腸内細菌学雑誌
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総 説
乳酸菌生成ペプチドの血圧降下・血管機能改善作用
中村 康則大木 浩司
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2010 年 24 巻 4 号 p. 259-264

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抄録

乳酸菌Lactobacillus helveticusは,発酵中に乳蛋白質を分解し,潜在するペプチドvalyl-prolyl-proline,isoleucyl-prolyl-prolineを産生する.両ペプチドは,アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有する.この酵素は,アンジオテンシンIに作用し,強力な血圧上昇物質アンジオテンシンIIを産生することで知られる.動物実験および in vitro試験の結果は,経口摂取された両ペプチドの一部が,インタクトな形で消化管より吸収され,組織レニン・アンジオテンシン系に作用し,血圧を降下させることを示唆している.我々が実施したヒト飲用試験では,両ペプチドを含有する発酵乳の摂取により,高血圧者の収縮期および拡張期血圧が有意に降下することを確認した.アンジオテンシン変換酵素は,NO産生を促進するブラジキニンを分解・失活する酵素でもある.従って,両ペプチドには,NOによる血管内皮機能の維持,動脈硬化予防の可能性が期待される.NO合成酵素阻害剤NG-nitro-L-arginine methyl ester hydrochlorideを投与したラットの胸部大動脈を摘出し,アセチルコリンに対する内皮応答性を調べた結果,いずれのペプチドも阻害剤と同時摂取させたとき,阻害剤による応答性低下の改善を認めた.また,我々が実施したヒト試験では,両ペプチドの摂取により,プレスティモグラフィーにおける上腕の駆血解放後の血流量の増大が認められ,このとき,血圧に変化はなかったため,両ペプチドによる,血管内皮機能の改善が示唆された.以上のことから,両ペプチドは,血圧降下という作用のみならず血管内皮機能改善作用によってメタボリックシンドロームの予防,改善に寄与するものと考えられる.

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© 2010 (公財)日本ビフィズス菌センター
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