2010 年 21 巻 3 号 p. 131-136
近年胃管潰瘍は,食道癌術後合併症のひとつとして認識されてきている。胃管潰瘍の穿孔は致命的であり,消化器以外の症状にも注意しなければならない。症例は72歳の男性で,過去に食道癌に対し食道亜全摘と後縦隔再建を行っていた。入院6か月前より胃管潰瘍を認め,保存的加療するも悪化していた。入院当初は肺炎として加療していたが,画像上で心嚢水が貯留,発熱と炎症反応高値が続き,精査中に突然のショックとなり,ICUに入室となった。入室後は抗菌薬,昇圧薬と輸血で一時ショックから離脱できたが,最終的に出血性ショックで永眠された。病理解剖で胃管潰瘍からの右心房穿孔が判明した。今回の症例を通して,食道癌術後合併症として,胃管潰瘍が重篤な状態を惹起することを十分認識し,潰瘍側が心嚢に接している場合や保存的加療に抵抗性のときは,心タンポナーデや心房穿孔に対する診断,治療の時機を失しないことが肝要である。