腸内細菌学雑誌
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総  説
水産学領域におけるプロバイオティクスの応用
―魚介類の腸内細菌を用いたウイルス病の予防―
吉水 守笠井 久会渡邉 研一
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2014 年 28 巻 1 号 p. 7-14

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抄録

魚介類の腸内細菌叢に関する研究が進み,近年は分子生物学的手法を用いた解析法が導入され,多くの知見が集積され,その全容解明と働きが徐々に解明されてきている.成長促進や疾病予防に関与するプロバイオティック微生物の発見のみならず,食の安全にまでリンクした研究が展開できるようになってきた.ここでは水産分野でのプロバイオティクス研究の一つとして,種苗生産過程における仔稚魚のウイルス病予防の観点から,抗ウイルス活性を有する腸内細菌を用いた疾病予防についての研究成果を概説する.淡水生活期のサケ科魚類の腸内菌叢の主体を成すAeromonas属細菌を対象に伝染性造血器壊死症(IHN)ウイルスに対する抗ウイルス作用を示す菌株のスクリーニングを行い,90%以上のプラーク減少を示す菌株を3株得た.分離菌は飼料ペレット成分を栄養源として抗ウイルス物質を産生し,ペレットに10%の割合で菌体培養液を混ぜ経口投与すると,腸内容物も強い抗IHNV活性を示した.分離菌添加ペレットを3週間ニジマスおよびサクラマスに投与後,100TCID50/mlのIHNVで浸漬攻撃を行ったところ有意な差が認められた.マツカワやヒラメの腸内細菌であるVibrio属細菌を対象に,抗IHNV,サケ科魚ヘルペスウイルス(OMV)およびウイルス性神経壊死症(VNN)原因ノダウイルス(BF-NNV)活性を調べ,3者に対し強い抗ウイルス効果を示すVibrio sp. 2IF6株を得た.生物餌料のアルテミア卵を次亜塩素酸ナトリウムで消毒後,滅菌海水で孵化させ分離株を添加して培養すると,アルテミアホモジナイズ液は培養2日後にBF-NNVに対して90%の感染価減少を示し,培養液は99%を示した.このアルテミアを給餌したマツカワの腸内容物の10倍希釈は105.8TCID50/mlのBF-NNVの感染価を99.99%以上減少させた.換水率0~300%で60日間飼育したマツカワ仔魚にVNNは発生せず,生存率は通常飼育区より高くなった.シオミズツボワムシの複相単性生殖卵を消毒し,ヒラメの腸内から分離した抗OMV活性を示すV. alginolyticus V-23株添加したワムシをヒラメ仔魚に給餌し,103TCID50のOMVを不活化する最大希釈倍数で抗OMV活性を求めると,給餌20日以降,分離菌添加区のヒラメの腸内容物では対照区の2~5倍,飼育水では対照区の2~4倍の抗OMV活性が測定された.さらに,貝類ではカキの中腸腺から分離したV. neptunis V-176株がNorovirus代替えネコカリシウイルスを,Vibrio sp. V-4株がカキヘルペスウイルス(OsHV-1μVar)代替えOMVを不活化した.これらの細菌をカキの餌料である無菌化キートセロスに添加して給餌すれば,魚類と同様にウイルス病の予防あるいは不活化が期待できると考える.

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© 2014 (公財)日本ビフィズス菌センター
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