日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
7 巻, 8 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 林 龍男, 安達 茂樹, 間 淑郎, 松沢 源志, 関野 宏明, 坂本 辰夫
    1996 年 7 巻 8 号 p. 373-378
    発行日: 1996/08/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    意識障害がGCS9-14で入院した68例の頭部外傷患者を,70歳以上の高齢者群21例と69歳以下の非高齢者群47例に分け検討した。CT所見は高齢者群では,非高齢者群に比べ頭部外傷初期から脳損傷を伴う例が多く,21例中19例が初回CTにて急性硬膜下血腫,脳挫傷などの脳損傷を伴っていた。転帰をみると,非高齢者群では91.5%が転帰良好であったのに対し,高齢者群では転帰良好例はわずか9例(42.9%)であり,4例が高度の神経機能障害を残し,8例が死亡と57.1%が転帰不良であった。死亡原因は8例中3例がtalk and deteriorateの結果で,5例が肺炎などの炎症であった。高齢者では脳組織の脆弱性と脳萎縮による頭蓋内free spaceの増大のために軽度の頭部外傷でも外傷直後より脳挫傷を合併する頻度が若年者に比べ高い。そしてこの脳挫傷が基盤となり外傷後24時間以内に脳挫傷が増悪し,外傷性脳内血腫が招来され,頭蓋内圧亢進の結果talk and deteriorateの状態に陥る。また高齢者では遷延する軽度の意識障害でも経口摂取不能による栄養障害が発現し,老化による全身臓器の予備機能障害と相俟って,容易に肺炎などの合併症が招来される。したがって高齢者の頭部外傷の管理にあたっては,受傷24時間以内ではたとえ意識障害が軽度でも脳挫傷や頭蓋内血腫の発現,増悪の可能性を考慮し経時的なCTによる頭蓋内の観察,さらに慢性期においては長期にわたる体位交換,栄養,呼吸循環動態などに対する細かな注意が重要である。
  • 奥地 一夫, 藤岡 政行, 藤川 朗, 西村 章, 小延 俊文, 宮本 誠司, 榊 寿右
    1996 年 7 巻 8 号 p. 379-386
    発行日: 1996/08/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    クモ膜下出血(subarachnoid hemorrhage: SAH)発症から専門的救急医療機関に搬入までの時間はさまざまであるが,再出血の危険性の高い4時間以内の病態の理解は重要であると考えられる。今回これら早期搬入患者をより早く搬入された1時間以内の患者群と1時間から4時間までの患者群に分類し,予後および再出血の頻度ついて検討した。対象は2年間に経験したSAH発症後4時間以内に当科に搬入された28例で,これらを発症から搬入までの時間が1時間以内の超早期搬入群(UE群)の13例と1時間から4時間までの早期搬入群(E群)15例の2群に分けて検討を行った。両群の来院時のHunt & Kosnik gradeはほぼ等しい分布を示したが,GOSで評価した予後はUE群でE群に比して有意に良好であった(p<0.05)。この理由としてUE群の平均年齢が若年(p<0.05)であるということ,またUE群では早期に鎮静剤の持続投与を受けることが可能で術前の大部分の時間が鎮静状態にあるため再出血の頻度が低く,これに対してE群では再出血が5例に生じており,再出血の頻度の差が予後に大きな影響を与えたと考えられた。また,来院までに要した時間に関係なく降圧を持続的に施行した症例(C群:18例)と間欠的に施行した症例(I群:10例)において,搬入後の再出血の発生頻度はC群で有意に少なく(p<0.05),持続法が再出血防止に間欠法より優れていた。以上のことより,SAHの予後向上のためには発症から専門的救急医療施設への搬入までの所要時間の短縮と専門外の医療施設でSAHを診断したときは,直ちに持続鎮静と降圧を行って転送することが重要と考えられた。
  • 柳瀬 治, 本宮 武司, 徳安 良紀, 桜田 春水, 野村 周三, 手島 保, 森本 理
    1996 年 7 巻 8 号 p. 387-394
    発行日: 1996/08/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    ショックを伴う急性肺塞栓症の臨床像と短期予後を検討した。対象は1980年12月から1995年4月の間に当院に入院し,臨床経過ならびに肺動脈造影,肺血流シンチグラム,剖検のいずれかにて急性肺塞栓症と診断された連続96例(男性51例,女性45例,平均年齢59±12歳)である。ショックを収縮期血圧70mmHg未満と定義し,入院経過中のショックの有無から対象をショック群(A群;22例)と非ショック群(B群;74例)とに分け,臨床像および短期予後を比較検討した。両群の大多数が素因を有し,院内発症はA群の64%, B群の5%に認められた。初発主症状はA群では安静時呼吸困難が54%と最多で,失神および心肺停止がそれぞれ23%であった。B群では胸痛が43%と多く,次いで労作時呼吸困難が22%,安静時呼吸困難が15%にみられ,失神は5%であった。心電図所見ではA群においてB群に比し高率に完全または不完全右脚ブロック,SIQIIITIIIパターンおよびV1~V3の陰性T波が認められた。断層心エコー図上はA群の100%, B群の43%に右室拡大を認め,この所見を呈した症例はすべて広範性肺塞栓症であった。さらにA群で高率に右室自由壁運動の著明な低下を認めた。A群におけるショックは22例中18例(82%)で発症時または発症後30分以内に生じ,2例では第2~3病日に再塞栓に伴って生じたと思われた。A群の73%, B群の53%に線溶療法が施行されたが,線溶療法非施行5例を含むA群の15例(68%)が死亡した。以上の結果から,ショックを伴う急性肺塞栓症の短期予後は不良であり,静脈血栓塞栓症の危険因子保有者における予防的処置が重要と考えられた。また,断層心エコー図は広範性肺塞栓症による右室負荷を鋭敏に検出でき,発症早期に活用すべき検査法と思われた。
