韓国が世界のコンテナ貨物取扱量で世界第7位であるのに対し、日本は上位クラスに位置していない。本研究目的は、世界の海上コンテナ貨物の状況を把握したうえで日本と韓国における海上コンテナ港湾の関係性を把握し、日本の現況を示すことである。世界の物流評価軸は、海上コンテナ貨物量(TEU)であるが、日本の産業特性から海上コンテナ貨物による輸送ができない石炭・石油・鉄鉱石・穀物などの輸入、乗用車などの輸出が多いため必然的に世界競争力評価に寄与できない。また、船舶の大型化、海上コンテナ貨物の輸送技術の高度化などを視野に入れた港湾整備が世界で進んでいる。しかし、日本の港湾は、世界最大級の海上コンテナ貨物船が水深の関係から寄港できない。そのため、基幹航路船の誘致が難しい。さらには、日本経済が低迷していることからフィーダー輸送を充実させることを優先に考えなければならない現状がある。
South Korea ranks seventh globally in container cargo handling, whereas Japan does not hold a comparable position among leading countries. This study aims to analyze the status of global maritime container cargo, examine the relationship between maritime container ports in Japan and South Korea, and provide insights into Japan's current situation. Although the global logistics metric is primarily based on container cargo volume (TEU), Japan’s unique industrial characteristics result in significant imports of coal, oil, iron ore, and grain—commodities unsuited to container transport—and exports of passenger vehicles. Consequently, Japan's contribution to global competitiveness in this area is limited. Meanwhile, global port development trends focus on accommodating larger vessels and enhancing container cargo transport technologies. However, Japanese ports face limitations, as the world’s largest container ships cannot dock due to depth constraints, making it difficult to attract primary-route vessels. Furthermore, Japan’s stagnant economy necessitates prioritizing feeder services.
【資料】
日本の海上物流の現状と港湾政策に関する考察
―日本と韓国の海上物流に着目してー
竹内裕二*・李應珍**・禹賢娥**・郭芝連**・坂田理莉**
Yuji Takeuchi*, Lee Eung-jin**, Woo Hyun-A, Kwak Ji-Yeon, Riri Sakata
*下関市立大学、**大邱大学校
Shimonoseki City University, Taegu University
要旨
韓国が世界のコンテナ貨物取扱量で世界第7位であるのに対し、日本は上位クラスに位置していない。本研究目的は、世界の海上コンテナ貨物の状況を把握したうえで日本と韓国における海上コンテナ港湾の関係性を把握し、日本の現況を示すことである。世界の物流評価軸は、海上コンテナ貨物量(TEU)であるが、日本の産業特性から海上コンテナ貨物による輸送ができない石炭・石油・鉄鉱石・穀物などの輸入、乗用車などの輸出が多いため必然的に世界競争力評価に寄与できない。また、船舶の大型化、海上コンテナ貨物の輸送技術の高度化などを視野に入れた港湾整備が世界で進んでいる。しかし、日本の港湾は、世界最大級の海上コンテナ貨物船が水深の関係から寄港できない。そのため、基幹航路船の誘致が難しい。さらには、日本経済が低迷していることからフィーダー輸送を充実させることを優先に考えなければならない現状がある。
キーワード: コンテナ港湾、コンテナ貨物量、外貿基幹航路、国際力強化、競争力
Abstract
South Korea ranks seventh globally in container cargo handling, whereas Japan does not hold a comparable position among leading countries. This study aims to analyze the status of global maritime container cargo, examine the relationship between maritime container ports in Japan and South Korea, and provide insights into Japan's current situation. Although the global logistics metric is primarily based on container cargo volume (TEU), Japan’s unique industrial characteristics result in significant imports of coal, oil, iron ore, and grain—commodities unsuited to container transport—and exports of passenger vehicles. Consequently, Japan's contribution to global competitiveness in this area is limited. Meanwhile, global port development trends focus on accommodating larger vessels and enhancing container cargo transport technologies. However, Japanese ports face limitations, as the world’s largest container ships cannot dock due to depth constraints, making it difficult to attract primary-route vessels. Furthermore, Japan’s stagnant economy necessitates prioritizing feeder services.
Keywords: Container Port, Container Cargo Volume, Main Foreign Trade Route,
International Strength, Competitiveness
1. はじめに
