日本金属学会誌
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論文
使用済核燃料ガラス固化体中生成相Nd2(MoO43の熱力学的性質
木下 義樹 森下 政夫野﨑 安衣山本 宏明
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2017 年 81 巻 10 号 p. 485-493

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抄録

The thermodynamic properties for Nd2(MoO4)3 were investigated. Nd2(MoO4)3 is one of the end member of the yellow phases which are known as hygroscopic harmful phases in the nuclear fuel waste glasses. The standard molar entropy, , at 298.15 K of Nd2(MoO4)3 was determined by measuring its isobaric heat capacities, , from 2 K via the fitting functions including the Debye-Einstein formula and electronic- as well as magnetic terms. The Neel temperature, TN, estimated by extrapolating the magnetic- term in the fitting function. Its standard Gibbs energy of formation, , was determined by combining datum with the standard enthalpy of formation, , which were estimated from ones for Ce2(MoO4)3 and Sm2(MoO4)3. The unknown standard Gibbs energies of solution, , at 298.15 K for Nd2(MoO4)3 were predicted from the reference data for MoO42-(aq) and Nd3+(aq). The obtained thermodynamic values are as follows:

  

1. 緒言

廃棄できないまま世界中に蓄積されている使用済核燃料は,以下のような処分方法が検討されている1,2:(1)硝酸水溶液に溶解し,ウランおよびプルトニウムを溶媒抽出する1,2;(2)放射性物質を含む廃液を硼珪酸ガラスとともに焼成1,2し,ガラス固化体とする1,2;(3)この使用済核燃料ガラス固化体を炭素鋼,セメント,ベントナイトからなる人工バリアで覆い,地下 300 m以下の地中に埋設し,地層処分を行うことが検討されている1,2.ガラス固化体中の放射性物質の半減期には,おおよそ10万年を要するのに対し,人工バリアの寿命はおよそ1000年である.人工バリアの崩壊,または地殻変動などが起き,ガラス固化体が直接地下水に接触,接触した放射性物質が地下水に溶出し,放射性物質を含む地下水が生物圏へ上昇する可能性がある.

経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)では,使用済核燃料ガラス固化体を地層処分する際,ガラス固化体構成成分の熱力学的安定性を評価するために,これらの熱力学諸量の整備を行っている(NEA-TDB)3.現在,モリブデン(Mo)を含む化合物の熱力学諸量の整備が行われている3

Moは,ウランの核分裂生成元素の一つであり,Moは,使用済核燃料をガラス固化する過程において,イエローフェーズと呼ばれる水溶性の結晶相を生成する原因となる.イエローフェーズのホスト結晶はA2MoO4(A:アルカリ金属)1,2,6,7,8およびCaMoO41,2,6,7,8である.ケイ酸ガラス9および硼珪酸ガラス10には,スピノーダル分解する組成がある.硼珪酸ガラス中の酸化モリブデン(MoO3)は,この組成の範囲を広げる1,2,4,5.Hyattら8は,X線吸収スペクトルにより,廃棄ガラス中のMo種について状態分析した.Moは,O2-イオンを四面体配位し,MoO42-を構成する8.このMoO42-にNa+カチオンおよびCa2+カチオンが電荷補償し,イエローフェーズとして析出あるいは晶出する.このホスト結晶中に放射性元素が分配する.

著者らは前報11,12,13,14,15,16,17において,OECD/NEA-TDBプロジェクト3の一環として,イエローフェーズのエンドメンバーであるSrMoO412,BaMoO414およびCaMoO417の熱力学諸量を測定した.また,それらの主成分であるMoO317や,遷移金属モリブデン複酸化物NiMoO411およびAg2MoO416 Δ f G m を決定した.さらに水溶液中のイオン種MoO42-の熱力学諸量13,17の検討を行った.これらの熱力学諸量の検討において,定圧熱容量, C p,m ,の数学モデル12,14,15,16,17の検討を行った.なお,著者ら17は,Pankajavalliら18,Samantら19およびSinら20の研究に基づきZrMo2O817を,Basuら21およびDashら22の研究に基づきThMo2O815を,Chattopadlyら23,Tripathiら24およびDashら25の研究に基づきUMoO615の熱力学諸量を検討した.

希土類元素は,ウラン(U)の核分裂生成元素であり,そのモリブデン複酸化物であるRE2(MoO43(RE=La-Eu)は,イエローフェーズ関連物質である.本研究では,モリブデン酸ネオジムNd2(MoO43の 2-300 Kにおける C p,m を測定し,298.15 Kにおける標準エントロピー, Δ 0 T S m ,を決定した.また,DashおよびShukla26が溶解熱カロリメトリーによって決定した 298.15 Kにおけるモリブデン酸サマリウム(Sm2(MoO43)およびモリブデン酸セリウム(Ce2(MoO43)の標準生成エンタルピー, Δ f H m ,を用いて,Nd2(MoO43 Δ f H m を推算した.Nd2(MoO43 Δ 0 T S m および Δ f H m の両者から,標準生成ギブズエネルギー, Δ f G m ,を導出した.この Δ f G m を用いて,使用済核燃料ガラス固化体中におけるNd2(MoO43の熱力学的安定性を評価した.この熱力学的安定性の評価では,イエローフェーズエンドメンバーであるアルカリ土類金属モリブデン複酸化物SrMoO412,BaMoO414およびCaMoO417,イエローフェーズ関連遷移金属モリブデン複酸化物NiMoO417およびZrMo2O817,およびイエローフェーズ関連アクチノイドモリブデン複酸化物UMoO617およびThMo2O817の熱力学的安定性と比較した.

