 0.056 | 0.442 | 0.202 | 1.370 | 0.047 | 0.439 | |||
| 専門家の損失への許容度 | -0.234 | -1.432 | -0.198 | -1.087 | 0.025 | 0.192 | |||
| AIのミスへの許容度 | 0.139 | 0.843 | 0.301 | 1.657 | . | 0.150 | 1.106 | ||
| 年齢 | -0.001 | -0.021 | 0.116 | 1.901 | . | 0.046 | 1.045 | ||
| 年齢の2乗 | 0.000 | -0.125 | -0.001 | -1.927 | . | -0.001 | -1.342 | ||
Signif. codes: 0 ‘***’ 0.001 ‘**’ 0.01 ‘*’ 0.05 ‘.’ 0.1 ‘ ’ 1
Log-Likelihood: -1238.2
McFadden R^2: 0.080756
Likelihood ratio test : chisq = 217.55 (p.value = < 2.22e-16)
表12の分析結果は、資産運用を「自分自身」で行うか、あるいは「専門家」や「AI」に一任するかの選択に影響を与える要因を明らかにしている。
「時間割引率」、「金融ネガティブイメージ」、「AIポジティブイメージ」の3つの要因は、いずれのタイプ(専門家、AI)においても統計的に有意な影響を示し、係数の符号も共通していた。金融ネガティブイメージとAIポジティブイメージの程度が高いほど、利用者は自身で運用するよりも、専門家またはAIに一任する傾向にある。これは、金融への不信感や、AIへの好意的な認識が、一任型サービスの選択を促すことを示唆している。また、時間割引率の値が高い(将来の価値を低く評価する)人、ほど、専門家やAIに任せるのではなく、自分自身で運用する傾向が見られた。この他にも、専門家(一任型)では 「投資経験の有無」が有意な要因となった。投資経験がある人ほど、自分自身で運用する傾向が強い。これは、過去の成功経験から、コストをかけてまで専門家に任せる必要はないと考える可能性がある。他方で、AI(一任型)では「投資の考え方(リスク許容度)」が有意な要因であり、リスク許容度が高い人ほど自分自身で運用する傾向にあった。
AIに関する知識が高いほど、AI一任型の資産運用サービスを利用する傾向があると当初仮説を立てていたが、分析の結果、この主張と逆の結果となった。「AIに関する知識」が高い人ほど、自分自身で運用する傾向があるという逆の結果が得られた。これは、「AIのミスへの許容度」が高い人ほどAI一任型サービスを選ぶという結果と合わせて考えると、AIへの知識が深まることで、生成AIなどを活用して自ら運用しようと考えたり、あるいはAIに対する不信感につながったりする可能性を示唆している。さらに、AI一任型サービスの選択と年齢の間には、線形ではない二次関数的な関係が示された。約45歳までは年齢が上がるにつれてAI一任型サービスを選ぶ傾向にあるが、この年齢を超えると、逆に自分自身で運用する傾向へと転じる12。
この結果は、リスクを避ける傾向にある人ほど、AI一任型サービスに頼る可能性を示唆している。これらの結果から、ユーザの固有の認知特性(時間選好)やAIに対するイメージといった、非技術的・認知的要因がサービスの受容を決定づけられることがわかり、ハイリスクなAIサービスの普及には、ユーザの認知バイアスを考慮したサービス設計や、技術に対する社会的信頼を構築するガバナンスが不可欠であることが示唆される。
本稿では、筆者がこれまで行ってきたAIが社会に与えるインパクトを測定するために行った実証分析の一部を紹介した。これらの実証分析は、AIが社会に与える影響を客観的に評価し、AIをより安全かつ倫理的に利用するための重要な知見を提供する。この種の研究が国内外ともに充実していくことを期待しつつ、コグニティブ・セキュリティの観点からの4つのポイントを示す。
(1) 人間の脆弱性に着目したAIリスクの理解AIに関する実証分析は、AIが人間の認知バイアスや行動特性にどのように作用するかを明らかにすることができる。これにより、単なる技術的欠陥だけでなく、人間の心理や社会構造の脆弱性を悪用するAIのリスク、すなわちコグニティブ・セキュリティのリスクを浮き彫りにすることができる。
(2) リスクの定量化と許容範囲の特定AIに関する実証分析は、AIの誤作動やバイアスが利用者の意思決定に与える影響を定量的に評価できる。例えば、本稿で紹介したように、AIの誤判断が金銭的損失に繋がる確率と、利用者がそのリスクを許容する限界点を明らかにすることで、企業はより安全なサービス設計を行うことができる。
(3) 多様なAIサービスにおけるリスクの構造的差異の特定AIのコグニティブ・セキュリティリスクは、サービスの種類によってその構造が異なる。例えば、本稿で取り上げたロボアドバイザーでは金銭的損失のリスクが直接的であり、片付け掃除ロボットサービスでは物理的な損害のリスクが中心となる。AIの実証分析は、これらのサービス間のリスク構造の違いを特定し、それぞれに適したリスク管理と倫理的ガイドラインの必要性を示すことが可能となる。
(4) 信頼性(Trustworthiness)と社会受容性の両立AIに対する信頼性(Trustworthiness)は、技術的な性能だけでなく、利用者がリスクをどのように認識し、許容するかという社会的な側面にも大きく依存する。AIに関する実証分析を通じて、AIの社会受容性を向上させるためには、単に技術を改善するだけでなく、リスクを透明化し、利用者のリスク許容度を理解した上でサービスを提供することが不可欠であることが明らかになる。しかしながら、この信頼性に関する実証分析は国内外ともその数が少ない。