日本の財務省が、2023年4月20日に貿易統計(速報)を発表した。その発表によれば、原油などのエネルギー価格の高騰や記録的な円安などが影響し、2022年度の日本の輸入額が過去最大の120兆9550億円となった。一方の輸出額は、自動車や半導体などの電子部品関連の輸出が伸びたことなどにより、過去最大の99兆2265億円であった。結果的に貿易収支は、過去最大の21兆7285億円の赤字となった(読売新聞オンライン, 2023, 「昨年度の貿易赤字、21兆円7285億円で過去最大…13年度の1.5倍超」、読売新聞2023年4月20日)。この赤字額は、それ以前まで過去最大の赤字額(2013年)だった13兆7000億円と比較しても、1.59倍の赤字額である。これに関連したNHKニュースによれば、貿易統計から2021年度の輸入額と比較して32.2%の大幅増加になったものの、輸入量を指数で示す「数量指数」は前年度比1.6%のマイナスだったという(NHK, 2023, 「昨年度の貿易収支21兆円7285億円の赤字1979年以降で最大」、NHK NEWS WEB 2023年4月20日)。すなわち、日本の貿易は、「物流量が減り、輸入額が増えた」ということである。
四方を海で囲まれた日本は、島国ゆえ貿易活動なしに日本の経済活動と国民生活は成り立たないといっても過言ではない。そのような地理的状況ゆえに日本の貿易を担う主たる輸出入の手段は、必然的に海上輸送と航空輸送の2択になってしまう。その選択は、荷主が発送する荷物の内容によって物流のスピードと物量のトレードオフの関係から決定する1)。特に生産活動のグローバル化や人々の消費の多様化に伴い、国家間の経済交流が活発に展開されるようになってきた。この点は、1990年頃から地理的に隣接している国家間で共同の経済利益を追求しようとする経済ブロック化の動きによるところが大きい。近年、注目すべきことに、新型コロナウイルス感染症拡大により国際旅客輸送が激減しても、国際貨物輸送が堅調に推移している。この現実からも、国際貿易の重要性が浮き彫りとなった。
本研究では、福山(2021)が主張する「釜山港湾公社は、現在、釜山港をその戦略的位置という観点から、北米航路・欧州航路等の海上航路とユーラシア大陸のシベリア・ランドブリッジ(SLB)やチャイナ・ランドブリッジ(中欧班列)のハブ港として位置付けている」点に着目した。なぜなら、釜山港から近距離にある九州地域の港湾における2021年度の海上コンテナ取扱貨物量合計(国土交通省, 2022)は、外貿コンテナ量に特化して見てみると1,548,766TEU2)であった(全国合計17,910,912TEUに対する8.64%を占める)。このうち、博多港と関門港(北九州港と下関港)が占めている同年度の外貿コンテナ量合計は、1,291,939 TEUである(九州全体83.42%を占めている)。この状況からも博多港・関門港(北九州港・下関港)が九州を代表するゲートウェイの役割を明らかに果たしているといえる。だからこそ、九州エリアにおいて今後、博多港・関門港(北九州港・下関港)による国際海上物流の
1)2022年における日本の輸出入は、99.5%(8億5167万トン)が海上輸送で、0.5%(399万トン)が航空輸送だという(日本海事広報協会, 2022, p.12))。
2)TEUとは、Twenty-foot equivalent unitsの略で、20ft.コンテナ1個を1TEUとしている。ここでいう20ft.とは、幅(W)2.0m×高さ(H)2.6m×長さ(D)6.1mサイズの換算コンテナ取扱個数の単位を意味している。
発展の可能性に期待が持てる。
本稿執筆するに当たり、物流に関する世界的社会情勢が変化に対応した日本への物流と、それを支える港湾の現状把握をすることから始める。この点に関する着目は、韓国が世界のコンテナ貨物取扱量で世界第7位(詳細は2.1で後述)に対し、日本が上位クラスに位置していない現実がある。本稿の研究目的は、世界の海上コンテナ貨物の状況を把握したうえで日本と韓国における海上コンテナ港湾の関係性を把握し、日本の現況を示すことである。
2. コンテナ港湾の競争力の変遷から見た現状
日本経済は、世界経済とのつながりを深める中で、グローバリゼーションの進展、自由貿易の恩恵を受けながら急速に成長を遂げた(経済産業省, 2021)。特に、1980年代からの伸びは、日本の経済成長や1985年のプラザ合意以降の急速な円高などの要因から日本の輸出入による物流量が加速度的増していった。1993年には、世界GDPの約18%を占めるようになった。この時代背景として、世界的な貿易・投資の拡大による進展で、世界規模で国際分業が行われるようになった点が大きい。2000年以後の物流量は、輸送技術の向上によって、それ以前の物流量と比較しても著しい進展を果たしている(図1参照)。
2.1. 日本の物流に対する海上コンテナ貨物の位置づけ
1980年以降、日系企業の海外進出が進み、生産拠点が中国やASEAN地域へ徐々にシフトしながら日本の産業構造は顕著に変化した。具体的には、国内の地方海上輸送貨物を徐々に集められなくなってきたことで、日本の主要港湾の海上コンテナ貨物量が相対的に少なくなってきた。また、産業構造そのものが高度化し、商品の高付加価値化や、サプライチェーンマネジメントが進み、リードタイムの圧縮ニーズが高まった。その背景として、日本国内における陸送運搬時間の短縮を理由に、それまで国際主要港湾までの陸上輸送をしていたもの
図1:世界のコンテナ荷動き推移図
出典:日本郵船調査グループ(2022), p.5
を地方港湾へ輸送するようになった。このことで地方港湾の国際化が急速に進展し、産業構造を大きく変化させていく要因にもなった。後述するが世界の物流は、リーマンショック後に大きく変化した。日本にとっては、この出来事を契機に隣国・釜山港がコンテナハブ港としての役割を担うようになった。その結果として、トランシップ貨物を小型コンテナ船によって日本-韓国間で受け渡しするようになった。
筆者は、海上輸送の位置づけを明確にするために貨物輸送全体を把握する必要があると考えた。海上輸送の特徴は、航空貨物と比べ運賃負担が安いものの輸送時間が長いことが挙げられる。それに比べ、航空輸送は、輸送時間が短い理由から荷主より鮮度が重要視される小ロット貨物が適していると支持されている。しかしながら、その実態について視覚的に把握できていない。そのため、筆者は2001年を100とした場合の日本の海上コンテナ貨物量と航空貨物量の経時変化を指数で図2に示した。この結果から2002年までの航空貨物輸送は、海上貨物輸送と比べて貨物取扱量が増加しているが、この年をピークに下降し始め2005年以降、海上コンテナ貨物輸送よりも航空機による貨物取扱指数が大きく落ち込んでいる3)。2009年に航空貨物輸送と海上コンテナ貨物輸送の指数が翌年に均衡する。以後、その時々の世界情勢に左右されながら増減を繰り返し、海上コンテナ貨物輸送指数の方が、航空貨物輸送指数よりも高い状況が続く。他方の海上コンテナ貨物輸送については、航空貨物と異なり確実に取扱貨物指数を増やしているが、2021年の時点で2002年時の指数と変わらない数字になっている。社会情勢による物流への影響という観点から両者を比較すれば、両者共に影響を受けている。その影響は、船舶輸送よりも空輸輸送の
図2:日本の船舶および航空貨物取扱量の変化図
備考:直送貨物を対象とし、継越貨物を除く。
出典:国土交通省「交通関係統計資料」および「日本出入航空貨物路線別取扱実績」を基に筆者作成
3)石倉・丹生(2003)によれば、航空貨物輸送は混載貨物が中心となる。そのため、航空貨物の流動は、混載貨物を取り扱うフォワダー*)の行動によって決まる。なぜなら、貨物輸送のコストを負担するのは荷主だが、搭載空港、利用キャリア、経由地等を全て決定しない(例えあっても稀)。一般的にフォワダーが運賃や輸送ルートなど複数パターンを提示し、荷主がその中から選択する形態が多い。このような状況から荷主が航空貨物を選択しなかったことによる結果が表れたものと考えられる。
*)フォワダーとは、日本語で「貨物利用運送事業者」といい、荷主から貨物を預かり、他の業者が取り扱う運送手段(船舶、航空、鉄道、貨物自動車など)を利用して運送を引き受ける役割を担う仕事である。
図3:日本および韓国の貨物取扱量の変化図
出典:国土交通省「交通関係統計資料」および해양수산부 통계시스템(2023)「港湾統計システム資料국적 외항선사 항로별 컨테이너 취급 현황 」を基に筆者作成