前報17において,著者らは,水溶液中イオン種MoO42- Δ f G m を決定した.この値を用いて,実測値のないNiMoO4,ZrMo2O8,UMoO6やThMo2O8の標準溶解ギブズエネルギー, Δ sol G ,および溶解度積,Ks,を予測した17.本研究においても,前報17と同様にNd2(MoO43 Δ sln G およびKsを推算した.Felmyら27は,Nd2(MoO43・xH2Oの水への溶解度を測定し,その Δ f G m を評価した.Kitamuraら28は,Felmyら27の値に基づき,Nd2(MoO43・xH2Oの Δ sln G およびKsを評価した.本研究で推算したNd2(MoO43およびKitamuraら28が評価したNd2(MoO43・xH2Oの Δ sln G およびKsを相互に比較し,水溶液中イオンと平衡する固相が,Nd2(MoO43であるのかNd2(MoO43・xH2Oであるのかを検討した.

2. 実験方法

2.1 試料の作製

Nd2(MoO43を,式(1)に示した置換反応により作製を試みた.   

2NdC l 3 6 H 2 O(aq)+3N a 2 Mo O 4 (aq) =N d 2 (Mo O 4 ) 3 (cr)+6 NaCl(aq)+12 H 2 O (1)

塩化ネオジム六水和物(NdCl3・6H2O)粉末(関東化学株式会社,純度99.95%)と,モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)粉末(Johnson Matthey社,純度99.9%)を出発原料とした.NdCl3・6H2OとNa2MoO4のモル比が2:3になるように秤量し,それぞれの水溶液をるつぼで混合した.この混合水溶液中において,式(1)に示した置換反応が進行し,Nd2(MoO43(cr)が沈殿した.この沈殿を含む水溶液を 453 Kで蒸発乾固した.この乾固体には,式(1)に示したように,NaCl(aq)が不純物として含まれる.そこで,純水を加えてNaCl(cr)をNaCl(aq)として除去した.この濾過によって回収したNd2(MoO43(cr)沈殿を 453 Kで乾燥した.この粉末を電気炉にセットし,973 K,10 K min-1で昇温,2.0 h保持を行ない煆焼した.Fig. 1 に煆焼して得られたNd2(MoO43(cr)粉末のXRD図形を示した.Nd2(MoO43(cr)単相29であることを確認した.後述の結果に述べるように,Nd2(MoO43(cr)のKsは,試料作製時においては無視できる程度に小さいことが分かった.したがって,この濾過によってNd2(MoO43(cr)を作製できると判断できる.

Fig. 1

XRD pattern of Nd2(MoO43 prepared in the present study.

2.2 2-300 KにおけるC°p,m測定

2-300 Kの温度範囲におけるNd2(MoO43 C p,m を,緩和法30,31による物理特性測定装置(PPMS(米国Quantum Design 社製))を用いて測定した.この方法11,12,14,16,17,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40において,8本のAu-Pd細線で測定器に接続された試料ステージ上に,試料をグリースを用いて取り付ける.この試料ステージ下部にには,試料にヒートパルスを供給するヒーターと温度計が取り付けられている.ヒートパルスによる試料の温度上昇は,この温度計によって測定される.試料の C p,m は,以下のように決定する:(1)グリースおよび試料ステージの熱容量は,ヒーターからのヒートパルスにより,アデンダとして測定される;(2)試料を試料ステージ上に設置した後,グリース,試料および試料ステージの熱容量を測定する.試料の C p,m は,PPMSソフトウェア内で,アデンダを引くことにより計算することができる.

前項2.1で作製したNd2(MoO43粉末を,392 MPaにて直径 10 mm,厚さ 2 mmに圧縮成形したのち,973 K,10 K min-1で昇温,3h保持して焼結した.この焼結体を,約 2×2 mm,厚さ 0.7 mmになるように研磨した.試料の重量が 11.28 mgおよび 12.01 mgの2つの試料を作成し,それぞれの試料について3回,すなわち合計6回測定を行った. 各試料は,試料と試料ステージ間の熱接触を良くするために,ϕ0.2 mmのCu細線を用いて試料を試料ステージに柔らかく押し付けた.ヒートパルスによる試料の温度上昇は,このような熱接触および試料本体の熱伝導率に依存する.この微視的な均一性を確認するため,Nd2(MoO43の試料を2つ作製して測定し,異なる試料間の相違の有無を検討した.

3. 結果および考察

Fig. 2 に,Nd2(MoO43の 2-300 Kにおける C p,m を示した. C p,m は温度の低下に伴い,4 Kまでは熱力学第3法則に従い,零に漸近した.しかしながら,4 K以下では,温度の低下とともに C p,m が増加することが分かった.この 4 K以下の C p,m の増加については後述する.

Fig. 2

Experimental molar heat capacities , C p,m , for Nd2(MoO43 at 2-300K (open circle) and ones calculated from the fitting functions (eqs. (3),(4),(5), solid line),compared with C p,m 17 4 MoO3)) (black circle) and C p,m 17 5 Nd2O3) (black triangle) at 298.15 K. Black rec-tangle shows C p,m at 298.15 K on the basis of the Neumann-Kopp law.

