抄録
本稿で提示する《閉鎖かつ開放》の概念は,他律性ないし物質的な開放性と,自律性ないし情報的な閉鎖性との,共立である.それは,システムの主観性にとっては事故的-事後的な失敗として経験される拘束としての現実のなかで,そのシステムが自己準拠的/自律的に作動している状態である,と記述できる.この閉鎖かつ開放について,ネオサイバネティクスとりわけ西垣通の HACS モデルを参照しながら説明する.閉鎖と開放の共立が生命システムの条件であるから,閉鎖と開放のいずれか一方のみの徹底はシステムの生命性を失わせるが,現行の情報技術環境にはその傾向がある.本稿は,そのような環境における生命システムにとって,固有の閉鎖かつ開放を受け入れることの重要性を主張する.また,そのために閉鎖と開放を媒介する作法としてのメディア・アートのひとつの解釈を,主に三輪眞弘の「逆シミュレーション音楽」を参照しながら提案する.