方が大きく受けている。この状況をより具体的に可視化するために、船舶輸送に特化した2000年以降の日本と韓国の海上コンテナ貨物取扱量の推移を図3に示した。図3からわかるように韓国全体の海上コンテナ貨物取扱量は年々、着実かつ著しい増加傾向にある。特に2009年以降の韓国において、大幅に海上コンテナ貨物取扱量が増加している(この点に関しては、次節2.2.2で解説)。一方の日本における海上コンテナ貨物取扱量は2000年以降、多少の増減が見られるものの着々と海上コンテナ貨物取扱量が増加している。海上コンテナ貨物の取扱量が増加した背景として、工業製品や中間財などの輸送量の増加、宅配事業の発達による個人向け貨物が増加した点が大きい。結果として、世界の貿易量や各国の海上コンテナ取扱量が急速に増量している。アジア諸国は、国際貿易がより一層発達することで、国際的な取引貨物量が増加するものと見越し、港湾を重要な社会インフラとして位置づけ、積極的に整備・運営体制の改革を行ってきたといえる。
この改革に関するアジア諸国の成果について、1980年以降の海上コンテナ取扱量ランキング(表1参照)から世界の物流に対する競争力を20年ごとに比較して、その実態を浮き彫りにする。2020年現在、上位10港のうち7港で中国の港がランクインしている。その多くの港が1980年当時、ランキングにも入っていない港である。さらに細見してみれば、2000 年の上位10港にランクインしている港は、香港港と上海港の2港のみで、その他の5港(寧波舟山、深圳、広州、青島、天津)は、直近20年で急成長した港である。その中でロッテルダム港と釜山港は、40年経過しても世界の港湾貨物取扱量の上位20港にランクインしている。しかし、この2港ともが前述した中国の港に順位を追い抜かれた状況にある。具体的には、1980年の時点で、ロッテルダム港が2位、釜山港が16位だった。20年経過した2000年時点のロッテルダム港は5位へ順位を落とし、40年後の2020年の順位は10位へとさらに順位を下げた。他方の釜山港は、2000年に3位まで順位を上げたものの2020年時点で順 位を7位に下げてしまった。この結果からも、日本の近隣諸国、特に中国が積極的に整備・運営体制面での改革を行い、確実に成果を上げていることがわかる。
表1:世界のコンテナ取扱量統計一覧(1980年から2021年)
順位 | 1980年 | 2000年 | 2021年 |
---|---|---|---|
1 |
ニューヨーク(アメリカ) 194万TEU |
香港(中国) 1,810万TEU |
上海(中国) 4,703万TEU |
2 |
ロッテルダム(オランダ) 190万TEU |
シンガポール 1,704TEU |
シンガポール 3,747万TEU |
3 |
香港(中国) 146万TEU |
釜山(韓国) 754万TEU |
寧波舟山(中国) 3,107万TEU |
4 |
神戸(日本) 145万TEU |
高雄(台湾) 742万TEU |
深圳(中国) 2,876万TEU |
5 |
高雄(台湾) 97万TEU |
ロッテルダム(オランダ) 628万TEU |
広州(中国) 2,418万TEU |
6 |
シンガポール 91万TEU |
上海(中国) 563万TEU |
青島(中国) 2,371万TEU |
7 |
サンファン(プエルトリコ) 85万TEU |
ロサンゼルス(アメリカ) 487万TEU |
釜山(韓国) 2,270万TEU |
8 |
ロングビーチ(アメリカ) 82万TEU |
ロングビーチ(アメリカ) 460万TEU |
天津(中国) 2,026万TEU |
9 |
ハンブルグ(ドイツ) 78万TEU |
ハンブルグ(ドイツ) 424万TEU |
香港(中国) 1,779万TEU |
10 |
オークランド(アメリカ) 78万TEU |
アントワープ(ベルギー) 408万TEU |
ロッテルダム(オランダ) 1,530万TEU |
- |
13位:横浜(日本) 72万TEU |
21位::横浜(日本) 231万TEU |
19位:ニューヨーク (アメリカ)898万TEU |
16位:釜山(韓国) 63万TEU |
22位:神戸(日本) 226万TEU |
-:京浜(日本) 786万TEU |
|
- |
18位:東京(日本) 63万TEU |
28位:名古屋(日本) 191万TEU |
-:阪神(日本) 524万TEU |
- |
39位:大阪(日本) 25万TEU |
89位:博多(日本) 51万TEU |
41位:東京(日本) 486万TEU |
- |
46位:名古屋(日本) 20万TEU |
112位:北九州(日本) 12万TEU |
72位:横浜(日本) 286万TEU |
- |
92位:北九州(日本) 8万TEU |
73位:神戸(日本) 282万TEU |
出典:国土交通省ホームページ(世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング)より筆者作成
この2港以外の1980年当時の港湾を見た場合、世界1位の海上コンテナ取扱量を誇っていたニューヨーク港(アメリカ)は、表1に掲載されていないが20年後の2000年に13位(300万TEU)、40年後の2021年に19位(758万TEU)と順位を下げている。同年当時の日本の港に焦点を当てて見てみれば、神戸港が4位(145万TEU)だった。ところが、20年後の2000年に22位(226万TEU)、40年後の2021年に73位(282TEU)と著しく順位を下げている。神戸港については、1995年1月の阪神淡路大震災による影響から順位を下げても致し方ない。その他の日本国内の港は、2000年以降上位20港以内にランクインすらできていない。
このような状況の日本国内の港も、国際的地位の低下から外貿基幹航路から外され、フィーダー4)化してしまった状況にある(詳細については、次節2.2.1で詳述)。この事については、日本に最も近い釜山港と日本の関係からも明確に表れている。この関係について福山(2021)は、釜山港のホームページのデータを基に次のような主張をしている。2020年の釜山港における総コンテナ取扱量は、2,182万TEUあり、その内訳として輸出が495万TEU、輸入が485万TEU、トランシップ(T/S)が1,202TEUだった。つまり、T/S比率が全体の55.1%を占めている。また、2018年の釜山港の対日T/S比率は、56.35%だという。福山(2021)は記事の中で、「個別には、博多港・苫小牧港・門司港・新潟港等へのT/S比率が高いが、国
4)ここでいう「フィーダー」とは、基幹航路に接続された主要港から地方港へ輸送するといった支線の役割を果たすという意味である。
際コンテナ戦略港湾の東京・大阪・神戸のT/S比率も高く、事実上、釜山港がハブ化している」と断言する。
2.2. 日本と韓国の港湾政策の違い
筆者らは、前節2.1で「日本の港湾は、国際的地位の低下から外貿基幹航路から抜港されてしまい、フィーダー化してしまっている」と述べた。かつての日本は、国際的地位があり他国から「貿易大国」、「海運王国」などと称されていたものの、その時の影さえも感じられない。日本が「貿易大国」と称された時は、1975年(1980年も)である。その当時の神戸港の海上コンテナ貨物取扱量は、世界第3位を誇っていた。その後の世界に対する日本の港湾の存在感は、表1に示す通りである。日本の港湾が国際的に存在感を薄くした理由について松田(2023)は、様々な背景があると断ったうえで「地理的条件(アジア・欧州航路の場合、日本が中国や韓国の先にある)」を挙げている。松田は、これを重要視する背景として、2021年の日本と欧州間の海上コンテナ貨物輸送量が往復131.1万TEU(アジア・欧州航路の5.3%)に留まっている点を指摘する。つまり、アジア・欧州間の基幹航路を運営する海運会社(または船社)が、少量の貨物を日本まで運ぶことを嫌がった意思の表れととれる。運営会社にしてみれば、少しでもリードタイムを軽減し、必要経費など5)を削減したいと考えるのが当然の選択行為である。また、海上コンテナ貨物船の大きさが時代の変化に伴い技術も進歩しているから大型化し、寄港地を限定しなければならないといった物理的な要因に寄るところも大きい。
2.2.1. 日本の港湾政策
日本国政府は、港湾の国際的地位向上に向けての対策として「スーパー中枢港湾政策」を2004年度から開始している。この政策が実施された背景6)として、我が国の港湾競争力低下と東アジアのハブ港湾が台頭してきたことが挙げられる。国土交通省(2010)は、このような政策決定のプロセスを経て「スーパー中枢港湾政策」を実施したが、その政策目的として「コンテナターミナルのサービス水準の向上や港湾コストの低減を通じて基幹航路の寄港頻度を維持し、効率的な物流体系を構築することによって、産業の国際競争力の強化と国民生活の安定を図ること」だと示している。