標準状態のMoO3およびNd2O3の 298.15 Kにおける C p,m Fig. 2 に示した.ただし,Nd2(MoO43は原子の総数が 17 molである.したがって,MoO3 C p,m /J K-1 mol-1=73.1717に対し17/4倍( C p,m 17 4 MoO3))(●),Nd2O3 C p,m /J K-1 mol-1=111.33241に対し17/5倍( C p,m 17 5 Nd2O3))(▲)とし,これらも原子の総数を17molとして表現した.また,Neumann-Koppの法則に基づき, C p,m 17 4 MoO3)および C p,m 17 5 Nd2O3)の平均値をFig. 2 に示した(■).298.15 Kにおける C p,m (Nd2(MoO43)はNeumann-Koppの法則から予想される C p,m (■)より大きいということが分かった.この理由については,Nd2(MoO43の結晶構造に基づき後述する.

Table 1 および2に,Nd2(MoO43の所定の温度における熱容量, C p,m ,の測定値およびその不確かさ42を示した.6回測定の繰り返し不確かさ, U r ( C p,m ) ,を標準偏差, σ( C p,m ) ,の2倍として定義した(式(2)).この U r ( C p,m ) の信頼度は0.95である.   

U r ( C p,m ) =( 2σ( C p,m ) C p,m ) ×100 (2)
Table 1 Experimental molar heat capacities, C p,m ,of Nd2(MoO43 at 2-300 K at constant pressure(p / mPa=12). M /(g mol-1)=768.32.
T C p,m T C p,m T C p,m T C p,m T C p,m
/ K/(J K-1mol-1/ K/(J K-1mol-1/ K/(J K-1mol-1/ K/(J K-1mol-1/ K/(J K-1mol-1
2.1050.14510.371.27818.217.95725.7921.31145.78254.78
2.3340.12410.571.35518.388.19225.9821.69150.22259.33
2.5600.10510.771.45418.588.47827.1024.28154.67264.24
2.7850.09710.971.54018.788.76129.3329.44159.11269.40
3.0080.09111.171.64518.989.03231.5534.87163.55272.50
3.2010.09111.371.74219.189.33933.7740.81168.00277.70
3.4020.09111.571.84719.389.59835.9946.45172.00281.34
3.6000.09111.771.95019.589.90939.9957.34176.45285.38
3.7970.09311.972.07419.7710.2442.1063.13180.89288.97
3.9960.10012.172.18319.9710.5544.2168.92185.34293.04
4.1950.10812.372.29820.1810.8246.3174.58189.78295.45
4.3940.11912.572.43020.3811.1948.4280.28194.22298.91
4.5920.12712.772.57720.4311.2750.5285.93198.66302.43
4.7900.13712.972.68820.5711.5852.6391.53203.11306.45
4.9890.15513.172.83220.7711.8154.7396.99207.55309.03
5.1890.16213.372.98620.9812.1556.84102.35212.00312.65
5.3880.17713.573.12721.1912.4658.94107.67216.00314.81
5.5860.19513.773.29521.3812.8461.05112.90220.44318.15
5.7860.21813.973.45421.5813.1963.15118.09224.89320.80
5.9830.23514.173.60121.7813.5765.26122.99229.34323.67
6.1790.26214.383.77821.9913.8567.36128.08233.78326.16
6.3770.28314.573.94922.1814.2769.47132.74238.21329.09
6.5770.31214.774.14722.3814.6171.58137.21242.67330.54
6.7750.33414.974.31322.5814.8973.68141.90247.11335.41
6.9770.37015.174.51022.6614.9475.79146.53251.55336.59
7.1760.40515.374.69922.7815.3077.89150.78256.00338.77
7.3760.43715.574.90722.9815.7380.00154.89260.00340.36
7.5770.47215.775.09323.1816.0884.00162.78264.44343.20
7.7730.51715.975.31523.3816.5288.44171.52268.90344.52
7.9730.56215.985.33023.5816.7692.89179.42273.35347.49
8.1730.61516.205.55023.7817.2597.33187.24277.77350.24
8.3730.64416.385.75823.9817.63101.78194.80282.23352.83
8.5720.69816.575.96324.1818.00106.22201.65286.67353.15
8.7710.75116.786.20524.3818.49110.67209.00291.12355.46
8.9690.80216.976.46624.5818.78115.11215.38295.55356.68
9.1800.87017.186.67524.7919.22119.55221.55300.00357.22
9.3690.91117.376.91424.8819.30124.00228.10
9.5720.99117.577.17324.9919.59128.00233.54
9.7721.05617.777.44525.1820.00132.45239.00
9.9691.12817.987.69225.3820.36136.89243.60
10.171.20018.187.93725.5920.92141.33249.06

The estimated standard uncertainties in the pressure p and temperature T are up)=0.10 mPa and uT)=0.01 K(2< T /K<20), uT)=0.02 K(20< T /K<100), uT)=0.05 K(100< T /K<300). The uncertainty based on repeatability(default level of confidence is 0.68)was evaluated to be ±0.003 C p,m for 200< T /K<300; ±0.002 C p,m for 100< T /K<200; ±0.010 C p,m for 50< T /K<100; ±0.010 C p,m for 20< T /K<50; ±0.005 C p,m for 5< T /K<20; ±0.025 C p,m for T /K<5.

