抄録
症例は54歳の男性。既往歴は44歳時に外傷性小腸穿孔のため手術施行。48歳時より発作性心房細動にて内服治療中であった。2002年6月午前11時頃,作業場で小型重機運転中に横転し,一時的に小型重機の下敷きとなった。その際,操作レバーにて上腹部を強打し,上腹部激痛を主訴に午前11時45分当院へ救急搬送された。来院時は意識清明,血圧130/80mmHg,脈拍70/min・整であり,顔面は苦悶状でやや蒼白であった。腹部は剣状突起下でゴルフボール大の隆起を認め,自発痛・圧痛は著明であった。腹部造影CTで,胃の背側に多量の液体貯留像を認めるとともに,胃前庭部背側で造影剤の血管外漏出像を認めた。短時間のうちにショック状態となったため,来院2時間後に緊急開腹術を施行したところ,上腹部の腹直筋筋膜は断裂し,皮下に一部大網の脱出を認めた。網嚢内に大量の血腫と右胃動脈からの出血を認めたため右胃動脈を結紮止血した。術後経過としては,再出血などの合併症は認めず,第14病日に退院した。腹部鈍的外傷による右胃動脈単独損傷が原因の稀有な腹腔内出血を経験したので報告する。