1991 年 55 巻 5 号 p. 373-378
戦前の東京には, 武蔵野を中心に数多くの別荘が存在していた。しかし, これらの別荘は同時代に高原や海浜に盛んに立地していた避暑・避寒を目的とした別荘とは異なり, 気温の違いを求めたものではなかった。これらはわが国における別荘の原型のひとつであるが, 武蔵野に関する研究は, 多くがその開発史や風景・イメージに関するものであり, 武蔵野に存在した別荘はあまり研究の対象とされることがなかった。そこで本研究では, 市区史, 地誌, 古地図, 現地踏査, 別荘所有者へのヒアリング, 伝記などによって, 戦前の武蔵野における別荘の多くが “はけ” に立地し, レクリエーション拠点, 書斎, 農園など多様な利用がされたこと, その成立背景を示した。