日本救急医学会雑誌
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症例報告
水中毒の治療中にTorsade de Pointes型心室頻拍を生じた統合失調症の1例
多村 知剛城下 晃子山元 良鯨井 大岩野 雄一田島 康介堀 進悟
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2013 年 24 巻 3 号 p. 173-178

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抄録
Torsade de Pointes(以下TdP)はしばしば心室細動などの致死的不整脈へ移行するため,治療にあたっては,その病態生理を十分理解することが重要である。我々は,水中毒の治療中にTdP型心室頻拍を生じた症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。患者は46 歳の女性。統合失調症で抗精神病薬(フェノチアジン誘導体およびブチロフェノン誘導体)を内服していた。意識障害のため救急搬送された。来院時,GCS E1V2M4の意識障害を認め,血清ナトリウム値は101.5mEq/lであった。水中毒による低ナトリウム血症と診断し,高張食塩水で治療を開始した。来院時,腹部膨隆著明で膀胱留置カテーテル挿入時に3L以上の希釈尿が流出し,外来診療中の4時間に合計9,800mlの希釈尿を認めた。来院2時間後の12誘導心電図では著明なU波を認め,QTc時間は620msecと延長していた。その後,心室性期外収縮の頻発からTdPを生じ心室細動へ移行した。心肺蘇生を施行し,マグネシウム静注と電気的除細動により約2分後に洞調律に復帰した。低カリウム血症,低カルシウム血症は来院時より増悪していた。電解質を補正し,第3病日に血清ナトリウムは129mEq/lまで改善した。血清カリウム,カルシウム,マグネシウムもほぼ正常化して意識清明となり,第4病日にはQT時間も360msecと正常化した。抗精神病薬をブロナンセリンに変更し,第22病日に軽快退院した。本症例では抗精神病薬による薬剤性QT延長が背景にあり,利尿に伴う尿中電解質喪失による電解質異常が加わったため,QT時間のさらなる延長と心筋の被刺激性が亢進しTdPを生じたと推測された。水中毒の治療中にTdPを生じた報告は稀であるが,TdPは水中毒治療時に救急医が留意すべき臨床上重要な合併症と考えられた。
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© 2013 日本救急医学会
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