これを受け、「スーパー中枢港湾選定委員会」が設置された後、1年半の選定期間を経て全国の港湾の中から京浜港(東京港・横浜港)、阪神港(大阪港・神戸港)、伊勢湾(名古屋港・四日市港)を指定港湾とした。2005年には、スーパー中枢に選定された港湾を「指定特定重要港湾」へと法的位置づけを与えるなどの港湾法改正を行った。この政策に対し、国費合計約4,100億円の措置が行われた。その後の総括を国際コンテナ戦略港湾検討委員会が、2010年2月に報告書の中で「当初の目標について、平成22年度を目処に港湾コスト約3割低減、
5)例えば、アジア・欧州間の基幹航路を運営する海運会社が日本に寄港しないことで、①本船運行にかかる日数(リードタイム)を短縮する代わりに、本船往復の回数(頻度)の向上、②輸送時間の短縮、③航行距離の短縮による燃料費の削減などが挙げられる。
6)近藤(2010, p.45)は、「スーパー中枢港湾政策」が実施されるまでの経緯について、「2001年8月に閣議決定された新物流施策大綱では、政府横断的な取組の下、日本経済のグローバル化を支えるサプライチェーンの構築を支援するため、安価で安定的、効率的な輸送拠点として国際コンテナ港湾の機能強化を推進する」とし、次いで「国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会が平成14(2002)年11月にまとめた答申において、「国際コンテナ港湾のコスト、サービス構造を改革するため『スーパー中枢港湾の育成』を提唱された」と述べている。
リードタイム1日程度の短縮とする目標をほぼ達成した。基幹航路寄港回数については、横浜港で横ばい、それ以外の港では微減または減少とし、全国貨物の海外トランジット率の上昇率こそ減速したものの依然増加している」とまとめた。つまり、目標達成できたものの競争力回復までにつながらなかった。
この結果を踏まえ、2009年当時の国土交通大臣(前原誠司氏)は、「国際競争力を高めるためには、さらに集中的に整備する港湾を絞り込む必要がある」という考えを示した。これを受け、2009年12月に「国際コンテナ戦略港湾検討委員会」が設置された後、その選定作業に取り掛かった。4ヶ月の選定期間を経て、2010年8月に全国の港湾の中から京浜港(東京港・横浜港・川崎港)と阪神港(大阪港・神戸港)を国際コンテナ戦略港湾として指定した。その上で、これらの港湾を新しい港湾の種類として「国際戦略港湾」と位置付けるため、2011年3月に港湾法の改正を行った。それに伴い、対象港湾に対する大水深岸壁の整備、効率的な港湾運営等、ハード・ソフト一体となった総合的な施策を実施してきた。さらにコンテナターミナルの一体的運営を実現するための港湾運営会社制度を創設した。
ところが、世界の物流事情は、この間にもコンテナ船の更なる大型化、船会社間の連携が進展したことで、基幹航路の寄港地の絞り込み(再編)など海運・港湾を取り巻く情勢が大きく変化しただけでなく、一層の厳しさを増した。具体的には、日本への基幹航路の寄港状況が、欧州航路に加え北米航路も製造業の輸出を支える東航7)が減少していった(片山, 2016, p.56)。片山は、この状況を放置した場合、直航基幹航路との価格競争も失われるから料金の高騰を招きかねないという。この状況を鑑みた国際コンテナ戦略港湾検討委員会は、2014年1月に「集貨8)」、「創貨9)」、「競争力強化10)」の3本柱からなる「最終とりまとめ」を発表した(国土交通省, 2019a)。それを受け、阪神港(2014年12月)と京浜港(2016年3月)の港湾運営会社に対して国が出資することで、国・港湾管理者・民間の協働体制を構築した(片山, 2016, p.56)。
これらの動きにより、国際コンテナ戦略港湾政策が新たなステージに入ったといえるが、結果は表1に示す通りである。このような結果になった背景として、コンテナ船の更なる大型化と船社アライアンスの再編11)による航路寡占化に伴う、基幹航路の寄港地の絞り込みが大きく影響しているものと考えられる。これらが、複合的に作用したものだと考える方が自然である。2015年時点のアジア・日本・北米間のコンテナ貨物の荷動きを見れば日本・東南アジア・南アジアルートおよび日本・北米ルートの荷動量は、北米・東南アジア・南米ルートと比較しても大差がある(表2参照)。また、片山(2016)の報告によれば、北米・東南アジア・南米ルートの荷動きのうち、直航貨物は約328万TEUで、アジア諸港にトランシップされている貨物が約113万TEUとなっている。さらに、そのトランシップ先の内訳
7)東航とは、港湾用語の一つ。その意味について、北米航路を例に説明すれば、アジアから北米への動きを「東航」と言い、逆に北米からアジアへの動きを「西航」という。
8)戦略港湾への広域からの貨物集約などによる「集貨」を指す。
9)戦略港湾背後への産業集積による「創貨」を指す。
10)大水深コンテナターミナルの機能強化や港湾運営会社に対する国の出資制度の創設などによる「競争力強化」を指す。
11)その再編とは、次の通りである。2015年4月の段階で、船社アライアンスは、4船社(「2Mネットワーク(船腹シェア28%)」、「G6アライアンス(船腹シェア17%)」、「CKYHE(船腹シェア16%)」、「OCEAN THREE(船腹シェア15%)」)あり、それぞれが競合していた。ところが、「2Mネットワーク」を除く3船社が統廃合することで、2016年4月に「OCEAN ALLIANCE(船腹シェア24%)」、同年5月に「ザ・アライアンス(船腹シェア17%)」の2船社が結成され、3大アライアンスに編成された(片山, 2016, p.60)。
方面 | ルート | 荷動量 |
---|---|---|
日本⇔東南アジア・南アジア航路 | 日本→東南アジア・南アジア | 131万TEU |
東南アジア・南アジア→日本 | 141万TEU | |
日本⇔北米航路 | 日本→北米 | 63万TEU |
北米→日本 | 75万TEU | |
北米⇔東南アジア・南アジア航路 | 北米→東南アジア・南アジア | 148万TEU |
東南アジア・南アジア→北米 | 293万TEU |
は、台湾(365,608TEU)、香港(255, 187
TEU)、中国(252,225TEU)、韓国(91,986
TEU)の順に多い。日本は、わずか16,200
TEUであった。
国土交通省(2019b, pp.8-10)は、その後の「基幹航路利用状況」及び「国際フィーダー航路の状況」について、次のように述べている。基幹航路利用状況については、船社による運送効率のためのコンテナ船の大型化、船社間のアライアンス再編が進んだという。この環境変化を前提に北米航路と欧州航路に関し、次のように報告をしている。北米航路は、「三大湾の港湾(京浜港、名古屋港、阪神港)への寄港に関しては、コンテナ船の平均載荷個数が2013年の5,483TEU/隻から2018年の7,432TEU/隻へ約1.4倍に増加した一方で、その寄港便数は各社の供給便数の調整などのため週28便から週22便へと減少した」という。追記として、「直航航路の寄港便数の減少に対して、直航率は緩やかに推移しているから、利用者は直航航路の利用を志向している」とコメントしている。欧州航路については、「三大湾の港湾への寄港に関しては、船舶の平均船型が2013年の8,242TEU/隻から2018年の8,927TEU/隻へ約1.1倍に増加した一方で、寄港便数は週2便から週1便へと減少した」という。追記として、「経路上に位置するシンガポール港など東南アジア諸港での接続サービスを利用する傾向が強まってきている。このため、我が国の欧州方面の貨物量が2013年より約11%増加する中、その直航率は前回より22.9ポイント減の38.8%となった」とコメントしている。
国際フィーダー航路については、「国内諸港(名古屋港、四日市港を除く)を発着する外貿コンテナ貨物のうち、欧州・北米・中南米・アフリカ・大洋州といった長距離方面貨物については、国際フィーダーを利用した貨物量が2013年の6,855TEUから9,732TEUへ増加するとともに、国際フィーダー航路の利用率についても2013年の13.3%から14.4%に拡大した」という。これらの状況から確実に基幹航路の寄港地として日本が外される傾向にあり、国際フィーダー航路が盛んになっている様が表れている。
