2021 年 33 巻 3 号 p. 153-162
本論では、災害観光地を訪れるムスリムの観光のまなざしについて論じる。特に、災難と神の英知というイスラ ームの教えに基づいた考え方に注目し、2004 年インド洋津波被災地アチェ(インドネシア)で行われている津波観光において、何を災害の中に隠された英知として、観光者が見出すのかということを明らかにする。観光のまなざしは文化的に構築されるもので、観光者の日常の中で形成されているものの、災難の中の英知という考え方に根差した観光のまなざしは、観光地での経験とのディスクールを通して形成、再形成される。ムスリム観光者は、平和や経済発展、ムスリムとしての気づきといったものを、神の英知の現れとして観光地に見出す。