抄録
本研究の目的は,脳死後長期間にわたり循環を維持した際の造血能を検討することである。対象は外出血のない単独頭部外傷に起因する脳死例で,血液像の変化とともにエリスロポエチン,骨髄像を検討した。なお,脳死後の循環はarginine vasopressin(以下ADHと略す)とcatecholamine(以下CAと略す)で平均21.6±15.0日間維持した。Hb値は脳死前に比べ約4g/dlの低下が認められ,その後も低値のままで推移した。エリスロポエチン値は平均50.2±19.4mU/mlと正常より高値であり,他の原因による貧血患者とほぼ同等の分泌が認められた。網状赤血球数は脳死後第20病日までは(8.8±4.3)×104/mm3とあまり増加しないものの,第21病日以降には(25.5±14.6)×104/mm3と著しく増加した。一方,赤血球より産生反応が早い血小板は,脳死後いったん低下するものの,脳死後第10病日には脳死前値にまで回復し,その後正常以上となった。骨髄像では肺炎像を呈した感染群と非感染群のうち,脳死後1週間以内施行群で骨髄球が有意に増加していた。成熟した分節核球は感染群と非感染群の脳死後1週間以降群で有意な増生を認めた。脳死後の循環維持のために,脳死直後に2,000ml/day以上の体液負荷がなされており,この希釈性因子と赤血球産生反応に時間を要することが脳死後の貧血持続の原因と考えられた。以上より,脳死患者の骨髄機能は正常に保たれていると結論した。