貝原益軒 (1630-1714) は, 公務の旅の傍らに各地を遊観し, その足跡を紀行文に記した。そのうちの数点が板行され, 旅に携行されたり多くの紀行文や名所図会等に引用され, 近世の観光に少なからぬ影響を与えた。本研究は, そのような意義を持つ貝原益軒の紀行文の特徴について, 読者である観光者のまなざしの観点から考察したものである。その結果, 名所等だけではなく路次の風景・事物に興味を広げたことで, 旅の行程における情報の密度を高め, 旅全体の魅力を表現し伝えるものとなったこと, 訪問地の見所となるポイントなど, 旅における様々な楽しみ方を具体的に伝えていることなどを明らかにし, それらが読者の関心を呼んだことを示した。