マリンエンジニアリング
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解説
シリンダ油におけるAW/EP特性の重要性
平岡 直大Givens, Willie A.Ghosh, SauravWiszniewski, Virginia C.
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2022 年 57 巻 1 号 p. 16-21

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抄録

燃料中硫黄分0.5wt%以下のいわゆる適合油の使用が支配的になり,大型2ストローク機関での高硫黄燃料由来の腐食摩耗に関する懸念は劇的に減少した.しかしながら,それ以外の摩耗メカニズムがなくなった訳ではなく,機器の耐久性や安全なエンジン運転を保証するためにはこれら摩耗は適切に制御される必要がある.凝着摩耗であるライナスカッフィングは,燃料硫黄分の多寡によらず大型2ストローク機関で発生し続けている.燃焼室内でピストンリングは高圧・高温条件下でシリンダライナ壁面上を摺動し,酸中和やデポジット抑制もさることながら,シリンダ油の重要な機能はこれら摺動体間の金属接触を緩和する耐久性のある保護膜を形成することである.種々の要因が摩耗に影響を与えるが,本稿ではリングライナ摩耗を緩和するシリンダ油の役割に焦点を当てて説明する.エンジンメーカはライナ壁表面仕上げやリングパック及びリングコーティングの設計を行うのに対し,潤滑油メーカや添加剤メーカは適切な膜厚を提供するためのシリンダ油を開発する.耐摩耗(AW)/極圧(EP)性に特化した添加剤技術は摩擦抵抗を減らして摩耗を最小化し,高耐荷重能力を潤滑油に与える.

以下本文では,摩耗・スカッフィングを緩和する潤滑油の役割,AW/EP特性の評価方法,適合油での実船試験結果について概説する.結論として,エクソンモービル独自のAW/EP特性を最適化する技術は,ピストンリングコーティング厚の減少を抑えることを確認した.機関効率の継続的な向上が求められる状況下では燃焼室内の運転環境はさらに厳しいものになっていくことが予想されるため,安定的な運転を継続して実現するために本稿で述べるような高性能な潤滑油がますます必要となる.今後も厳格化していく排ガス規制に適応したアンモニアや水素といった低/ゼロカーボン燃料に対しても,エンジン側から求められる諸要求に合わせて適切な潤滑状態を実現するために潤滑油及び潤滑・添加剤技術の開発が必要と考える.

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© 2022 公益社団法人 日本マリンエンジニアリング学会
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