2.2.2. 韓国の港湾政策
日本の港湾政策と対比する意味で、世界の港湾貨物取扱量の7位(2020年)に位置している隣国韓国・釜山港の発展を見てみると日本の政策実行に対する成果と大きく異なる(表1参照)。1980年当時の釜山港における貨物取扱量は、世界ランキング16位で、13位の横浜港よりも取扱量が少なかった。ところが、20年後の2000年時点で3位まで順位を上げている。この時の日本の港湾は、29位の東京港を先頭に36位の横浜港と全体的に大きく順位を下げてしまった。この結果に対し2020年の釜山港は、2000年時点よりも世界ランキングを7位まで下げたものの厳しい国際競争の中で確実に健闘している。
李(2012, p.88)は、韓国政府の港湾事業に対する取組について、「アジア諸国の港湾は、増加している海上コンテナ貨物を獲得するために港湾施設整備事業計画や港湾管理運営政策の見直しを積極的に推進している」と断ったうえで、「韓国政府は、中国、ロシア、北朝鮮の経済変動に伴い、釜山港を東北アジアの物流中心拠点港を目指し、港湾施設整備政策、民営化政策、ITシステム導入政策、港湾背後地を利用した港湾物流団地に関する計画を推進しつつも、港湾利用者のニーズに的確に対応するために競争力強化の戦略を展開している」と述べている。
韓国政府が港湾事業を推進させる背景として、国家戦略によって計画的に事業展開してきた経緯がある。1992年に韓国の港湾開発に関する国家計画に「全国港湾基本計画」が初めて策定され、港湾開発における最上位計画に位置づけられた。この計画は、港湾法に基づき国土海洋部長官が10年ごとに国家港湾政策の新しい方向と基準を提示する目的としている。そのため、政府の港湾開発及び運営の根拠に、韓国港湾に関する中長期の方向と、韓国国内にある57の港湾別開発計画を含めて活用している(韓, 2011)。田(2021)は、1992年から2020年までの4期にわたる基本計画の変遷についてまとめている。ここでは、田が取りまとめた韓国政府の港湾政策の内容を基に以下説明する。
(1)第1次全国港湾基本計画(1992年-2001年)は、港湾施設不足の解消と将来における海上貨物の急増を想定し、計画最終年度(2001年)までに貨物取扱量を9.2億トン、海上コンテナ貨物量:821万TEU対応可能に想定した。それに伴い、コンテナ埠頭や対北方、対黄海圏に向けての港湾施設拡充を計画した。行政(官)による運営体制を民営体制に転換し、競争による効率性増大を実現しようとした。この計画の成果として、1995年に釜山新港整備に着手した。結果として2001年は、貨物取扱量:13.3億トン、海上コンテナ貨物量:909万TEUだったことから当初計画を上回った。
(2)第2次全国港湾基本計画(2002年-2011年)は、貨物中心の港湾から付加価値を創出する国家的産業の育成を目標に計画している。そこには、朝鮮半島の地理的優位性を活かした需要創出型ハブ港を育成し、港湾運営の自律化、民営化、商業化の一層の推進を掲げている。この時初めて、ウォーターフロントの概念が導入された。この計画では、計画最終年度(2011年)までに貨物取扱量:15.1億トン、海上コンテナ貨物量:2,967万TEU対応可能に想定した。その成果として、港湾公社の設立が2003年に定められ、2004年に釜山公社、2005年に仁川港湾公社が設立されている。2005年時点の貨物取扱量(15.2億トン)は、当初計画よりも早く目標達成した。
韓国政府は、港湾物流環境の急変により第2次全国港湾基本計画を修正(2006年-2011年)している。この修正理由として、北東アジアの港湾間における競争がますます熾烈化されるという予測に対する対応だとしている。そこには、配送施主などによる積み替え貨物の確実性が求められている背景に、港湾政策を量的成長から質的成長へ転換しなければならなかった。ここでいう質的成長の中には、港湾における物流のクラスター化や、それに伴う背後輸送網の拡充などによって、物流そのものの高付加価値化を図り質的成長を実現しようとしたものである。
(3)第3次全国港湾基本計画(2011年-2020年)は、計画最終年度(2020年)までに貿易埠頭に232バース、旅客埠頭に56バース確保し、港湾の処理機能力を50%以上向上させる。その結果として、貨物取扱量:18億トン、海上コンテナ貨物量:3,633万TEU、港湾産業従事者100万人対応可能に想定した。この計画の結果として、2020年の貨物取扱量は51.8億トン、海上コンテナ貨物量が2,910万TEUであったことから当初計画の貨物量は上回っているものの、海上コンテナ貨物量が下回る結果となった。韓国政府は、港湾インフラ拡充計画に対して、41兆ウォン(日本円で約4兆1000億円)を投入し、物流、レジャー、文化が融合する高付加価値化した港湾の実現をビジョンとして描いている。この時の課題は、次の5項目であった。
①釜山港、光陽港、蔚山港の競争力を強化し、海外物流の高付加価値化とハブ港へ発展させたい。韓国政府は、釜山港をコンテナハブ港(積み替えハブ港)として集中的に育成、光陽港をインフラストラクチャー支援する総合物流ハブ港として育成、蔚山港を産業港・オイルハブ港として育成させるといった計画策定をした。中でも、釜山新港は、40のコンテナバースを運営し、中国や日本の港湾との北東アジアハブ競争で優位性を確保させることにより、海上コンテナ積み替え規模を世界上位までに引き上げる狙いがある。
②2011年における韓国の貿易依存度は88%である。そのうち、港が輸出入の99.8%を担っていた。この事実から競争力ある港湾の育成が重要課題として位置付けられた。そこで、国家経済発展の原動力とするため、港湾の背後圏域の産業立地や潜在能力などを考慮して地域圏域別に港湾の特化戦略を採用していく。そのうえで、港湾と周辺地域を経済活性化の拠点として開発を進めると同時に、地域別経済成長の拠点となるべき港湾の特性を推進するため、圏域別拠点育成を行う計画を策定した。具体的には、この圏域別拠点港を特化して育成していき、国家基幹産業ともいうべき製鉄(大山港および蔚山港:製鉄産業支援拠点)、石油化学(光陽港:石油化学産業支援拠点)、自動車(済州港・西帰浦港・仁川港:自動車産業支援拠点)、セメント(平沢港・唐津港・蔚山港・群山港:セメント産業支援拠点)、造船(東海墨湖港・玉階港・三択港:造船産業支援拠点)の発展を支援していく内容である。これらから輸出入の物流量を削減し、国内企業のグローバル競争における優位性を確保していく支援を行う狙いが伝わる。
本節での計画には、本稿に関係する貨物と関連しない項目がある。以下、紹介をしておくと次の3項目が挙げられる12)。③韓国の観光産業の発展と活性化のためにクルーズおよび構内の親水空間、マリーナ設備を拡充し、クルーズ及びマリナーインフラの開発を通じて港湾を海洋観光産業の拠点とする。その実現のため、クルーズ船専用バースの建設などを推進し、活用度が低い施設などの高付加価値化を図る。④港湾運営の効率性の向上とグローバルターミナル運営会社の育成のため、港湾管理者と運営体系の先進化を図り港湾運営会社の大型化、トリガールールの強化などを推進する。⑤発展途上国との国家間協力を通じて、港湾における国際交流の強化と港湾関係企業の海外進出を支援するといった国際港湾産業の国際化を推進していく計画である。
(4)第3次全国港湾基本計画修正(2016年-2020年)は、韓国を取り巻く国内外の環境変化に対応するための計画修正である。初めに、国際力強化13)のための体系的な港湾開発、管理運営の構築である。この修正に至った大きな要因は、韓国の国際競争力が2011年から2013年まで22位を維持していたものの、2014年:26位、2015年:25位と順位を下げ始
12)通し番号は、前述の番号の続き。
13)この政策の判断材料としているのが、世界の主要60か国と地域を対象に「企業にとってビジネスしやすい環境がどれほど整っているか」を基準に順位付けしたIMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が作成する「世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)」である。このランキングは、貿易に特化した調査ではない。しかし、競争力を判断する要素としての港湾の位置づけは大きい。本ランキングにおける日本の競争力は、1989年から1992年まで1位であった。その後、2002年に27位まで順位を落とした。以後、順位を上昇させた時もあったが、2022年は34位である。