Table 2 Standard deviations, σ( C p,m ) , for six times measurements as the uncertainties based on repeatability(default level of confidence is 0.68)and percent of twice σ( C p,m ) against C p,m U r ( C p,m ) ,as the expanded uncertainties with 0.95 of confidence for Nd2(MoO43 in the present study.
T / K σ( C p,m ) /(J K-1mol-1 U r ( C p,m ) a / percent
4.9896.68×10-38.64
9.9691.04×10-21.85
19.979.38×10-21.78
31.550.160.94
50.520.250.58
101.780.480.49
150.220.370.28
198.660.480.32
247.110.510.31
295.550.380.21
300.000.370.21
a   U r ( C p,m ) / percent={2 σ( C p,m ) / C p,m } × 100.

得られたNd2(MoO43 C p,m 曲線について,2.105-8.842 K,8.842-46.56 Kおよび 46.56-300.00 Kの3つの温度範囲に分けてフィッティングした.   

C p,m =γT+ j=3,5,7 A j T j + B j T 3 2 exp( - Δ T ) (3)
  
C p,m = k=0 6 B k T k (4)
  
C p,m =3R[ mD( Θ D T ) +n E 1 ( Θ E1 T ) +l E 2 ( Θ E2 T ) ] (5)
2.105-8.842 Kにおいて,γ C p,m に寄与する電子熱容量係数50,51である.絶縁体においては,酸素イオン空孔の生成により必要となる52,53Ajj=3,5,7)は C p,m に寄与する格子振動の係数である14,15,16,17,43,44,45,46 B j T 3 2 exp( - Δ T ) は,ショットキー関数12,43,44,45,46,54,55に類似した相転移のピークをフィッティングするために用いることができる関数43,44,45,46,54,55である.8.842-46.56 Kにおいて,べき乗則関数12,14,16,17,43,44,45,46,47,48を用いてフィッティングした.46.56-300.00 Kにおいて,Debye-Einstein関数12,14,15,16,17,44,45,46,47,48,49を用いてフィッティングした. D( Θ D /T) 式(6)に示すDebye関数, E 1 ( Θ E1 /T) および E 2 ( Θ E2 /T) 式(7)に示すEinstein関数である.   
D( Θ D T ) =12 ( Θ D T ) -3 0 Θ D T x 3 e x -1 dx (6)
  
E( Θ E T ) = ( Θ E T ) 2 exp( Θ E T ) [ exp( Θ E T ) -1 ] 2 (7)
γAjj=3, 5, 7), Bj, Δ, Bkk=0-6), Debye温度, ΘD, Einstein温度,ΘE1およびΘE2,とその係数,mnおよびlを測定値を正しく再現するよう最適化した.なお,最適化係数mnおよびlの和は,分子式Nd2(MoO43を構成する原子の総数1756である.

Table 3 に,式(3),(4),(5)で用いたフィッティングパラメータを示した.それぞれのフィッティングパラメータは,5桁の測定値を正しく再現するために,有効数字を6桁57とした.Table 3 のパラメータをもつフィッティング関数を用いて計算した C p,m Fig. 2 に実線で示した.本フィッティング関数は測定値を精緻に再現した.

Table 3 Parameters for the fitting functions used to reproduce the measured C p,m for Nd2(MoO43 from eqs.((3),(4),(5)).
Temperature range /KParametersCoefficient
2.105~8.842 Kγ /(J K-2 mol-11.82083×10-1
A3 /(J K-4 mol-1-3.68551×10-2
A5 /(J K-6 mol-12.34711×10-4
A7 /(J K-8 mol-1-8.12020×10-7
Bj1.49640
Δ/K8.30422
8.842~46.56 KB0 /(J K-1 mol-1-1.26121×10-1
B1 /(J K-2 mol-12.21370×10-1
B2 /(J K-3 mol-1-5.44789×10-2
B3 /(J K-4 mol-15.71047×10-3
B4 /(J K-5 mol-1-1.33756×10-4
B5 /(J K-6 mol-11.25827×10-6
B6 /(J K-7 mol-1-3.92059×10-9
46.56~300.00 Km / mol6.28076
ΘD / K205.985
n / mol5.45389
ΘE1 / K327.366
l / mol5.26535
ΘE2 / K741.358

式(3)を絶対零度まで外挿すると,1.43 ± 0.14 Kにピークが現れた.このピーク温度は反強磁性相転移のNeel点,TN,であると考える.dhcp構造のNdは 19 Kにおいて,常磁性相から面間の反強磁性相に相転移する58.7.7 K以下において面間の反強磁性相から面内の反強磁性相に相転移することが知られている58.(I41/a)のNd2(MoO43の結晶構造29において,四面体構造MoO42-は,2次元的に規則化した層状構造をとる.このMoO42-の層間にNd3+が電荷補償しイオン配置する.その結果,Nd3+も2次元的に規則化した層状構造をとる.この2次元的なNd3+の層状構造中,ピークが発現する 1.43 Kにおいて,隣接し合うNd3+のスピンが打ち消し合い,反強磁性相転移が発現すると考察する.純Ndの底面内の反強磁性相転移が 7.7 K58であるのに対して,Nd2(MoO43では,Nd濃度が減少し,Neel点が 1.43 Kに低下した59と考察した.

