生活大学研究
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フィロンと終末論
大貫 隆
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2020 年 5 巻 1 号 p. 1-21

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抄録

初期ユダヤ教黙示思想に認められる終末論は宇宙史の終末論,魂の上昇の終末論,民族史の終末論の三つに下位区分される.しかし,アレクサンドリアのユダヤ人思想家フィロンにおいては,中期プラトン主義の影響を受けて,宇宙は神の最良の制作物とみなされる.そのため,宇宙の終わりについての終末論は成立しない.善人にも降りかかる自然災害の問題性は意識されているが,神の摂理の付属現象として説明されて終わる.―人間の魂には神的ロゴスと同じ叡智(理性)が宿っている.しかし,身体を通して働く感覚の惑わしの下にある.それを徳の涵養によって克服して,天に向かって上昇し,神を見ることに努めなければならない.ところが,その上昇は神の本質(ウーシア)を知る一歩手前,神の存在の事実(ヒュパルクシス)を知ることで終わる.フィロンはそれを超える途としての脱魂体験を示唆するが,それも究極的には理性の枠内にあり,同じ限界を超えるものではない.生涯にわたる徳の涵養と理性主義という点で,初期ユダヤ教黙示思想の中の魂の上昇の終末論とは明瞭に異なる.―フィロンは同時代のユダヤ教を席巻した政治主義的メシア運動を承知していたと思われるが明言は避けている.彼がその代りに説いたのは,徳の涵養を遂げた人 間から成る宇宙国家論であった.

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