めた点に起因する。2016年は、さらに順位を4つも下げ、29位となった。一方の港湾貨物取扱量は、世界ランキングから見ても2000年:14位、2005年:9位、2015年:9位、2020年:8位、2021年:7位と持続的に成長しているが、前述の国際力との間に乖離が見られる。それだけ、国内外の貿易に対する環境変化が激しいものと推察できる。
特にハブ港湾間の競争は激化の一途を辿っており、国際物流条件も大きく変化している。その変化に対応した国際競争力の確保が必修の課題となってきた。韓国の港湾では、輸出入貨物の99.8%が処理しているという。港湾に関係する企業にとって、より一層の成果を上げるためにも物流費削減をはじめとする経費の効率化を図る必要があった。この実現には、港湾そのものの高度化と効率性向上が求められる。その一例として、韓国の主要8港湾(釜山港、仁川港、光陽港、平沢・唐津港、蔚山港、浦項港、木浦港、馬山港)に背後団地を造成するという。また、経済発展のために、年々増加傾向にある韓国から見たインバウンド観光客の取り込みも重視しており、国際クルーズなどの海洋観光の推進も課題としている。
この計画修正に対する具体的な施策として、韓国海洋水産部は、2020年11月18日に「港湾政策の方向性と推進戦略」を発表した。日本海事新聞(2020)の記事によれば、この発表内容は2030年までの韓国港湾の中長期ビジョンと開発計画を盛り込んだものである。具体的には、2022年に釜山第2新港「鎮海新港」を着工するという(釜山新港の西側)。そこには、第3次全国港湾基本計画で示したコンテナハブ港(積み替えハブ港)として集中的に育成するという観点からグローバルサプライチェーンの変化に対応できる安定した港湾物流ネットワークを構築していく狙いがある。さらには、北東アジアの物流の中心地としての地位を強固なものにするため、現在存在しない3万TEU規模の超大型船も受入可能な大型港湾として整備するという。その背景として、2017年以降、2万TEU積を超える船舶が建造・投入されている(ムーバーズドットコム, 2022および図5参照)。この傾向は、今後の造船技術の向上に伴い、基幹航路を就航するコンテナ船がより一層大型化していくことを示唆している。また、同戦略は「グローバルな競争力を備えた高付加価値デジタル港湾の実現」というビジョンの下、3つの戦略(①港湾物流のデジタル化、②継続的なインフラ投入を通じた港湾の国際競争力強化、③持続可能性の向上)を推進するという。韓国政府は、2030年の数値目標として、貨物取扱量19億6000万トン、付加価値創造に28兆ウォン(約2兆8000億円)を投じるとしている。さらに、同年から韓国型スマート港湾運営を行うプラットフォームとしての自動テストベッド(実証実験を行うプラットフォーム)を構築する。
この運営を目指すため、2026年までに光陽港に5,950億ウォン(約595億円)を投じて実証実験化に関する国産技術を開発し、実用実績を積む計画である。その結果を検証したうえで、釜山第2新港に国産の自動化技術を導入するという。釜山港以外の港湾開発計画としては、仁川エリアを対中国貿易のための物流拠点として育成し、中国との安定した物流網を構築する狙いがあるがゆえに、消費中心の首都圏専用ハブ港として仁川港を育成する計画である。そのため、コンテナ埠頭バースに3バースを追加するという。次いで、平澤・唐津港が自動車・雑貨など首都圏の産業支援港湾として、木浦港が西南圏地域産業拠点港湾として、済州港が旅客・クルーズ港として、蔚山港がエネルギー基地として、それぞれ育成していく計画だという。蔚山港については、石油、LNG(液化天然ガス)などのエネルギー埠頭18 バースと背後団地を拡充していく計画にある。
13)図5:コンテナ船の大型化の推移と必要水深 出典:筆者作成
3. 世界の物流の動きと日韓の港湾に関する考察
前述してきた内容から日本のコンテナ港湾は、時代の変化に伴い、コンテナ港湾の「競争力」が衰えていく状況が露呈された。しかし、日本が努力を怠った結果ではない。アジアの周辺諸国を中心とした急速な港湾整備と基幹航路獲得の実態が浮き彫りになった。IMD(国際経営開発研究所)が行う「世界競争力年鑑」では、国家間の競争力を比べるうえの指標として、物流量を評価材料の一つにしている。この時、使用される物流量の単位は航空輸送の場合、重量(キログラム、トン)を使用する。一方の船舶輸送時の貨物量を計測する対象は、石炭、石油、鉄鉱石、穀物、乗用車などを除くと海上コンテナで輸送している。そのため重量でなく、港湾でのコンテナ取扱量(TEU)を世界競争力の評価軸にしている。
津守(2011, p.243)は、「コンテナ港湾の『競争力』を議論する際に最も挙げられる指標はコンテナ貨物の取扱量(取扱個数)である」と述べたうえで、「コンテナ貨物の取り扱い個数と言った場合、空のコンテナも含まれる」、「トランシップ貨物の場合は、ダブル・カウントされている。このように集めている貨物量という意味では、コンテナ貨物の取扱個数は正確な指標とは言えない」と、TEUによる競争力評価基準への疑問14)を呈している。
3.1. 世界の競争力を評価する海上コンテナ貨物のTEUへの疑問
前述した競争力評価を確認するため、TEUと重量で順位比較を行った(表3参照)。この比較結果から日本の場合、産業特性から海上コンテナ貨物による輸送ができない石炭・石油・鉄鉱石・穀物などの輸入、乗用車などの輸出が多いため必然的に世界競争力評価に寄与できないといった疑問が生じる。このような点からも、海上コンテナ貨物の取扱量(TEU)を世界の競争力の評価軸に据えることへの意義に疑問が生じる。しかし、IMDが海上コンテナ貨物取扱量を評価基準に挙げる理由は様々ある。その大きな要因として世界全体を対象に評価する場合、共通した項目がなければ順位が付けられない。それが、海上コンテナ貨物
14)この疑問は、コンテナ貨物取扱量に関連して、コンテナターミナルの稼働率、欧米基幹航路をはじめとする主要航路の便数も取り挙げられるケースもあるという(津守, 2011, p.243)。
表3:世界の港湾別ランキングTEUと重量比較(上段がTEU順位、下段が重量順位)
年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | 8位 | 9位 | 10位 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2000年 | 香港 | シンガポール | 釜山 | 高雄 | ロッテルダム | 上海 | ロサンゼルス | ロングビーチ | ハンブルク | アントワープ |
シンガポール | ロッテルダム | サウスルイジアナ | 上海 | 香港 | 千葉 | ヒューストン | 名古屋 | 蔚山 | 光陽 | |
2015年 | 上海 | シンガポール | 深圳 | 寧波 | 香港 | 釜山 | 広州 | 青島 | ドバイ | ロサンゼルス |
上海 | シンガポール | 青島 | 広州 | ロッテルダム | ポートヘッドランド | 寧波舟山 | 天津 | 釜山 | 大連 | |
2020年 | 上海 | シンガポール | 寧波舟山 | 深圳 | 広州 | 青島 | 釜山 | 天津 | 香港 | ロッテルダム |
寧波舟山 | 上海 | 広州 | 青島 | シンガポール | ポートヘッドランド | ロッテルダム | 釜山 | 天津 | 大連 |
出典:国土交通省ホームページ(世界の港湾取扱貨物量ランキング2000年及び2015年、2005年及び2020年、)より筆者作成
だったに過ぎない。次にビジネスの視点から物流を捉えれば、違った見え方ができる。つまり、一般の人々にとっての物流という観点から荷物(貨物)を見てみれば大きさと重量による輸送費換算が当たり前である。ところが、運輸業界の輸送費換算は、重量換算でなく、基本20ftコンテナ1個当たりに対する輸送費換算をしている。そこには、港湾施設内での荷物の仕分け作業の効率化を優先的に考えた結果であり、業務上の請求作業のわかりやすさ、透明性の観点から当然の仕組みである。この現場視点で考えれば、今後もTEU換算が基本になると考えるのが自然である。
