2010 年 21 巻 3 号 p. 137-142
症例は67歳,女性。鬱病で入院中,呼吸困難のため他院に搬送され,肺炎に対して気管挿管,人工呼吸管理が行われ,第13病日に抜管,呼吸状態は安定していた。第18病日に元の病院へ帰院,軽度の嗄声を認めた。帰院後10日目に他病院外来を受診し,軽症の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された。18日目から安静時呼吸困難が出現し,吸気時および呼気時の狭窄音を聴取し喘息と診断された。23日目には喘鳴,奇異呼吸,胸郭の陥凹を認め,別病院で上気道狭窄または閉塞が疑われた。同日,努力性陥没呼吸が出現,心肺停止となり,当センターへ救急搬送された。その後,自己心拍は再開したが,気管挿管チューブが18cmより進まず,CTで甲状腺下端レベルから約2.5cmにわたり気管壁が全周性に肥厚した気管狭窄を認めた。気管切開し,呼吸管理を開始したが,翌日,血圧が低下し死亡した。病理組織検査では肥厚部分は肉芽組織であり,肺炎治療時の挿管に起因すると考えられた。挿管歴のある呼吸困難症例では,挿管後気管狭窄を念頭に置き診断・治療を進める必要がある。