AIに関する実証分析は、コグニティブ・セキュリティのリスクを具体的に理解して、人間中心のAI設計を促すための貴重な知見を提供するものとなる。これにより、AIがもたらす便益とリスクのバランスをとり、より健全なAI社会の構築ならびにこれらの学術分野にも貢献できると考えられる。
本稿は、AIに対する経済学をはじめとする社会科学からのアプローチが現在社会から求められているものの、これらに関する実証分析(特に、AIサービスの利用者視点からのAIの社会リスク等に関する実証分析)が国内外ともに少なく、また萌芽状態にあることを説明してきた。また、AIの社会リスクや社会的受容性、AIに対するトラストについて見ていくためには、コグニティブ・セキュリティと呼ばれる学際的な研究分野でのアプローチや知見が有用であることを指摘してきた。そして、筆者がこれまでAIサービスに内在するリスクやそのサービス利用のメカニズムやAIに対してのトラスト等に関する実証分析の結果を紹介した。
まずAIサービスが抱えるリスクは、技術的な側面だけでなく、人間の認知特性や社会構造に起因するリスクとして捉えるべきであることを示した。特に、ロボアドバイザーの利用要因分析を通じて、AIに対するポジティブなイメージを持つ人ほど、専門家一任型サービスを選択する傾向があるという興味深い結果を提示した。次に、AIサービスの市場受容には、価格戦略や技術的リスクの低減に加えて、利用者の主観的なリスク許容度を考慮した多角的なアプローチが不可欠であることを示した。コンジョイント分析により、AIの誤判断リスクがユーザのサービス評価に与える金銭的影響を定量化し、深刻度の高い誤判断リスクは低減することで普及率を大きく向上させる可能性を示唆した。さらに、低価格と保険の組み合わせが初期の市場普及を促す有効な戦略となり得ることを明らかにした。加えて、AIサービスの受容プロセスは、そのサービス内容によって異なり、ケース依存で考えなければいけないことを実証的に示した。TAMを用いた分析から、片付け掃除ロボットサービスとスマートスピーカーによるオンラインショッピングでは、各要因が「利用意図」に与える影響の大きさが異なり、特に「不安」を払拭するよりも「誤判断リスクの受容」を促すことの重要性が示唆された。
これらの分析結果は、AI技術の発展と社会実装が進む中で、企業や政策立案者がAIサービスを設計・提供する際に、技術的な安全性だけでなく、ユーザの心理的・社会的な側面を深く理解することの重要性を強調するものである。今後のAI社会の健全な発展に向けて、本研究がその一助となることを期待する。
草稿に対して、島成佳(長崎県立大学)ならびに小川隆一(独立行政法人情報処理推進機構)、神津多可思(公益社団法人日本証券アナリスト協会)、武田浩一(法政大学)、その他共同研究者から有益なコメントを頂戴した。ここに記して感謝の意を表したい。なお,残る誤りは著者の責任に帰する。また、本研究の一部は、科研費(#24K04970)の助成を得て行った研究成果である。
1 城西大学経済学部教授
2 「科学技術・イノベーション基本計画」は、技術開発の促進に留まらず、科学技術を通じて社会全体のシステムを変革する「システムとしてのイノベーション」を目指すことが特徴であり、日本の国際競争力の向上と、持続可能な社会の実現に資するものである。
3 総務省・経済産業省が2025年に公開した「AI事業者ガイドライン(第1.1版)別添(付属資料)概要」(総務省・経済産業省, 2025)では、事業者が可能な限り把握し対策を検討できるよう、体系的に整理されたものが示されている。
4 内閣府科学技術・イノベーション(https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain.html)
5 日本では、イノベーション促進とリスクへの対応の両立を図るため、広く一般的に使われるAIを対象とする指針を政府が整備等を行い、透明性・適正性の確保が事業者主導で進むように促している。
6 その理由として、実証に必要なデータの入手困難性(プライバシー保護や企業秘密のため)や因果関係の特定困難性、技術の急速な進化、そして学際的アプローチの必要性といった複数の要因が挙げられる。
7 新しい技術や製品が市場に普及していく過程を5つの段階(イノベータ、アーリーアダプタ、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガード)に分けて説明するマーケティング理論として「イノベータ理論」がある。この理論において、イノベータとアーリーアダプタへの普及率を合わせた16%をどう攻略するかが、そのサービスが普及するかどうかの分岐点になる(「普及率16%の理論」)と言われている(Rogers, 2003)。
8 各要因の内的整合性(測定の一貫性)をチェックすることができるクロンバックのα信頼係数による評価を行った結果、いずれの要因のα信頼性係数の値は0.6を大きく上回っており、測定の精度としての信頼性に大きな問題はないと判断している。
9 既存のロボアドバイザーの多くは、(1)の資産運用の銘柄の選定等については無償で提供されるのに対して、(2)~(4)の手続きについては有償で提供されている(専門家による場合はいずれの手続きにおいても有償であることが多い)。
10 AI一任型の資産運用サービスは、「ほったらかし投資」とも言われることもある。
11 「調査2」は科研費(#21K01574)の助成を得て実施したものである。
12 オッズ比を利用して,年齢についてもAI一任型の資産運用サービスと専門家一任型の選択について見たところ,年齢が約58歳になるまで専門家一任よりもAI一任型の資産運用サービスを選ぶ傾向にあるが,この年齢を超えると逆に専門家一任の資産運用サービスを選ぶ傾向に変わることがわかった.