抄録
減価償却方法の選択は製造企業において, 長期にわたって分配可能利益計算および分配可能利益を介しての資金繰りに多額の影響を及ぼす重要な事項であるから, 企業の長期経営計画と密接な関係がある.本研究は長期経営計画にもとづく減価償却方法の選択基準を求め, 実際に企業がそれにより行動していることを検証している.大半の企業が挙げた長期計画の目標および方針にもとづき, 設備投資資金の調達コスト差引後営業利益額の非減少を条件とする選択基準を導いた.この基準は, 設備投資効率, 売上高成長率, 設備投資増加率, 耐用年数, 調達コスト率, ラッカーの生産分配法則の回帰係数αの関数となる.上場企業において実際に採用した減価償却方法と選択基準との関係を調べると, 定率法採用企業群と定額法・併用採用企業群とは統計的に有意な差異があり, 実際に企業は長期経営計画の方針にもとづき目標を達成するように減価償却方法を選択していると考えられる.