日本救急医学会雑誌
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軽度~中等度の意識障害を伴う高齢者頭部外傷の検討
林 龍男安達 茂樹間 淑郎松沢 源志関野 宏明坂本 辰夫
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1996 年 7 巻 8 号 p. 373-378

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抄録

意識障害がGCS9-14で入院した68例の頭部外傷患者を,70歳以上の高齢者群21例と69歳以下の非高齢者群47例に分け検討した。CT所見は高齢者群では,非高齢者群に比べ頭部外傷初期から脳損傷を伴う例が多く,21例中19例が初回CTにて急性硬膜下血腫,脳挫傷などの脳損傷を伴っていた。転帰をみると,非高齢者群では91.5%が転帰良好であったのに対し,高齢者群では転帰良好例はわずか9例(42.9%)であり,4例が高度の神経機能障害を残し,8例が死亡と57.1%が転帰不良であった。死亡原因は8例中3例がtalk and deteriorateの結果で,5例が肺炎などの炎症であった。高齢者では脳組織の脆弱性と脳萎縮による頭蓋内free spaceの増大のために軽度の頭部外傷でも外傷直後より脳挫傷を合併する頻度が若年者に比べ高い。そしてこの脳挫傷が基盤となり外傷後24時間以内に脳挫傷が増悪し,外傷性脳内血腫が招来され,頭蓋内圧亢進の結果talk and deteriorateの状態に陥る。また高齢者では遷延する軽度の意識障害でも経口摂取不能による栄養障害が発現し,老化による全身臓器の予備機能障害と相俟って,容易に肺炎などの合併症が招来される。したがって高齢者の頭部外傷の管理にあたっては,受傷24時間以内ではたとえ意識障害が軽度でも脳挫傷や頭蓋内血腫の発現,増悪の可能性を考慮し経時的なCTによる頭蓋内の観察,さらに慢性期においては長期にわたる体位交換,栄養,呼吸循環動態などに対する細かな注意が重要である。

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