Fig. 3 に,測定値とフィッティング関数の差, U fit ( C p,m ) ,を示した.本フィッティング関数は,25 K以上で0.5%以内,25-10 Kでは1.2%以内,10 K以下では6%以内で,実験値と一致した.この U fit ( C p,m ) の信頼度は0.95である.

Fig. 3

Deviations, U fit ( C p,m ) , of the experimental C p,m data for Nd2(MoO43 against the data calculated from the fitting function (eqs.(3),(4),(5)).

前報17において著者らは,本研究と同様にしてCaMoO4およびCuの 2-300 Kにおける C p,m を測定し,そのフィッティング関数17を決定した.一方,WellerおよびKing60は,断熱法により 50-300 KにおけるCaMoO4 C p,m を測定した.著者ら17が最適化したCaMoO4のフィッティング関数17とWellerおよびKing60の測定値との差, U devi ( C p,m ) 17,は,298.15 Kにおいて0.04%,250 Kにおいて0.32%,200 Kにおいて0.24%,150 Kにおいて0.09%,100 Kにおいて0.27%,50 Kにおいて0.86%であった.50 K以下については,断熱法によるCaMoO4 C p,m 測定値が存在しないため,著者らは同様にして測定したCu17を,Martin61の測定結果と比較して, U devi ( C p,m ) を検討した.Cuの U devi ( C p,m ) 17は,10-20 Kにおいて2%,7-10 Kにおいて2-10%,6.56 Kにおいて25%であった.本研究において,Nd2(MoO43 U devi ( C p,m ) は前報17で検討したCaMoO4およびCuと同様であると仮定した.Nd2(MoO43 U r ( C p,m ) U fit ( C p,m ) および U devi ( C p,m ) の不確かさの伝播57により,298.15 Kにおける合計不確かさ, U total ( C p,m ) ,を0.38%とした.298.15 K以下の U total ( C p,m ) も同様にして,250 Kにおいて0.56%,200 Kにおいて0.55%,150 Kにおいて0.31%,50 Kにおいて1.05%,20 Kにおいて3%,10 K以下において6-10%とした.

Shiら62は粉末およびナノ粒子をCuカップに充填,圧縮成形し,PPMSを用いてその C p,m を測定を行う方法を開発した.粒子間の熱接触が十分ではなく,ヒートパルスによる試料の微小な温度上昇が試料内で不均一である場合,Shiらの方法による測定が必要である.異なる2つの試料から得られた U r ( C p,m ) は前報17で測定したCaMoO417およびCu17のものと類似しており,Nd2(MoO43焼結体のヒートパルスによる微小な温度上昇の均一性は満足できると判断できる.

Nd2(MoO43(cr)の 298.15 Kにおける Δ 0 T S m は,本研究におけるフィッティング関数の積分により,   

Δ 0 T S m ( N d 2 (Mo O 4 ) 3 (cr), 298.15   K)/(J    K -1 mo l -1 ) = 0 T C p,m ( Nd 2 ( MoO 4 ) 3 ( cr ) ) T dT=439.38±4.39 (8)

著者らは前報17において,CaMoO4 Δ 0 T S m を決定し,WellerおよびKing60が決定した Δ 0 T S m と比較した結果,298.15 Kにおける U devi ( Δ 0 T S m ) が0.37%であった.Nd2(MoO43においてもCaMoO4 U devi ( Δ 0 T S m ) と同様であると仮定し,この値を積分誤差であるとみなした.Nd2(MoO43の 298.15 Kにおける   U total ( Δ 0 T S m ) は, U r ( C p,m ) U fit ( C p,m ) および U devi ( C p,m ) の誤差伝播57およびそれらの積分誤差を考慮することにより,1%(信頼度0.95)とした.5 K未満の U total ( C p,m ) の影響は無視できるほど小さい.

Table 4 に,Nd2(MoO43の熱力学関数を示した.絶対零度からのエンタルピー変化, Δ 0 T H m ,の不確かさは, Δ 0 T S m と同様に, U r ( C p,m ) U fit ( C p,m ) および U devi ( C p,m ) の誤差伝播とそれらの積分誤差を考慮して,1%(信頼度0.95)とした.フリーエナジーファンクション, φ m ,の不確かさは, Δ 0 T S m および Δ 0 T H m の誤差伝播理論57を適用し評価した.

Table 4 Standard thermodynamic functions for Nd2(MoO43(cr)at 0-300 K. φ m = Δ 0 T S m - Δ 0 T H m /T . M /(g mol-1)=768.32.
T / K C p,m ° /(J K-1 mol-1a Δ 0 T S m /(J K-1 mol-1a Δ 0 T H m /(kJ mol-1a φ m /(J K-1 mol-1a
00000
5084.44±0.8939.76±0.991.40±0.0411.72±1.22
100191.87±1.07134.29±1.348.53±0.0948.97±1.59
150258.88±0.80225.67±2.2619.91±0.2092.91±2.62
200304.57±1.68306.81±3.0734.07±0.34136.45±3.51
250335.80±1.88378.35±3.7850.13±0.50177.83±4.28
298.15356.52±1.35439.38±4.3966.83±0.67215.24±4.93
300357.18±0.79441.59±4.4267.49±0.67216.63±4.96
a  The expanded uncertainty with 0.95 level of confidence.

