日本乳癌検診学会誌
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乳癌集検に適するモダリティ
飯沼 武植野 映大内 憲明
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1995 年 4 巻 2 号 p. 159-170

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抄録

植野 映
筑波大学臨床医学系外科
乳癌の集団検診は本邦においても奨励されてきたが, どの形式が合理的かは定まっていないことから, 乳癌の検診システムを探る目的で1985年より茨城県メディカルセンターにて乳房検診の受診者全員に視触診, マンモグラフィ, 超音波検査を施行し, 比較検討してきた。
[対象と方法] 茨城県メディカルセンターにて人間ドックの一環として乳房検診を受けた女性を対象とした。受診者のほぼ全員は乳癌の症状に対しては無自覚である。1日での検診者は約30人とした。一次検診として視触診 (PE), マンモグラフィ (MMG), 超音波検査 (US) を全受診者に対して行った。マンモグラフィ診断装置はセノグラフィ500Tを使用した。40歳以上は隔年撮影とした。撮影は斜位1方向のみである。超音波検査にはメカニカルセクタスキャナ, 周波数7.5MHzと10.0MHzを使用し, 各検診時受診者全員に施行した。また, 超音波検査は臨床検査技師が施行し, 有所見の場合にはインスタント写真に記録し, その後に1人につき40秒間の長さにビデオテープに録画した。その後, 乳癌専門の医師が所属リンパ節の触診と乳房の視診を行い, マンモグラムの読影を行った後に仰臥位にて乳房を触診しつつ録画した超音波画像を読影した。所見があれば, 必要に応じて適宜, マンモグラムの拡大読影, 医師による超音波検査, 細胞診等を追加した。
各種検査の判定は (1) 異常所見なし, (2) 良性疾患, (3) 悪性を否定できない, (4) 癌または癌の疑い, の4段階に分類して検討した。検出率および感度を計算するには “悪性を否定できない” と “癌または癌の疑い” を癌の検出として求めた。また, 財政的な検討も併せて行った。これは各診断法の患者負担で癌1症例を発見するのに必要な経費を概算した。自己負担費は視触診 : 2,000円, マンモグラフィ : 2,000円, 超音波検査 : 3,000円とした。マンモグラフィは隔年の撮影であるので正確な撮影枚数を計算するには困難を極めるため, 繰返し受診者の半数がマンモグラフィを撮影したとして計算した。
[結果ならびに考察] 受診者総数は繰返し受診者を含めて9,939名であった。初診者数は5,142名, 繰返し受診者数は4,797名で, その間に確認された乳癌総数は27例であり, 検出乳癌は22例, 検出率0.22%であった。19例は初回に検出され, 3例が繰返し検診の中で検出された。老人保健法における乳癌の検出率は0.06~0.12%で全国平均0.07% (1992年) である。本検診ではその検出率の3倍の成績を記録した。米国の乳癌発生率が本邦の3.7倍であることを考慮するとこの値は米国では0.81%にあたり, BCDDPの検出率0.4%より良好と思われる。施設検診の成績はどの施設も良好であるが, それは乳癌の症状を自覚した受診者が多いためといわれている。本検診は人間ドックの一環として施行されており, 施設検診での検出率を高める有症状者はいない。また, 早期乳癌の比率は81.8%であった。老健法では早期乳癌の比率は40~50%であり, 本検診は現在まで施行されたいかなる検診よりも早期乳癌の占める割合は高く, 精度が非常に高いと考えられる。したがって, 本検診は将来の乳癌検診ならびに集団検診のシステムを考察するには十分な成績と考えられた。感度は視触診33.3%, マンモグラフィ51.9%, 超音波55.6%であった。非触知乳癌ではマンモグラフィの感度が高い。しかしながら, 浸潤癌の成績は不良であった。超音波検査は浸潤癌を検出するのを得意とし, 78.6%の浸潤癌は超音波にてとらえた。
すべてを網羅する検査法はなく, それぞれの検査単独にて検出される乳癌がある。それらの相互関係をみると3種ともに異常を認めたのは14.8%のみである。視触診のみが検出したのは異常乳頭分泌を示す1例であり, 超音波のみは4例14.8%, マンモグラフィは6例22.2%であった。超音波検査は視触診をほぼ網羅した。マンモグラフィはそれとは対照的に視触診にて検出されない非触知乳癌を数多く検出した。それらの症例はすべて微細石灰化巣にて描出される極めて早期の乳癌であった。超音波検査とマンモグラフィで検出される乳癌の重なりは少なく, 両検査にてともに所見の得られたのは7例25.9%であった。3種の検査の併用では81.5%の感度であるが, MMG+USでも77.8%と高率であった。これは3種併用により検出される乳癌の91.4%にあたる。その他, PE+MMG66.7%, PE+US59.3%であった。
経済的な側面からも検討を行った。乳癌検診初診者数は5,142人, 繰返し受診者数は4,797人であり, 総費用は64,776,000円である。検出乳癌は22人であるので, 1人の乳癌を検出する費用は2,944,367円となった。同様にして, 各組合せにおける癌1症例を検出するに必要な経費を算出するとマンモグラフィ単独では乳癌1例を検出するに116万円と最も経済的効率が良い。次に効率の高いのはPE+MMGの194万円, 超音波検査単独の199万円である。

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