抄録
小腸と好中球は成人型呼吸促迫症候群,多臓器不全の発症に深く関与していると考えられている。これらの疾患は重篤な外傷やショックに引き続き,直ちに出現することもあるが,臨床的には続発する感染症が引き金となり,数日後に出現してくることが多い。そこで今回われわれは,小腸虚血・再灌流(ischemia/reperfusion; I/R)は生体の炎症反応システムをプライミング状態にし,さらにそこにsecond hitが加わると遠隔臓器障害が発生する,という仮説をたてた。最初の実験ではラットに45分の上腸間膜動脈血行遮断を行い,再灌流6時間後に少量のエンドトキシン(2.5mg/kg, i.p.)を投与した。コントロールには,開腹操作のみ(laparotomy; Lap)を行った後でエンドトキシンを投与したグループと,I/Rを行った後で生食を投与したグループを用いた。するとtwo hitグループのみが再灌流18時間後に高度な肺障害(125I-アルブミン肺・血液比で測定)と高死亡率(39%)を呈した。つぎの実験では45分の小腸虚血,6時間の再灌流が肺,好中球にどのような影響を与えるか検討するために,正常ラットおよびビンブラスチン前投与で好中球を枯渇させたラットにI/Rを行い,肺障害の程度,肺内に集積する好中球数(肺ミエロペロキシダーゼ活性),循環血液中好中球のプライミング状態(fMLP存在下でのスーパーオキサイド産生量)を検査した。I/R(45分/6時間)は軽度な肺血管透過性の亢進を示したが,これはビンブラスチン前処置で予防された。一方,I/R, Lapは共に肺内に好中球を集積したが,I/Rのみが好中球のプライミングを惹起した。以上の結果より,比較的短時間の小腸虚血は好中球,肺組織,宿主のプライミングを引き起こし,そこにsecond attackとして少量のエンドトキシンが投与されただけで高度な肺障害が誘発され,致死的な状態に陥ることが示唆された。