ヒトの腸内には約1,000種類以上,40兆個以上の腸内細菌が存在すると推定されている.ヒト腸内細菌叢は全体で1.5〜2 kgの重量を占め,腸内フローラとも呼ばれている.糞便のおよそ半分から3分の1は細菌由来で,ヒトは1日あたり2〜3兆個もの細菌が排出されている.近年,次世代シークエンサーの画期的な発展により,遺伝子解析の迅速化がはかられ,メタゲノム解析が可能となり腸内細菌叢(gut microbiota)の研究は爆発的に進んでいる.その結果,消化器疾患のみならず代謝疾患,神経疾患,アレルギー性疾患,動脈硬化などのさまざまな疾患において,腸内細菌叢構成が健常人と比較し異なっている(dysbiosis)ことが分かってきている.われわれの検討でも,潰瘍性大腸炎,大腸腺腫,大腸癌,肝硬変,過敏性腸症候群などの消化器疾患と腸内細菌叢の関連が明らかになっている.腸内細菌の関連機序として,腸内細菌の代謝産物などの関連性が示唆されているが,今後の詳細な検討が待たれる.また,腸内細菌叢が腸管上皮細胞や腸管免疫系を介して,各種の疾患の発症や癌治療成績に関連している可能性が示唆されている.本稿では,腸内細菌による免疫制御に関して,主として抗原提示細胞である樹状細胞の関与に関して知見を紹介する.