日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
症例報告
膵頭十二指腸切除術後の巨大な感染性肝嚢胞による敗血症性ショックの1例
大塚 恭寛米田 宏
著者情報
ジャーナル フリー

2011 年 22 巻 12 号 p. 890-896

詳細
抄録

症例は5か月前に進行胃癌に対して膵頭十二指腸切除術を施行された74歳の男性で,10日前からの食思不振と全身倦怠感のため当科に入院した。腹部造影CT上,70歳時より肝右葉に認めていた嚢胞が最大径18cmに増大していたが,全身性炎症反応症候群の診断基準を満たさなかったため,3日後に待機的嚢胞ドレナージ術の予定とした。手術予定日前夜,突然の悪寒・戦慄を伴う発熱,意識レベル低下,努力呼吸が出現し,感染性肝嚢胞による重症敗血症・播種性血管内凝固症(disseminated intravascular coagulation: DIC)・急性呼吸不全と診断した。重症度評価では,SOFA score 12,APACHE II score 32,急性期DIC score 8点,予測在院致死率78%であった。直ちに気管挿管下の機械的人工呼吸管理とSurviving Sepsis Campaign guidelinesに準拠したearly goal-directed therapyを開始し,血液培養検体採取後にメロペネムを投与した。発症2時間後にbed sideにて緊急経皮経肝嚢胞穿刺ドレナージ術を施行したところ,膿性内容液4,200mlが吸引された。輸液蘇生,カテコラミン投与,抗凝固療法,シベレスタットナトリウム投与,エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)を含む集中治療を施行したが,発症15時間後に敗血症性ショックのため死亡した。後日,血液と肝嚢胞内容液の両者からKlebsiella oxytocaが検出された。本例を救命し得なかった要因として,初期診断・治療の不適切さが挙げられ,肝嚢胞の増大を感染兆候として的確に認識して重症敗血症への移行を予見し,入院後直ちに抗生剤投与と緊急嚢胞ドレナージ術を施行することにより,救命し得た可能性があるものと考えられた。

著者関連情報
© 2011 日本救急医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top