胃内にはHelicobacter pyloriを含む多様な細菌叢が存在し,胃疾患の発症および進展に関与している.成人の健常胃では,門レベルではProteobacteria,Firmicutes,Actinobacteria,Bacteroidetes,Fusobacteriaが優勢であり,属レベルではPrevotella,Streptococcus,Veillonella,Fusobacterium,Neisseriaが高頻度に検出される.H. pylori感染下では,H. pylori以外の菌の割合の相対的減少によりα多様性が低下し,萎縮性胃炎の進行や腸上皮化生の形成に伴って胃内が低酸環境へ移行すると,口腔内細菌,腸内細菌の相対的増加と細菌叢多様性のさらなる低下が進行し,発癌関連経路の亢進が生じる.除菌成功後にはα多様性は回復傾向を示すものの,成人では細菌叢は完全には正常化せず,残存するdysbiosisが除菌後胃癌発生の背景となりうる.自己免疫性胃炎では無酸環境,高ガストリン血症を背景としてStreptococcus属優位の細菌叢変化がみられ,I型胃神経内分泌腫瘍合併例では特異的な細菌叢シグネチャーが報告されている.胃癌に関しては,Lactobacillus属が最も高頻度に検出され,同属は乳酸やN-ニトロソ化合物の産生を介して腫瘍細胞の増殖や血管新生を促進する一方,菌株によっては抗腫瘍効果を示すなど,発癌において二面性を有する.また,H. pylori以外の発癌関連菌として,口腔内細菌であるFusobacterium nucleatumやStreptococcus anginosusの報告が存在する.さらに,H. pylori陰性胃MALTリンパ腫においては,Non-H. pylori Helicobacterの関与が治療方針を考えるうえで重要である.今後は,胃内細菌叢の解析方法の標準化を進めるとともに,動物モデル,介入研究,多層的オミクス統合解析による因果関係の解明を進めることで,細菌叢構成に基づく個別化サーベイランス,細菌叢を標的とした精密医療,さらには食事・生活習慣への介入を含めた包括的な管理への応用が期待される.