このような性質を持つ海上コンテナ貨物であるが、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)問題が発生した前後で状況が異なっている。この変化について、時系列的に状況を追ってみると次のようになる。世界の物流は、2018年に始まった米中貿易摩擦の影響により荷動きが低下した。その影響は、回復する間もなく2019年12月にコロナが発症した。2020年は、世界的パンデミックにより入港制限や船員不足から輸送能力が著しく低下したことで、物価が上昇した(日本経済新聞, 2020)。この影響は、翌2021年に世界的なコンテナ不足15)による物流網の混乱という形で現れ(NHK, 2021, 「コンテナ不足 世界の物流混乱 国連“世界経済の回復に影響も”」、NHK NEWS WEB 2021年11月23日)、2022年以降も継続した。2023年、コロナの終息により物流が活況になると思われていたが、それまでコンテナ不足だった状況が一転し、空きコンテナが中国各地の大型コンテナ港に山積される状況が出始めた。李・楊・包(2023)によれば、2022年10月以降、荷詰めされたコンテナよりも海外から出戻ってくる空きコンテナの方が多くなり、中国の主要コンテナ港において、空きコンテナの置き場不足が生じている。この件に関し、大手フォワダーの担当者は、記者の取材に「なかには、余っているコンテナ船に空きコンテナを満載し、沖合に係留しているケースもある」と答えている。この点に関しても、津守が指摘している通りで、世界競争力の評価基準に疑問を感じる。
この空きコンテナが過剰になる背景として、コンテナの作りすぎに加え、ロシアのウクライナ侵攻によるインフレが影響し、中国から欧米に向うコンテナ輸送需要が落ち込んだものと分析している(李・楊・包, 2023)。この空きコンテナ問題は、今後も顕著になっていくものと考える。特に世界の港湾別ランキング1位の上海港が、コンテナ取扱能力の限界に近づくため、2022年に新たな港湾整備事業16)が開始された。その状況に対し、世界ランキング2位のシンガポール港も、同年に新たな港湾整備を進めている。このように世界の競争力
15)コンテナ不足の根本的原因は、コロナによる港湾作業員の不足によって、コンテナ貨物が港湾に滞留してしまったことによるものである。本来、貨物の入ったコンテナは、通常輸入地に到着後14日以内にコンテナ内を空にして、発送元に返却する仕組みになっている。
を誇示するためにどの国も計画的に事業展開を進めている。そのため、今後より一層の競争が激化していくものと考えられる。
その一方で、問題視しなければならないことは、港そのものが貨物を生み出す機能を持っているわけでないという点である。貨物は、多種多様な産業から生産され、それを相手に出荷していく流れの集合体として現れたものである。つまり、各港で取り扱う貨物が、どのような種類のもので、それがどの程度なのか、それら貨物の特性が、当該港が保有する物流機能において対応可能であるかどうかが問題点かつ重要となる。つまり、港の集荷力を検討する場合、単に港が持つ物流機能のみを対象とすればよいと言えない(津守, 2011, p.243)。逆に港が持つ物流機能以上に、港の後背地の産業集積の状況がその港の集荷力を大きく担っているかを明確に認識しておく必要がある。
深澤・川原・岡(2021, p.54)は、「1980年以降の日本では、日系企業の海外進出が進み、生産拠点が中国やASEAN地域へ徐々にシフトしたことで、日本の港湾に貨物が自然に集まらなくなったことが大きい」という。かつての日本は「ものづくり日本」といわれた時期に「貿易大国」などと世界から称されていた。一方、今の中国が、「世界の工場」といわれると同時に世界の港湾取扱量ランキングの上位に自国の港湾名が連なっていることからもわかるように「ものづくり」と「貿易」には関連性が強い。だからこそ当然の結果であり、韓国の第3次全国港湾基本計画の中で港湾背後地開発だけでなく、韓国国内の主要港湾と地域産業を組み合わせ、個々の競争力を向上させながら、国家全体としての競争力を底上げするといった戦略的計画の表れでもある。
このような国際競争に対する日本政府の対応としては、スーパー中枢港湾プロジェクト、国際戦略港湾政策を通じて、「港湾経営の民営化」を政策の目玉とした港湾法改正の動きを行っている。具体的には、2009年に国際コンテナ戦略港湾政策に基づいて、阪神港・京浜港を選定した。それに伴い、とん税優遇・物流団地整備といった施策のもとに港湾の競争力を図ってきた。深澤・川原・岡(2021, p.55)は、「基幹航路船の京浜港寄港数増加など、一時的な結果は表れているものの、定期寄港は、実現しておらず、現時点では施策の効果が十分に表れているとは言い難い」と指摘している。
3.2. 日本の港湾に基幹航路船が寄港しない理由
上述してきたように世界の産業構造が根本的に変化し、世界の港湾整備がより激化してくれば、今現在大幅な遅れをとる日本の港湾に対し、小手先だけの対応でこの状況が劇的に改善するなど考えられない。日本への基幹航路船の寄港数が減少している状況を鑑みれば、日本の港湾整備に対する課題だけでなく、船社側にも寄港しない理由があるはずである。これに対する理由として、日本の港湾の水深の浅さが大きな要因として挙げられる。具体的事象として、世界最大級のコンテナ船(24,000TEUクラス)が2023年6月に日本(広島県呉市)で建造された17)。
ところが、日本国内で、当該船舶(全長399.95m、積載能力24,136TEU、必要喫水18.15m)
16)世界第2位のシンガポール港は、2022年9月1日に新コンテナ埠頭「トゥアス港」の4期計画のうち最初の1期目3バースが稼働した。世界第1位の上海港は、新埠頭建設をしなければ、シンガポール港に1位の地位を明け渡さなければならない。そこには、近いうちにコンテナ取扱能力の限界に到達するといった理由からである。これを見越して、上海港を運営する上海国際港務集団は、2022年6月にコンテナ取扱が中心となる洋山深水港に550億元(約1兆1059億円)を投じて新たなコンテナ埠頭と関連施設を建設すると発表した(李・楊・包, 2023)。
を受け入れる港が水深の関係から存在しないため、主として中国の寧波・廈門、シンガポール、ロッテルダムやハンブルグ、アントワープを結ぶ航路でアジアとヨーロッパを往復して貨物輸送をするという(深水, 2023)。水深については、大坂(2020)が指摘するように世界最大級のコンテナ船を受け入れるために水深18m以上が必要である。日本国内で水深18mを保有する港は横浜港のみで18)、18m以上の水深を保有する港が日本にない。世界各国の主要港が大型船対応に向けた港湾整備に動く中、日本の港湾整備の対応が遅れていると言わざるを得ない。
港を利用する船社側の立場から考えれば、往復航路において運搬船の荷積みスペースを空状態で運航するよりも、収益面から貨物を満載して運航したいと考えるのが自然である。現状は、上述してきたように地方からの貨物を主要港湾に集約できない日本の港湾の実情から輸出される貨物量(製品)、輸入量が共に少なく、地方港湾が独自に韓国・釜山とのフィーダー運航をし始めた経緯がある。この状況で船社は、日本に寄港したいと思わない。それよりも、釜山港等の近隣コンテナハブ港に貨物をトランシップさせ、それを目的地へ輸送した方が経費的に得策だと船社が考えても不思議ではない。結果として、日本がアジアのトランシップ港の地位にない。さらには、図5で示しているように船体を大型化することで1回当たりの輸送量を増加させ、船舶輸送回数を減少させていく傾向も見て取れるため、船社が大型船を建造している。それに伴い、大型船が寄港可能な上海港、シンガポール港や釜山港等を中心とする東北アジア周辺の港湾におけるコンテナ取扱量の比率が上昇しているものといえる。一旦、貨物の流れが構築されてしまえば、容易に変更などできない。
3.3. 日本と韓国の港湾政策に対する取り組み姿勢の違い