Table 4 に,Nd2(MoO43の熱力学関数を示した.絶対零度からのエンタルピー変化, Δ 0 T H m ,の不確かさは, Δ 0 T S m と同様に, U r ( C p,m ) U fit ( C p,m ) および U devi ( C p,m ) の誤差伝播とそれらの積分誤差を考慮して,1%(信頼度0.95)とした.フリーエナジーファンクション, φ m ,の不確かさは, Δ 0 T S m および Δ 0 T H m の誤差伝播理論57を適用し評価した.

Nd2(MoO43の298.15Kにおける標準生成エントロピー, Δ f S m ,を以下のように決定した.なお,元素物質の Δ 0 T S m は, Δ 0 T S m (Nd, 298.15 K)/(J K-1 mol-1)=71.086±0.55441 Δ 0 T S m (Mo, 298.15 K)/(J K-1 mol-1)=28.581±0.05013および Δ 0 T S m (O2, 298.15 K)/(J K-1 mol-1)=205.152±0.00563とした.   

Δ f S m (N d 2 (Mo O 4 ) 3 ,   298.15   K)/(J    K -1 mo l -1 ) = Δ 0 T S m (N d 2 (Mo O 4 ) 3 , 298.15   K)-2× Δ 0 T S m (Nd,   298.15   K)       -3× Δ 0 T S m (Mo,   298.15   K)-6× Δ 0 T S m ( O 2 ,   298.15   K) =-1019.45±4.43 (9)

DashおよびShukla26は,溶解熱カロリメトリーおよび熱力学サイクルを用いて,Ce2(MoO43およびSm2(MoO43 Δ f H m (Ce2(MoO43, 298.15 K)/(kJ mol-1)=-4363.4±4.126および Δ f H m (Sm2(MoO43, 298.15 K)/(kJ mol-1)=-4388.7±3.626を決定した.Ndの原子番号は60,Ceは58,Smは62である.これらの原子番号が示す周期律表の関係に基づき,Nd2(MoO43 Δ f H m を,Ce2(MoO43およびSm2(MoO43 Δ f H m の平均値として仮定した.   

Δ f H m (N d 2 (Mo O 4 ) 3 , 298.15 K)/(kJ mo l -1 )=-4376.1±12.7 (10)
この信頼度0.95の不確かさは,Ce2(MoO43およびSm2(MoO43の不確かさに誤差伝播理論57を適用し評価した.この Δ f H m と, Δ f S m を用いて,Nd2(MoO43の標準生成ギブズエネルギー, Δ f G m ,を以下のように推算した.   
Δ f G m (N d 2 (Mo O 4 ) 3 , 298.15 K)/(kJ mo l -1 )=-4072.1±12.7 (11)
この信頼度0.95の不確かさは, Δ f S m および Δ f H m の不確かさに誤差伝播理論57を適用し評価した.

酸化物MoO3(cr)およびNd2O3(cr)を標準状態に取り直し, Δ f S m,oxide を求めた.   

Δ f S m,oxide (J  K -1 mo l -1 )= Δ 0 T S m (N d 2 (Mo O 4 ) 3 , 298.15 K) - Δ 0 T S m (N d 2 O 3 (cr), 298.15 K)-3× Δ 0 T S m (Mo O 3 (cr), 298.15 K) =54.52±4.46 (12)
ここで,酸化物の Δ 0 T S m は, Δ 0 T S m (MoO3, 298.15 K)/(J K-1 mol-1)=75.43±0.7513および Δ 0 T S m (Nd2O3, 298.15 K)/(J K-1 mol-1)=158.574±1.23741とした. Δ f S m,oxide の値は正となることが分かった.Fig. 2 に示したように, C p,m (Nd2(MoO43)はNeumann-Koppの法則よりも正に偏倚した.Neel点の評価において述べたように,(I41/a)のNd2(MoO43の結晶構造29において,四面体構造のMoO42-は,2次元的に規則化した層状構造をとる.このMoO42-の層間にNd3+が電荷補償しイオン配置し,Nd3+も2次元的に規則化した層状構造をとる.標準状態のMoO3およびNd2O3の結晶構造はそれぞれ(Pbnm64および(Ia-3)65である.(Pbnm64のMoO3では,八面体構造のMoO66-が2次元的に規則化した層状構造64をとる.MoO42-およびNd3+が,それぞれ2次元的に規則化した層状構造のNd2(MoO4329では,振動の自由度が標準状態のMoO3およびNd2O3のそれらと比べて増加したと考察する.その結果, C p,m (Nd2(MoO43)がNeumann-Koppの法則よりも正に偏倚し, Δ f S m,oxide も正の値をとる.

使用済核燃料ガラス固化体中におけるNd2(MoO43の熱力学的安定性を評価した.使用済核燃料ガラス固化体中では,ガラス内の N d 2 O 3 _ 成分と Mo O 3 _ 成分が反応し,Nd2(MoO43(cr)が生成する反応(式(13))を検討する必要がある.   

