日本救急医学会雑誌
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MRI像よりみた頭部外傷後の中枢性尿崩症の検討
井上 貴昭廣田 哲也鴻野 公伸岩井 敦志安部 嘉男池内 尚司吉岡 敏治
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キーワード: 頭部外傷, 尿崩症, MRI
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2002 年 13 巻 6 号 p. 303-311

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抄録

頭部外傷後に中枢性尿崩症を来した生存13例について,受傷後12時間以内に尿崩症を発症した早期群5例とそれ以降に発症した遅発群8例に分け,入院時Glasgow Coma Scale (GCS), injury severity score (ISS),退院時Glasgow Outcome Scale (GOS),尿崩症持続期間,尿崩症発症時の頭蓋内圧,経過中の最大頭蓋内圧,およびmagnetic resonance imaging (MRI)像に関して比較検討を行った。頭蓋内圧のコントロールのため,遅発群ではバルビタール療法を要したものが7例,減圧開頭術を要したものが4例あり,5例に低体温療法を施行した。早期群ではバルビタール療法を要したものは2例のみであり,減圧開頭術および低体温療法を施行した症例は1例もなかった。発症時期は早期群7±2時間後,遅発群47±19時間後と約40時間の差を認めた。両群間で入院時GCS, ISS,退院時GOSに有意差を認めなかった。尿崩症持続期間は,遅発群では全例3週間以内であった。しかし早期群では3例に永続的な抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone; ADH)補充療法を要し,他2例の内1例はADH補充療法離脱までに75日間を要した。頭蓋内圧に関しては統計学的有意差を認めなかったが,尿崩症発症時の頭蓋内圧および経過中の最大頭蓋内圧共に遅発群で高い傾向が認められた。早期群のMRI像は全例で視床下部領域の損傷像に加え,びまん性軸索損傷の所見が認められた。しかし,遅発群ではいずれの所見も認められなかった。T1強調画像においてADH分泌顆粒を示すとされる下垂体後葉の高信号域が,遅発群ではいったん消失した後に経時的に再出現するようになったが,早期群では消失したままであった。頭部外傷受傷後きわめて早期に尿崩症を来す生存症例では,びまん性軸索損傷に伴って視床下部に直接損傷を来しており,尿崩症は長期化あるいは永続化すると考えられた。

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