日本救急医学会雑誌
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鼻骨骨折の急性期手術
新しい整復用鉗子とキルシュナー鋼線固定について
豐田 徳雄西本 孝加藤 康之大野 正博福本 仁志冨士原 彰田嶋 定夫
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1995 年 6 巻 3 号 p. 233-239

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抄録

鼻骨骨折は顔面骨骨折の約半数を占める頻度の高い骨折のひとつとされている。鼻骨骨折による変形は,顔面の中央に位置するため比較的軽微な変形でも患者に与える心理的苦痛は大きく,救急の現場での的確な診断と適切な初期治療が不可欠と思われる。しかしながら,鼻骨整復用に広く使用されているアッシュ型鉗子は平面で作用するため鼻背部湾曲面の整復には適さず,鞍鼻の矯正時にも新たな粘膜損傷を来したり,骨片間に鼻粘膜を嵌頓させて術後変形の原因となることがある。また整復後の内固定として鼻腔内タンポンを挿入するのは多発外傷などで呼吸器系に障害のある症例や顎間固定を行う症例の急性期にはリスクを伴う。目的・方法:われわれはアッシュ型鉗子のこれらの欠点を補う目的で改良を加え,(1)鞍鼻整復時に粘膜損傷を来さないよう一辺を鈍にした鼻中隔整復用鉗子と,(2)作用面を鼻背部の湾曲に添わせた曲面を有する鼻骨整復用鉗子の2種類の鉗子を作成し,鼻骨骨折整復術に使用した。整復術後は鼻呼吸を障害しない方法として,太さ1.2mmのキルシュナー鋼線を鼻背部皮膚外から上顎骨に向かって,鼻骨を裏面から支えるように刺入して内固定とした。結果:鞍鼻の整復に鼻中隔整復用鉗子を用いたところ鼻骨裏面にも作用点が及ぶため,鼻高の再建ばかりでなく鼻稜の形態を整えることも容易であった。鼻骨の整復においては鼻背部曲率に個体差と左右差があるものの,左右の鼻骨に異なる形状をもった鉗子を必要とせず,また症例によっても鉗子の曲率を変える必要はなかった。整復術後のキルシュナー鋼線による内固定は,刺入方向と深さを工夫することにより上顎骨に粉砕骨折があっても2~3本の鋼線で十分な固定性を得ることができ,術後出血がおさまった後に鼻呼吸を障害したと思われる例はなかった。

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