抄録
近年、オフィスピルや一般住宅に、やすらぎの得られる空間を求める声が高まってきたが、その環境形成に果たす照明の役割は、極めて重要である事は言うに及ばない。しかし、照明が人の精神・心理面に対してどのような影響を与えるかを、科学的な根拠をもって詳細に検討された報告はない。そこで、医学的にその測定意義が確立された方法を用いて、各種照明の生理学的特性について検討を試みた。今回の測定では、直流点灯方式白熱灯・一般白熱灯・蛍光灯の3種の室内照明を対象として、事象関連電位のP300より「注意・集中力」を、副腎皮質刺激ホルモンより「ストレス」を、脳波 (α 波) より「快適性」を、各々測定し比較検討を行ったところ、すべての測定項目で直流点灯方式白熱灯が他の2種の照明に比較して、人に有用な生理学特性を持つ結果が得られたので報告する。
測定対象照明及び被験者
直流点灯方式白熱灯・一般白熱灯・蛍光灯の3種の照明を対象として (Table-1) 、幅: 2450×奥行: 3400× 高さ: 2700m棚の室内に、ダウンライトタイプの照明として設置した。また被験者は、神経・内分泌系疾患のない21歳から23歳迄の健常成人男子とした。測定方法
すべての測定に共通して、被験者に対し、精神的作業負荷として約1時間の連続第1位加算作業を課した。また、測定時の被験者の生理状態を同様に保つため、測定は室温一定の条件下で早朝定時より開始した。
1.事象関連電位による注意・集中力の測定
作業負荷前後で、オドポール課題による事象関連電位のP300を測定し、作業前に対する作業後のP300出現潜時遅延率を求めた。
2.副腎皮質刺激ホルモンによるストレスの測定
作業負荷前後で採血を行い、血漿中の副腎皮質刺激ホルモン (以下、ACTH) を放射免疫測定法により各々定量し、作業前に対する作業後のACTH濃度増加率を求めた。
3.脳波 (α 波) による快適性の測定
作業負荷後、自発脳波を単極導出にて測定し、各脳波成分をトポグラフィーにあらわした。結果及び考察
1.事象関連電位による注意・集中力の測定
作業負荷前に対する作業負荷終了後のP300出現潜時遅延率は、被験者5名の平均で、直流点灯方式白熱灯: 4.0覧、一般白熱灯: 8.0覧、蛍光灯: 22.3覧となり、直流点灯方式白熱灯の室内照明下で作業を行った時に、最もP300の出現潜時遅延率が低いという結果が得られた (Fig.-1) 。P300は正常成人を対象とした際、注意・集中力を反映すると解釈され、また、これらの低下によりその出現潜時が遅延することから、直流点灯方式白熱灯使用時に、精神的作業負荷による注意・集中力の低下が最も少ない事が示唆された。