2020 年 99 巻 9 号 p. 153-157
東南アジアでは現在も急激な経済発展に伴い,紙の消費量は増加し続けている。この動向は,衛生意識の変化による需要増加,脱プラスチック運動,中国の古紙輸入規制の影響による業界情勢の変化に伴い,東南アジアにおいて今後も続いていくことが予想される。製紙産業では,廃棄物のほとんどは焼却処理され,通常工場内部の電力として利用される。古紙の使用量増加などにより,紙スラジの排出量は増えているが,一方で紙スラジは含水率が高いために,固形燃料として課題がある。この課題に対し,水熱処理技術が有効であることが先行研究により明らかにされている。水熱処理とは,バイオマスの前処理技術の一つで,高温高圧の水蒸気と化合物の加水分解により,試料の燃料としての品質を向上させる機能を持つ。高温高圧な水蒸気のみを要するため,途上国に適したシンプルな技術である。また,脱水能力も同時に向上する。本研究でははタイにおける製紙工場を想定し,紙スラジの内部発電利用について,水熱処理を用いた際も含めて,CO2排出量を求め,環境影響を評価した。結果として,内部設備を有するという条件だけでは,内部設備を持たないものと比較して,環境影響が軽減できていなかった。しかし,紙スラジを全量利用した際,水熱処理を施し,80 t/h以下の処理容量のボイラーを用いた際,環境影響が軽減されることが分かった。