日本救急医学会雑誌
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くも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮発症因子としての血清ナトリウム異常の重要性
溝端 康光横田 順一朗龍神 秀穂高原 健中島 義和
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2000 年 11 巻 2 号 p. 52-60

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抄録

背景と目的:くも膜下出血に合併する低ナトリウム(Na)血症は,循環血液量の減少を伴い,遅発性脳血管攣縮の一因になるとされている。今回,厳重に輸液管理を行うことにより循環血液量の変動を最小限に押さえることで,血清Na濃度の変動に伴う遅発性脳血管攣縮を回避しうるか否かを検討した。対象と方法:26例の脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者を対象とし,発症後24時間以内に動脈瘤クリッピング手術を施行し,術後は水分バランスをプラスに維持した。発症後2週間目までの脳血流速度,臨床的虚血症状,画像診断の所見をもとに対象をスパズム群(8例)と非スパズム群(18例)の2群に分類し,この間の血清Na濃度と水分・Naバランス,循環血液量の推移を検討した。結果:発症後2週間までの血清Na濃度の最高値と最低値は,非スパズム群では各々146±2.4mEq/l, 137±5.3mEq/lと正常域で推移しているのに対しスパズム群では各々150±8.7mEq/l, 132±10.3mEq/lとその変動が大きく,最低値は非スパズム群に比較し低値であった(p<0.05)。血清Na濃度の上昇時にはスパズム群では高頻度に低張尿が排出されており,尿に自由水を喪失した結果,血清Na濃度が上昇したものと思われた。また,スパズム群の血管攣縮発症に先立ち血清Na濃度が低下していたが,この間の循環血液量の指標としての中心静脈圧,血清蛋白濃度には両群間に差を認めなかった。結論:くも膜下出血後には,水分をプラスバランスに維持するように輸液管理を行っても血清Na濃度が急速に変動する症例があり,このような症例では遅発性脳血管攣縮が合併しやすい。初期の血清Na濃度の上昇はくも膜下出血発症後早期の低張多尿が原因であり,遅発性脳血管攣縮を予防する観点から,低張尿の出現に注意し血清Na濃度の変動を制御することが重要である。

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