2025 年 9 巻 2 号 p. 63-86
日本のインターネット広告売上の約半数を占めるディスプレイ広告には、ユーザを識別しての追跡が不可欠である。従来サードパーティクッキーやモバイル広告識別子によって行ってきたユーザの追跡は、近年高まるプライバシー保護の社会的要請によって困難となっている。それに加えて、人々の生活や実店舗のデジタル化が進んだ結果、今やマーケティングデータは識別子や取得主体、取得の文脈等の異なるデータが断片化して並立しており、実務上大きな課題となっている。データクリーンルーム(DCR)はこの断片化したデータを保有者が開示することなく共有し、分析や協業を可能にするものとして近年注目されている技術である。本稿では、ターゲティング広告配信の文脈において、DCRが利用企業に提供する機能を(1)データ拡充、(2)統計・モデル作成、(3)アクティベーション、(4)広告効果測定に分類することを提案する。この4機能について考えられるデータフローを列挙したところ、計23パターンが得られた。そこで23パターンそれぞれにおいて広告主、パートナー、DCRベンダに適用される個人情報保護法上の規律を検討した。その結果、DCRによってユーザデータが開示されないことが保証されていたとしても、個人情報保護法上の義務が免じられるケースがないことがわかった。最後にDCRの4機能すべてを提供するためのデータ移転の検討を行い、DCR参加者いずれもが個人データの第三者提供としてDCR利用に伴うデータ提供を整理する形が適当であることを明らかにした。