1 3 N d 2 O 3 _ ( in glass ) + Mo O 3 _ (in glass)= 1 3 N d 2 (Mo O 4 ) 3 (cr) Δ r G (13)
ここで,他のモリブデン複酸化物と比較のため,MoO3を1モル当量として評価した.ΔrGは, N d 2 O 3 _ (in glass)と Mo O 3 _ (in glass)が反応するときのギブズエネルギー変化である.ΔrGは,ガラス中成分の標準反応ギブズエネルギー, Δ r G ,と活量,a,より定義される.   
Δ r G= Δ r G +RTln a Nd 2 ( MoO 4 ) 3 ( cr ) 1 3 a Nd 2 O 3 ( in   glass ) 1 3 a MoO 3 ( in   glass ) Δ r G= Δ r G +RTlnK (14)
Nd2(MoO43は純物質であるので, a Nd 2 ( MoO 4 ) 3 =1 である.すなわち平衡定数,K,は,式(15)のようになる.   
K= 1 a Nd 2 O 3 ( in   glass ) 1 3 a MoO 3 ( in   glass ) (15)

ΔrG<0の場合,Nd2(MoO43が析出する.ΔrG>0の場合,Nd2(MoO43がガラスマトリックスに溶解する.ΔrG=0の場合,析出と分解が平衡している.析出と分解が平衡している,すなわちΔrG=0の場合,K Δ r G の関数として式(16)となる.   

K=exp( - Δ r G RT ) (16)
Kは,Nd2(MoO43結晶の生成しやすさの尺度である.この反応の Δ r G およびKについて, Δ f G m (Nd2O3)/(kJ mol-1)=-1721.049±13.42441および Δ f G m (MoO3)/(kJ mol-1)=-667.20±0.5917を用いて評価した, Δ r G およびKTable 5 に示した.著者ら17は,同様にしてイエローフェーズエンドメンバーのCaMoO417, SrMoO412およびBaMoO414や,イエローフェーズ関連物質である,遷移金属モリブデン複酸化物NiMoO411およびZrMo2O817,アクチノイドモリブデン複酸化物ThMo2O817およびUMoO617について Δ r G およびKを評価した.これらの Δ r G およびKをNd2(MoO43と同様にTable 5 に示した.Nd2(MoO43はアルカリ土類金属モリブデン複酸化物BaMoO4,SrMoO4およびCaMoO4に次ぐ大きなKを示しており,遷移金属モリブデン複酸化物NiMoO4およびZrMo2O8やアクチノイドモリブデン複酸化物ThMo2O8およびUMoO6に対し優先的に析出することが分かった.前報14,17の検討では,MoO3を1モル当量として評価をしていない.多様なモリブデン複酸化物のヒエラルキーを明らかにするためには,本研究のようにMoO3を1モル当量とすべきである.
Table 5 Hierarchy of Neodymium- molybdate compared with the end members of the yellow phases, the related transition-metal and actinide- molybdates.
Reactions Δ r G / kJ aKbRemarks
BaO(in glass)+MoO3(in glass)=BaMoO4(cr)-255.80±2.906.51×1044±7.37×1042Ref.14
SrO(in glass)+MoO3(in glass)=SrMoO4(cr)-214.22±1.763.39×1037±2.78×1035Ref.12
CaO(in glass)+MoO3(in glass)=CaMoO4(cr)-167.28±1.582.03×1029±1.91×1027Ref.17
Nd2O3(in glass)+3MoO3(in glass)=Nd2(MoO43(cr)-116.5±6.162.57×1020±5.14×1019Present study
UO3(in glass)+MoO3(in glass)=UMoO6(cr)-44.55±34.446.38×107±4.93×107Ref.17
NiO(in glass)+MoO3(in glass)=NiMoO4(cr)-42.34±1.462.62×107±6.51×106Ref.11
ThO2(in glass)+2MoO3(in glass)=ThMo2O8(cr)-29.73±21.131.61×105±3.23×104Ref.17
ZrO2(in glass)+2MoO3(in glass)=ZrMo2O8(cr)-11.71±15.201.12×102±2.25×101Ref.17
a b  The expanded uncertainty with 0.95 level of confidence.

固体が水に溶解して,イオン種になる Δ sln G およびKsは,核廃棄物安全管理のための尺度17である.著者らは前報17において,水溶液中イオン種MoO42- Δ f G m を決定した.この値を用いて,実測値のないNiMoO4,ZrMo2O8,UMoO6およびThMo2O8 Δ sol G およびKsを予測した17.本研究においても,前報17と同様にNd2(MoO43 Δ sln G およびKsを推算した.Nd2(MoO43(cr)の溶解反応式は,式(17)によって表される.   

N d 2 (Mo O 4 ) 3 (cr)= 3Mo O 4 2- (aq)+ 2N d 3+ (aq) Δ sln G (N d 2 (Mo O 4 ) 3 (cr),298.15 K) (17)
Δ sln G (Nd2(MoO43(cr), 298.15 K)は式(18)によって定義される.   
Δ sln G (N d 2 (Mo O 4 ) 3 (cr),298.15 K) =3 Δ f G m (Mo O 4 2- (aq),298.15 K)          + 2 Δ f G m (N d 3+ (aq),298.15 K)          - Δ f G m (N d 2 (Mo O 4 ) 3 (cr),298.15 K) =-RTln ( a MoO 4 2- ) 3 ( a Nd 3+ ) 2 a Nd 2 ( MoO 4 ) 3 ( solid ) =-RTln K s, Nd 2 ( MoO 4 ) 3 (18)
ここで, Δ f G m (MoO42-(aq), 298.15 K)は,著者ら17が決定した値(-836.61±1.02[kJ mol-1])を用いた.この Δ f G m (MoO42-(aq), 298.15 K)17および Δ f G m (Nd3+(aq), 298.15 K)66式(18)に代入し, Δ sln G m (Nd2(MoO43(cr), 298.15 K)およびKsを求めた.

