日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
脳挫傷を伴う急性硬膜下血腫の治療
極小開頭・血腫洗浄除去療法の再評価
有賀 徹坂本 哲也佐々木 勝三井 香児前川 和彦
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 5 巻 1 号 p. 15-25

詳細
抄録
急性硬膜下血腫に合併する脳実質病変には,脳挫傷,びまん性軸索損傷等の一次的脳損傷,二次的な脳浮腫,脳腫脹,またこれらによるhypoxic~ischemic damage等が含まれる。そこで,このような脳実質病変を合併した急性硬膜下血腫120例に対して,極小開頭・血腫洗浄除去療法(68例)と広範囲減圧開頭術(52例)を行い,合併するびまん性脳損傷の病態と治療選択について総括した。症例はすべて15歳以上で,他の頭蓋内血腫合併症および上記の脳実質病変を伴わない急性硬膜下血腫の症例は除外した。2つの治療法のうち,前者は頭蓋内圧制御の目的で積極的にbarbiturate療法を導入するもので,びまん性脳損傷に対する保存的治療がその主旨であり,後者は外科的に減圧処置を行うものである。生存・死亡にみる治療成績は,Japan coma scale(以下JCSと略す)にて3~20および300の症例については両治療法で差はなかったが,JCS 30~200の症例では統計学的に有意の差をもって後者が勝っていた。また,前者の治療成績を諸家の報告とあわせ考察した結果,急性硬膜下血腫に伴う脳実質病変はびまん性脳損傷のうちで最も重症度の高いclinical entityとみなすべき病態であることが示唆された。したがって,JCS 30~200の重症度を示す本病態に対してはまず広範囲減圧開頭術を行い,必要に応じてbarbiturate療法を導入する方法が最良であったが,真に治療法の選択に解決を得るには合併する二次的損傷の諸々の要素への経時的,分析的把握が必要であり,そのような手法は現時点において得られていない。一方,患者の搬入から治療の開始まできわめて限られた時間的余裕しか許されない,また手術室への搬入に時間的制約が避けられない場面がしばしばあり得る。そこで今後においては,可及的速やかにemergency trephinationとして極小開頭・血腫洗浄除去療法を行い,しかる後に頭蓋内圧の推移によってbarbiturate療法,広範囲減圧開頭術を行う治療戦略が有力である。
著者関連情報
© 日本救急医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top