日本救急医学会雑誌
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病院外心停止症例における時間的因子の検討
林 靖之平出 敦森田 大明石 浩嗣西原 功速形 俊昭
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2001 年 12 巻 5 号 p. 230-236

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抄録

病院外心停止症例の蘇生にかかわる因子を客観的に評価するために,標準化された様式を用いて地域網羅的に記録集計を行うことの有用性が認識されるようになってきた。しかし,蘇生にかかわる時間的因子の解析は,きわめて重要であるにもかかわらず十分なされているとは言えない。われわれは,国際的に標準化された様式としてUtstein様式を用いて,北摂地域で記録集計を行った結果の概要を,前回本誌にて公表したが,今回,時間的因子に焦点を当てて詳細な分析を行った。北摂地域で1996年11月から1年6か月間における蘇生の対象となった病院外心停止症例は937例であった。一般市民に目撃された心原性の心停止例172例のうち,心拍再開し入院した例は48例であったが,心拍再開までの時間は,ほとんどの例で20分を超えており,これらはすべて死亡した。20分以内に心拍再開した例は3例で,いずれも現場で心拍再開し,救命されて社会復帰した。蘇生対象となった937例において,救急隊の覚知から現場到着までの中央値は約4.5分で,覚知からCPR開始までの時間の中央値は約6.5分であった。初期調律が心室細動であった症例は40例あったにもかかわらず,除細動が実施されたのは27例で,しかも覚知から除細動実施までの時間の中央値は13.5分に達していた。蘇生対象例の覚知から高度救命処置開始までの時間の中央値は,ドクターカー出動例で約20分,非出動例で約22分であった。この結果は,病院外心停止例を救命まで導くためには,心停止から心拍再開までの時間を短縮することがきわめて重要であることを示している。覚知から救急隊の現場到着および蘇生処置開始までの時間は決して長くないが,除細動をはじめとする高度救命処置の開始は著しく遅延しており,今後それらの時間の短縮を目指し,それが予後の改善に結びつくかどうかをデータを蓄積して検証することが必要と考えられた。

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