日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
内頸動脈閉塞と中大脳動脈閉塞に対する局所血栓溶解療法の有効性の比較
黒田 雅人奥 憲一瀬戸 孝宏谷崎 かなび吉原 智之安部倉 信
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 14 巻 5 号 p. 231-240

詳細
抄録

近年,脳主幹動脈の急性閉塞症において局所血栓溶解療法が行われ,主に中大脳動脈閉塞症についての有効性が報告されているが,内頸動脈閉塞症においてはその有効性は疑問視されている。しかし一方で,いわゆるwatershed typeの脳血流低下ではなく,中大脳動脈領域全域で脳血流低下をきたすような,側副血行が著しく乏しい内頸動脈閉塞症については,再開通が得られなければ高率に死亡する病態であるにもかかわらず,その治療法が確立していないのが現状である。今回われわれは,当院で過去5年間に行ったalteplaseによる局所血栓溶解療法患者32症例を対象に,内頸動脈閉塞15例と中大脳動脈閉塞17例の2群に分け,その有効性についてretrospectiveに比較検討した。内頸動脈閉塞症では中大脳動脈閉塞症に比べ,xenon-enhanced computed tomographyによって測定した中大脳動脈領域の局所脳血流が低値で,意識障害も重篤であった。局所血栓溶解療法における再開通率や頭蓋内出血率には両群で差を認めないものの,原病死亡(脳死)率は60%と18%,合併症死を含めた院内死亡率は80%と41%で,ともに内頸動脈閉塞症で高率であった。一方,局所血栓溶解療法によって再開通が得られ,頭蓋内出血を起こさなかった治療結果良好群と,再開通が得られなかった,もしくは頭蓋内出血を引き起こした治療結果不良群とに分けて検討したところ,内頸動脈閉塞症においてのみ治療結果が原病死亡率に直接影響を与えていることが示された。側副血行が不良な内頸動脈閉塞症は脳血流低下や意識障害の程度,および転帰において中大脳動脈閉塞症より重篤な病態である。局所血栓溶解療法の治療結果と転帰に相関が認められたのは現時点では前者においてのみであり,今後も本療法の適応病態についての詳細な検討が必要であると考えられた。

著者関連情報
© 日本救急医学会
次の記事
feedback
Top