日本の現状は、港湾政策の立て直しに向け、一点集中型の政策展開をしている一方で地方港湾に対する政策が見えてこない。そこには、中央政府から地方への権限移譲が続いているが、公共施設への投資が進んでいない状況もある。さらに、荷主の国内輸送時間重視の考え19)から、国際コンテナ戦略港湾などの拠点港に荷物の集約が難しくなってきている。国は、この点に関する背後地や道路網などの整備に関する付帯政策を打ってこなかったことなどが複合的に作用し、結果として現状を生み出しているものと考えられる。現実問題として、日本の港湾が他国からの基幹航路の寄港地になっていないため、近隣のコンテナハブ港から貨物をフィーダーしている率が高くなっている。これは、前述したことを考えれば当然のことであり、産業衰退の連鎖現象として捉えなければならない。つまり、貨物輸送のリードタイムが長期化してしまい、競争力が低下してしまうリスクが生じてしまう(深澤・川原・ 岡, 2021, p.55)。これは、日本の製造業などで顕著に表れる事象である。このような日本の状況に反して、韓国は飛躍的に貨物の取扱量を増やしている(表1および図3 参照)。表2から釜山港の貨物取扱量が2009年より上昇し、日本の貨物取扱量よりも著しく増加している。つまり、コンテナハブ港として成長している釜山港に基幹航路船が寄港する数が確実に伸び
17)2023年6月2日に広島県呉市にあるジャパンマリンユナイテッド(JMU)呉事業所で世界最大級のコンテナ船「ONE INNOVATION」が竣工した(深水、2023)。この時点で、世界一のコンテナ船である。船体の大きさは、24,000TEUクラスで、船長399.95mである。
18)スーパー中枢港湾に指定された港の水深は、京築港:東京港16m・川崎港14m・横浜港16-18m、阪神港:神戸港16m・大阪港16m、伊勢湾:名古屋港16m・四日市港12mである。
19)木俣・竹林 (2019, p.40)
ている結果であり、日本の世界ランキングを著しく下げる要因にもなっている(表4参照)。
この時の社会情勢として、2009年にリーマンショックが発生し、その翌年に世界同時不況が起こっている。これらの出来事を契機に釜山港での貨物取扱量が上昇している。その背景として、荷主が輸送サービス(輸送費用・輸送時間・輸送品質)に求めていることから船社が寄港地を選別したものと推察できる(木俣・竹林, 2019, p.40, p.45)。
釜山港が、この時代の流れにタイミングよく乗れたのも1990年代から国策によりコンテナバースの拡充や整備、港湾の入港コスト優遇、港湾周辺地の開発による外国企業誘致を実施、コンテナ船の呼び込みを図ってきた成果が数字として表れたからに他ならない。このように韓国が、国際競争力を継続的に維持し、世界的地位を確立していったのも、計画実施期間の途中であっても、臨機応変に適宜計画変更(第3次全国港湾基本計画修正)をしてきたからである。また、韓国では、外貿だけに頼らず、国内生産力を高めるための努力として、物流費削減をはじめとする経費の効率化を図っている。具体的には、港湾そのものの高度化と効率性向上として、韓国の主要8港(釜山港、仁川港、光陽港、平沢・唐津港、蔚山港、浦項港、木浦港、馬山港)に背後団地を造成する計画を進めている。
このような政策は、日本が行う「拠点重視の政策」実施と内容的に大きく異なる。つまり、韓国は産業発展状況に伴い、港湾を中心にそれに付随する政策実施を行っている。日本には、日本ならではのよさがある。世界がグローバル化した社会になりつつある現状を鑑みれば、従来型のような対応の仕方では時代のニーズに対応しきれていない時期に差し掛かっているといえる。
4. まとめ
IMD(国際経営開発研究所)が行う「世界競争力年鑑」によれば、世界における日本の競争力が、年々衰退しているという。その評価軸に海上コンテナ貨物の取扱量(TEU)を評価軸に据えているため、議論の対象が海上コンテナ貨物の取扱量(TEU)になってしまう。そのような海上コンテナ貨物の取扱は、船舶の大型化、海上コンテナ貨物の輸送技術の高度化
表4:世界の港湾別ランキング(釜山港+日本のみTEU換算)
年 | 順位 | 国内1位 | 国内2位 | 国内3位 | 国内4位 | 国内5位 | 国内6位 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1980年 |
16位: 釜山港 |
4位: 神戸港 |
13位: 横浜港 |
18位: 東京港 |
39位: 大阪港 |
46位: 名古屋港 |
92位: 北九州港 |
2000年 |
3位: 釜山港 |
8位: 名古屋港 |
15位: 横浜港 |
22位: 大阪港 |
24位: 北九州港 |
28位: 神戸港 |
29位: 東京港 |
2005年 |
5位: 釜山港 |
11位: 名古屋港 |
17位: 千葉港 |
22位: 横浜港 |
29位: 北九州港 |
31位: 大阪港 |
34位: 東京港 |
2010年 |
5位: 釜山港 |
25位: 東京港 |
36位: 横浜港 |
47位: 名古屋港 |
49位: 神戸港 |
||
2015年 |
6位: 釜山港 |
19位: 名古屋港 |
24位: 千葉港 |
34位: 横浜港 |
40位: 北九州港 |
42位: 神戸港 |
45位: 東京港 |
2020年 |
7位: 釜山港 |
24位: 名古屋港 |
32位: 千葉港 |
47位: 横浜港 |
49位: 北九州港 |
||
2021年 |
7位: 釜山港 |
23位: 京浜港 |
41位: 東京港 |
72位: 横浜港 |
73位: 神戸港 |
77位: 名古屋港 |
82位: 大阪港 |
出典:国土交通省ホームページ(世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング)より筆者作成
などの理由から世界の港湾整備を大きく発展させている。かつて「貿易大国」などと称されていた日本は、今や世界の港湾別ランキングにおいて、上位クラスに入らない。このような状況に陥ったのは、日本の港湾政策が努力を怠っていたわけではない。港湾政策に対する日本政府の対応は、日本が国際競争に打ち勝つために一点集中型(スーパー中枢港湾プロジェクトや国際戦略港湾政策)の政策を行ったが、世界の動き、船舶の大型化などの諸条件とマッチングせず、結果として日本の港湾に世界最大級の海上コンテナ貨物船が寄港できない状況のままである。
近年の日本は、中央政府から地方に権限を委譲されているが、公共施設への投資が進んでいない状況がある。そこには、財政的に地方行政機関が単独で動くことが難しく、中途半端な立ち振る舞いしかできない状況が透けて見える。荷主側から、この状況を見てみれば、近年の国内輸送時間短縮の動きから主要港湾への輸送ができない現実がある。その回避方策が、地方港湾からコンテナハブ港の役割を担う釜山港へ直接フィーダーすることである。この現実を捉えるならば、世界の船舶貨物の現状(基幹航路の寄港地に日本が外されている)、釜山港などアジア周辺のコンテナハブ港との関係(フィーダー化してしまった現状)、コンテナ貨物を生み出せない状況(地方産業発展と連動した取組と港湾背後地の開発が進まない現状)といった難しい現実がある。
韓国の政策は、地方産業発展と国全体の動きに連動させた政策策定をしている。日本の政策は、集中開発型の拠点港活況政策をとってきたが、国内輸送時間短縮につながる政策を抱き合わせに行わなかったことから形・数字として成果が出てきていない。つまり、世界の動きを見据えて重要拠点港の拡充を行い、地方の特徴ある産業を活かす政策をとった韓国と、地方の産業、国内輸送時間短縮のことまで考慮せずに拠点重視の政策をとった日本の動き方の違いが結果として顕著に現れたに他ならない。今や日本の港は、水深が浅いため船舶の大型化していく状況にあるため基幹航路船の誘致が難しい。日本と他国との輸送状況を鑑みれば、フィーダー輸送を充実させる傾向にある。そこには、国内輸送時間短縮から国際航路の基幹港までの輸送を拒む荷主の存在もある。これらの状況から、地方の港を活況させていくことが当面の課題だと判断される。
本稿では、世界の物流状況から日本と韓国の関係、日本の現状について述べたが、地方港湾の状況にまで触れることができなかった。地方がフィーダー輸送を促進させている状況からわかるように地方行政だけでなく、地元産業界を含め誰もが必死に知恵を絞っている様が見て取れる。このような観点からも、地方港湾に関して今後さらなる検討が必要である。
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