日本救急医学会雑誌
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症例報告
長時間陸路搬送された椎骨動脈損傷を伴う頸部穿通創の1例
小寺 厚志入江 弘基安藤 卓岩下 晋輔谷口 純一笠岡 俊志木下 順弘
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2014 年 25 巻 2 号 p. 50-56

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抄録
76歳の男性。5月某日の16時に岩場で足を滑らせ,持っていた雁爪が頸部に穿通し,動けなくなっているところを通行人が発見し救急要請となった。事故直後,左頸部から左耳介部にかけて4本の爪が穿通しており,現場で救急隊により爪が切離され近くの地域中核病院へ搬送されたが,搬送途中に左耳介部に浅く穿通していた1本の爪が自然脱落した。近医到着時の意識は清明で,呼吸循環動態も安定していた。頸部の単純および造影CT検査で,1本の爪による左椎骨動脈損傷が疑われた。その損傷部位に対する外科的治療が困難と考えられたため,血管内治療目的に当院へ転院の方針となったが,すでに日没後であったため空路搬送を断念し,陸路搬送となった。当院までの距離は約80kmで,搬送に2時間25分を要し,21時20分に当院に到着した。 搬送後の呼吸循環動態も安定しており,全身麻酔下の左椎骨動脈塞栓術と頸部異物摘出術を施行し,良好な経過を得た。長時間搬送中の頸部安静のため,同乗医師らが交代で用手的に頭部を保持したため新たな副損傷は起こらなかったが,搬送に伴う傷病者へのリスクや医療者への負担は大きかった。頸部穿通創であれば,呼吸循環動態が安定していても,血管損傷の合併を念頭に置き,その搬送に留意する必要がある。さらに手術療法が困難な部位における椎骨動脈損傷に対しては血管内治療が有用であるが,施行可能な施設は限られており,転院搬送が必要となる。このため椎骨動脈損傷が疑われて血管内治療目的に長距離搬送が必要な症例では,空路搬送を念頭に置き,転院搬送前の検査を創部の状況を把握しうる最小限に簡略化して,空路搬送のタイミングを逸さないことが重要と考えられた。また空路搬送が不可能であれば,長時間搬送に備えて,傷病者や医療者へのリスクを軽減できる処置を搬送前に十分に考慮すべきと考えられた。
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© 2014 日本救急医学会
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