2019 年 98 巻 4 号 p. 62-72
気候変動緩和やエネルギー安全保障強化の点から水素エネルギーが脚光を浴びている。本研究では,地域細分化型世界エネルギーモデルを用いて,発電及び自動車用燃料としての水素の導入可能性を検討した。分析対象期間は2015年から2050年である。数値計算の結果,水素発電の世界的拡大には,強力なCO2排出削減政策に加え,水素製造の大幅な低コスト化が必要であることが分かった。他方,水素燃料電池車の普及には,水素供給費用よりも,車両価格の低減が鍵となる可能性がある。水素製造プロセスとしては,CCS付きの石炭ガス化や天然ガス改質が経済合理的と評価され,石炭や天然ガス資源国からエネルギー消費国への国際輸送の可能性が示唆された。ただし,水素の海上輸送(液化水素等)についてはコスト削減が必須であり,さもなければ水素輸送は近隣地域間でのパイプライン取引に留まる。海上輸送の経済性が改善された場合,日本にとっては豪州の天然ガス・石炭等が有望な資源と評価された。水素関連技術のコスト競争力を高めるため,長期的視点に基づく研究開発政策が重要である。