2022 年 31 巻 2 号 p. 163-170
癌既発症者におけるHBOC 診療の一部は保険収載されたが,癌未発症者においては全て保険未収載のままである。しかし癌の既発症,未発症者に関わらず,HBOC と診断された場合,サーベイランス等の医学介入につながり,癌の一次・二次予防という観点から,その医学的メリットは大きい。本調査では,当院にてBRCA 1/2 遺伝学的検査を受検した癌発症者と,その血縁者への遺伝医療について診療記録を後方視的に分析,遺伝カウンセリング(GC)記録も加え,癌未発症BRCA 1/2病的バリアント保持者への対応に関して課題を抽出し考察を行った。2020年度,当院にて新たにHBOC と診断されたHBOC 関連癌既発症者は89名であり,うち87名がGC に来談した。この87名の家系のうち28名の家系における癌未発症血縁者36名がGC での説明後,遺伝学的検査へと進み,2名(男性3名,女性9名)がHBOC と診断された。女性9名中8名が乳腺外科等でのサーベイランスを開始し,1名は今後の検査について検討中である。癌未発症BRCA 1/2 病的バリアント保持女性の多くは,継続的なサーベイランスやリスク低減手術への,保険未収載ゆえの経済的負担を感じつつも,自身の癌リスクを知り,対策を取ることに対する意義を理解していることがGC 記録から推察された。遺伝医療ではどのような選択も尊重されるべきではあるが,その前提として,癌発症者と未発症者には,同程度の医療制度上のサポートと適切な情報提供が必要であると考える。