2019 年 98 巻 8 号 p. 171-175
我々はバイオマスから高効率に糖を得るための前処理技術としてリング媒体利用粉砕機を開発した。リング媒体粉砕機によって乾式粉砕された杉粉末の酵素糖化率は60 min粉砕で60%まで向上する。しかし,酵素糖化率が向上するメカニズムは粉砕による粉砕粉末の凝集現象の発生によって不明だった。本研究では,固体NMRを用いてリング媒体粉砕機によって乾式粉砕された杉粉末の凝集体の最小構成粒子サイズ( ドメインサイズ) と構造変化を調査した。その結果,杉粉末のドメインサイズは60 min粉砕で約8 nmにまで微細化していることが分かった。ドメインサイズと酵素糖化率との間には相関関係が見られ,比表面積の増大によって酵素糖化率が向上したものと考えられた。また,NMRスペクトルからセルロースの結晶性は保持されたままであった。そのため粉砕された杉粉末はセルロースナノ材料としての利用できると推測された。最後に,炭素鋼粉末によるNMRスペクトルのノイズの影響をICP-MSによって調査した。結果として炭素鋼粉末によるノイズの影響はなかった。この研究により, 粉砕による酵素糖化率向上のメカニズムを明らかにしたとともに,乾式粉砕によるセルロースナノ材料製造の可能性を示した。