日本救急医学会雑誌
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症例報告
椎体骨折を伴わない多発腰椎横突起骨折による腰動脈出血の1例
荻野 隆史萩原 周一小川 哲史大高 行博増渕 裕朗神戸 将彦大嶋 清宏
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2014 年 25 巻 2 号 p. 75-79

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抄録

症例は74歳の男性。高所作業中(2m30cm)に背部より転落し救急搬送された。来院時のGCS 15点で,血圧 118/75mmHg,心拍数 114/分,O2 10L/分リザーバーマスクでSpO2 99%,Hb 10.5g/dlであった。造影CTでは左血気胸,左多発肋骨骨折があり,骨盤骨折はみられなかったがL1-L5横突起骨折,後腹膜血腫が確認された。左血気胸に対し,28Frのトロッカーを挿入した。 後腹膜血腫に対して血管造影を行い,腰動脈(L1)の枝より数箇所,活動性出血を認めたため経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)を施行し,ICU管理とした。 多発肋骨骨折,横突起骨折に対しバストバンドによる外固定を行った。第2病日のCTで後腹膜血腫の増大,Hbの低下はなく,以降のCTでも後腹膜血腫は縮小した。第3病日に酸素マスク,O2 5L/分で投与中にCO2 ナルコーシス(pH 7.249,PCO2 78.9 mmHg,PO2 41.4mmHg)となり気管挿管を行った。第9病日に血気胸に対し挿入していた左胸腔ドレーンを抜去した。第17病日にCOPD(chronic obstructive pulmonary disease)の既往,気管支喘息発作の頻発,肺炎,無気肺の合併のため気管切開を行った。全身状態は軽快したためリハビリ目的で第43病日に転院となった。 今回,L1-L5横突起骨折のため腰動脈の出血による後腹膜血腫に対しTAEが有効であった症例を経験した。横突起骨折単独であれば保存的加療となることが多く,予後は良好とされるが,多発外傷の一部分症であることも多い。腰椎横突起単独骨折でも腰動脈損傷の合併例が稀にあり,腰動脈出血は致命的となる可能性があるため迅速なTAEの適応と考えられる。

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© 2014 日本救急医学会
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