2018 年 97 巻 8 号 p. 226-230
リグノセルロース系バイオマスは,ヘミセルロースおよびリグニンがセルロースに強固に結びついた複雑な網目構造を有しており,酵素糖化においてリグニンが阻害要因であると言われている。秋田県立大学では,リング媒体利用粉砕機を開発し,杉を微粉砕することで高い酵素糖化率となる杉粉末を得ているが,リグニンの影響についてはこれまで検討されていない。本研究では,杉をリング媒体利用粉砕機で粉砕した際における杉粉末中のリグニン構造変化,またその変化が酵素糖化率に与える影響について検討した。リグニン定量試験の結果,杉粉末のクラーソンリグニン含有量は粉砕時間が増加しても変化しなかった。一方で,ESR試験より得られたスペクトルから杉粉末中のラジカル濃度を算出した結果,杉粉末中のラジカル濃度は粉砕時間20分で最大値を取り,その後は緩やかに減少した。粉砕することでリグニンの主要結合であるフェニルエーテル結合を開裂し,酵素糖化率の向上に寄与しているのではないかと予想された。