本稿の目的は,2018年3月30日に企業会計基準委員会から公表された企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」において,顧客と約束した対価に「変動対価」が含まれる取引の簿記処理について,簿記教育上の観点から分析を行うことである。具体的には,基準第29号と同時に公表された企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」において示された[設例2]を素材として,これまで商業高校および大学において教育されてきた収益認識に関する簿記処理が変化するか否か,変化するとすればどのように変化するか,その変化に対して簿記教育者はどのように対応していくべきかを考察する。その結果,顧客と約束した対価に「変動対価」が含まれる場合,記帳される金額の基礎となる「取引価格」は見積りの要素(最頻値あるいは期待値)を含むことになり,従来の帳簿組織・記帳方法も大きく変化する可能性があることがわかった。