  • 丹正 勝久, 島 敦之, 岩田 光正, 富田 凉一, 黒須 康彦
    1996 年 7 巻 8 号 p. 395-400
    発行日: 1996/08/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    われわれは過去に,単球の誘導型nitric oxide合成酵素(inducible nitric oxide synthase; iNOS)によって産生される多量のnitric oxide (NO)が組織傷害性に作用し得ることを報告した。iNOSは各種サイトカインやlipopolysaccharide (LPS)によって誘導されることが知られているが,その機序は不明である。今回われわれは,in vitroで健常成人培養単球をinterferon (IFN) γおよびLPSで刺激し,iNOS messenger RNA (iNOSmRNA)発現の有無についてreverse transcription-polimerase chain reaction (RT-PCR)法を用いて検討するとともに,単球培養上清NO2値の測定を試みた(Griess法)。さらに代表的な炎症性サイトカインであるtumor necrosis factor (TNF) αのiNOS発現への関与を明確にするため,抗TNFαモノクロナール抗体を用いてiNOSmRNA発現が抑制されるか否かを検索し,また単球培養上清NO2値が変化するかどうかについて検討した。RT-PCR法に用いたprimerはhuman hepatocyte iNOSmRNAの塩基配列をもとに作成した。結果は,IFNγおよびLPSで刺激した培養単球には明瞭なiNOSmRNA発現を認め,単球培養上清のNO2値は高値を示した。これに対し,抗TNFαモノクロナール抗体を添加するとiNOSmRNA発現は著明に抑制され,また培養上清のNO2値は有意に低下した。以上より,ヒト単球においてIFNγ+LPSの刺激によりiNOS誘導に基づいたNO産生が行われることが推察される。さらに,このiNOS誘導はIFNγ+LPSの直接刺激ではなく,これらの刺激により単球で産生されるTNFαがautocrine的に単球を刺激しiNOSを誘導するものと考えられる。
  • 矢埜 正実, 辛島 誠一郎, 押川 秀次, 新宮 世三
    1996 年 7 巻 8 号 p. 401-406
    発行日: 1996/08/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    HLA antibodies have been implicated in the production of transfusion-related acute lung injury (TRALI). A 35-year-old man with hemorrhagic gastric ulcer was given three units of concentrated red cells (CRC) by transfusion. At the end of the third CRC transfusion, the patient developed dyspnea and shock. PaO2 was 34.1mmHg with oxygen delivered at 3l/min by face mask. Chest X-ray showed diffuse infiltration of both lung fields. The lowest PaO2/FIO2 ratio was 138. TRALI was dramatically improved by high PEEP. Therefore, he could be weaned from the ventilator on the fourth hospital day. Serological studies demonstrated the recipient's HLA type to be A (2, 24), B (52, 61) and Cw (-, -), and serum from one of three donors had a high titer (64 times) of HLA antibodies (B52). Cross match of the donor serum and recipient lymphocytes and platelets yielded the following results; lymphocyte toxicity test (LCT) indicated strong positivity, the mixed passive hemagglutination (MPHA) method was positive and the MPHA method with chloroquine was negative. The donor was a multiparous, having delivered three children. We are convinced that this TRALI was caused by anti-HLA antibody in CRC.
feedback
Top