日本救急医学会雑誌
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症例報告
有効血中濃度未満のパルプロ酸投与中に高アンモニア血症を来した頭部外傷の1例
松岡 義並木 淳岩野 雄一渋沢 崇行堀 進悟
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2014 年 25 巻 1 号 p. 23-28

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抄録
頭部外傷後の抗てんかん薬の内服維持にバルプロ酸ナトリウム(以下VPA)が広く使用されている。VPAの副作用のひとつに高アンモニア血症が知られているが,VPA血中濃度が有効濃度未満でありながら,高アンモニア血症を引き起こし,投与中止により改善した症例を経験したので報告する。症例は18歳の男性。乗用車荷台から振り落とされ受傷した。頭部CTで右側頭葉外傷性脳内血腫,右側頭・前頭葉脳挫傷,左急性硬膜外血腫を認めたが,血腫によるmass effectは小さく開頭・血腫除去術の適応外と判断し,バルビツレート療法,脳平温療法などの集学的治療を行った。抗てんかん薬の予防投与としてホスフェニトインを1週間点滴投与後,VPA(1,200mg/日)の経管投与を開始した。投与開始4日後のVPA血中濃度,血漿アンモニア値はそれぞれ,27μg/ml,67μmol/lであった。開始16日後はそれぞれ,52μg/ml,165μmol/lであり,この時点でVPAの投与を中止した。投与中止2日後,VPA血中濃度は6μg/mlに低下し,血漿アンモニアは28μmol/lと正常化,その後血漿アンモニア値の上昇は認めなかった。なお経過中に高アンモニア血症に伴う明らかな臨床症状の出現はみられなかった。本症例では,VPA血中濃度の上昇に伴い血漿アンモニア値も上昇し,VPA内服中止後に血中濃度が低下すると同時に高アンモニア血症も速やかに改善した。VPA投与開始後の薬物治療モニタリングでは,症状の発現やVPA血中濃度に関係なく,血漿アンモニア値のモニタリングを行う必要がある。
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© 2014 日本救急医学会
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