Table 6 に,Nd2(MoO43 Δ sln G およびKsを示した.比較のため,CaMoO467,SrMoO468,BaMoO469,NiMoO417,ZrMo2O817,ThMo2O817,UMoO617およびThMo2O815 Δ sln G およびKsを示した.Nd2(MoO43(cr)は他のすべてのイエローフェーズエンドメンバーや,イエローフェーズ関連遷移金属モリブデン複酸化物および関連アクチノイドモリブデン複酸化物と比べ, Δ sln G が大きく,Ksが小さかった.このKsより,式(1)に示した置換反応によって,Nd2(MoO43を析出させることができる.

Table 6 Prediction of unknown standard Gibbs energy of solution, Δ sln G , and solubility products, Ks, for Neodymium-, transition metal- and actinide metal- molybdates, compared with ones for the end menbers of the yellow phases.
Δ sln G /(kJ mol-1KsRemarks
NiMoO438.82±1.79 b1.58×10-7±3.17×10-8 bRef.17
SrMoO445.00±1.40 a1.31×10-8±2.62×10-9 aRef.68
CaMoO445.69±0.32 a9.90×10-9±1.98×10-9 aRef.67
BaMoO448.51±0.22 a3.17×10-9±6.34×10-10 aRef.69
UMoO668.33±34.47 b1.07×10-12±2.14×10-13 bRef.17
ThMo2O8184.84±42.48 b4.15×10-33±8.30×10-34 bRef.17
ZrMo2O8200.59±31.79 b7.21×10-36±1.44×10-36 bRef.17
Nd2(MoO43・xH2O148.98±0.74 b7.94×10-27±1.59×10-27 bRef.27,28
Nd2(MoO43219.1±13.7 b4.17×10-39±8.25×10-40 bPresent Study
a   Δ sln G : Standard Gibbs energies for solution with the expanded uncertainty with 0.95 level of confidence by Felmy27, Kitamura28, Gamsjäger67, Nesmeyanov68 and Jost69.

ab  The expanded uncertainty with 0.95 level of confidence.

Felmyら27は,Nd2(MoO43・xH2Oの水への溶解度を測定した.Kitamuraら28は,Felmyら27の値について Δ sln G およびKsを評価し,Table 6 の値を得た.著者らが推算したNd2(MoO43 Δ sln G およびKsは,Kitamuraら27が評価したNd2(MoO43・xH2Oの Δ sln G およびKsよりも小さいことが分かった.したがって,著者らがTable 6 に示した Δ sln G およびKsは,無水Nd2(MoO43が直接イオン種と平衡すると仮想した準安定平衡の熱力学諸量であると結論する.すなわち,ガラス固化体中Nd2(MoO43が結晶化すると,この無水結晶は水和物Nd2(MoO43・xH2Oとなる.その後,水溶液中イオンNd3+およびMoO42-として溶解すると結論する.この過程をより明らかにするためには,Nd2(MoO43およびNd2(MoO43・xH2Oの熱力学諸量を精緻に決定する必要がある.本研究のNd2(MoO43 Δ f H m は,Ce2(MoO43およびSm2(MoO43に基づく推算値である.Nd2(MoO43 Δ f H m を溶解熱カロリメトリー32,33,34,35,36,37,38,39,40によって明らかにし,本研究で決定した Δ 0 T S m と組み合わせて, Δ f G m を決定する必要がある.Nd2(MoO43・xH2Oでは,極低温からの C p,m 測定によって Δ 0 T S m を決定し,また,溶解熱カロリメトリー32,33,34,35,36,37,38,39,40によって Δ f H m を明らかにし, Δ f G m を決定する必要がある.これら双方の Δ f G m に基づくと,Nd2(MoO43およびNd2(MoO43・xH2Oの熱力学的平衡関係が明らかとなり,水和を経て,水溶液中に溶解する過程を精緻に理解できると考える.

4. 結言

2-300 KにおいてNd2(MoO43 C p,m を測定し,298.15 Kにおける Δ 0 T S m を決定した. C p,m のフィッティング関数を絶対零度まで外挿し,TNを決定した.化学的性質の似たランタノイドモリブデン複酸化物(Ce2(MoO43およびSm2(MoO43)の Δ f H m を用いてNd2(MoO43 Δ f H m を推算し, Δ 0 T S m と組み合わせることで Δ f G m を求めた.この Δ f G m を用いて, Δ sln G を求めた得られた熱力学諸量を以下に示す: Δ 0 T S m (Nd2(MoO43, 298.15 K)/(J K-1 mol-1)=439.38±4.39; Δ f G m (Nd2(MoO43, 298.15 K)/(kJ mol-1)=-4072.1±12.7; Δ sln G (Nd2(MoO43(cr), 298.15 K)/(kJ mol-1)=219.1±13.7; TN/K=1.43±0.14. 本研究で得られた熱力学諸量は,放射性物質の地下水への溶出に関する地球化学シミュレーションに有用であると期待される.

謝辞

本研究は,科研費(26234567)および経済協力開発機構(OECD)原子力機関(NEA)熱力学データベースプロジェクト(NEA-TDB Phase IV)の助成により行われた.

引用文献
 
© 2017 (公社)日本金属学会
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