情報メディア研究
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論文
中井正一の機能概念と具体的普遍の問題
―Medium メディウムと Mittel ミッテルの観点から―
戸邉 俊哉
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2024 年 22 巻 1 号 p. 92-112

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抄録

本稿は京都学派における思想の相互性を表す Medium と Mittel の言葉に着目して,中井正一の機能概念の意味を明らかにすることを目的とする.機能概念とは,複合的要素を全体のすがたをもって捉える「具体的普遍」を意味する.しかし,具体的普遍の理解には京都学派で二つの系譜がある.一つは漸進しない完結した体系,すなわち Medium としての具体的普遍である.中井は西田幾多郎の「場所」の論理をこのような Medium とみなし,そこでは全てが決定済みであると批判した.さらにカッシーラーの機能概念にも Medium の特徴が見出せるため,中井は非完結な体系としての具体的普遍を構想する.そこで中井は,三木清から要素と体系を Mittel,すなわち手段=目的の階層構造をもつ循環する漸進とする方法を,田辺元からはその漸進を可能にする否定の働きとしての目的なき目的論の「絶対無」と行為の体系を参考にした.中井の機能概念とは,この漸進する手段=目的なき目的図式の絶対無と行為の体系としての具体的普遍である.これら思想的系譜を追うことで,中井が提唱した機能概念としての図書館がなぜネットワーク型の図書館であったのかという理由を本稿では示すことができた.

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